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第20話 グリフォン軍の回収部隊が飛ぶ

 ガルマハザードが回収部隊に顔を見せた時、部隊長は露骨に嫌な顔をした。


 ガルマハザードと衝突したことは一度や二度ではない。 

 しかし、ガルマハザードは部隊長の近くへ行くと素直に頭を下げて、これまでの事を謝罪し、命令に従うと約束した。


 部隊長にとってこれは意外だった。

 あのガルマハザードがこんなことをするとは思ってもみなかった。

 何故か分からないが、軍上層がうまくガルマハザードを抑え込んだのだろう。

 

――これなら足を引っ張ることはないかもしれない。


 しばらくすると、情報局主任シェルドミルからの書簡が届く。

 内容を確認することで、ガルマハザードとシェルドミルにどういう会話があったのかを理解した。信じられないような内容ではあるが。


 書面にはシェルドミルからの指示がある。ガルマハザードを副隊長に任命してあるが、〝命令権は与えなくてよい〟とのことだった。

 情報局主任シェルドミルは頭が切れる。副隊長という餌をぶら下げて、ガルマハザードの自尊心を満たしつつ、実質的にはただの一般兵として使うつもりなのだ。


 シェルドミルに従って行動するのが一番いい。

 奴は戦略家に向いている。

 そう思って書類を魔法で燃やした。


************


 作戦開始時間になった。


 部隊長は回収部隊に出撃命令を下す。

 一斉に51体のグリフォンが上空へ飛んでいく。

 一緒に大きな鉄格子も持っている。中には下位種の信号獣が15体ほど入っていた。

 本来、この鉄格子は敵を捕獲して持ち帰るためのものだが、今回は信号獣の移動用の容器の役目を果たしていた。高速で飛行した場合、鉄格子の方が空気抵抗は少ないので、持ち運びしやすい。

 回収部隊員は皆黙っている。


 51体を6隊に分け移動する。やや高い上空を飛ぶ部隊と、低空を飛ぶ部隊に分けていた。もし、どちらかが狙われてもすぐにどちらかがカバーできる陣形だ。


 部隊長はずっと周囲を警戒していたが、とりあえずおかしな動きは無い。

 あのワルエルド隊が撃破されている以上、50体であっても仮に敵が襲ってくれば死者は出るだろう。

 今回の回収部隊に志願しないグリフォン兵もそれなりにいた。死ぬリスクがそれなりに高いからだ。


 グリフォン軍には過去の大戦時から得た教訓がある。

 それは2:6:2の法則である。

 2割が優秀、6割が普通、最後の2割は役立たず。今回の回収部隊に志願しなかったのは約4割だった。

 〝いつの時代も役に立たない者はいる〟

 そんなことが一瞬頭をよぎったが、任務に集中する。


 部隊長の自分が余計なことを考えていてはいけない。

 部下を死なせるわけにはいかない。


 目を凝らしてみると、既に人の街が遠くに見えるようになってきた。

 信号で全員に警戒態勢を強化するように連絡する。

 相手に悟られないように魔力の放出を抑え、大気を揺らさないように高速で飛ぶ。

 いつも軍で訓練している基礎だから、どの隊員も完璧にこなしている。


 ワルエルドは、まさかカルサーンを出てすぐ戦うとは思っていなくて、撃破されたのかもしれないが、このレベルの警戒態勢なら、そうそう負けない。

 そう思って人族の街へ飛んで行った。


 人族の街の周囲は荒野だ。敵はあえて見通しのいい場所に首を置いて、狙い撃ちにしてくる可能性がある。

 首はここからでももう十分に見える。

 来るか?


 流石に隊全体に緊張が走るのが分かった。

 速度を落として、低空飛行していた部隊が3つ。

 上空でも同じように、3隊。

 このうち低空飛行していた部隊3つのうち、1つだけが

 首の置いてあるところに着陸した。


 6体のグリフォンが、地面に近づいて首を確認する。

 いずれも腐敗が進み、一部は野生動物に食われていた。

 

 素早く首7個を冷凍回収して、同時に窪地に落ちているというグリフォンの死骸もまた冷凍回収する。

 冷凍したのは首に何か仕掛けがあった場合に、魔法を起動させないためだ。

 急速冷凍すれば魔法回路を一時的に麻痺させることはできる。


 冷凍から回収の作業を機械的に行う。

 感傷に浸っている場合ではない。何があるか分からない。

 首の回収を確認してから鉄格子を開放し、そこから下位種の信号獣を人の街の周囲に解き放つ。

 敵が仕掛けてくるなら、首等を回収した時点で仕掛けてくるはずだが、それをしなかったわけで、今なら獣の下位種を放っても下位種は殺されないだろう、というシェルドミルの作戦通りの行動をする。


 信号獣達は、鉄格子が開くなり、一気に定められた地点へ向かって走って行った。


 また、帰還時の負荷軽減を考えて、鉄格子はそのまま放置する。


 全ての作業が終わると、グリフォン部隊全員はそこから一斉に上空へ飛びあがった。

 全隊員が一気に天をめがけて、加速する。

 かなり高いところまで上昇した。

 この段階で部隊は横に折れ、もう一度カルサーンへ向けて今度も高速で飛び続けた。


********************


 情報局主任シェルドミルはカルサーンの前で、大勢のグリフォン兵と回収部隊が帰還するのを待っていた。


 今回の作戦途中では、グリフォンの信号で状況を報告させることをしなかった。

 通信するための信号に気を取られて、命取りになることがあり得たからだ。

 今回のグリフォン部隊ならもう帰ってきてもいい時刻になっていた。

 隠密作戦用の薬まで使っているので、どこに気配があるのか分からない。

 回収部隊がこちらへギリギリに近づくまでこちらも気づけないだろう。


 そう思った次の瞬間だった。回収部隊が見えてきた。

 情報局主任シェルドミルは集中して生存数を確認する。

 1、2、3、……。


 いる。


 51体全て残存している。

 部隊に損傷はない。


 すぐにこの段階で、後ろにいた兵士達に臨戦態勢を取らせて宙に飛び上がらせる。

 この段階ならもう敵の奇襲はあり得ないとは思うが、一応警戒させた。

 51体を守りつつ、都市内へ撤収する必要がある。

 51体のグリフォンが都市内部に戻っていくのを確認してから、シェルドミルの部隊も都市へ戻っていった。


********************


 回収部隊長は情報局主任シェルドミルに報告する。


「任務完了致しました」


「お疲れさまでした。全員ご苦労様でした。首に関してはすぐに死骸解剖に回してください。情報の収集が急がれます」


 そういうと、複数の隊員が首を解剖室へ持って行った。

 ガルマハザードがこちらへやってくる。

 シェルドミルは少し笑って声を掛ける。


「お疲れさまでした。作戦の成功感謝いたします」


 ガルマハザードはその言葉を聞いても、無表情で〝ああ〟とだけ軽く答えてその場を後にした。


 シェルドミルは部隊長と一緒にすぐに執務室へ戻る。

 二人は席に座る。


「途中で何かあると思ったが、思ったより拍子抜けだった。まさかこんなに簡単にうまくいくとは思わなかった」


「ええ、私も驚いています。まさか、これほど何も無いとは。グリフォン本国も全く襲われる気配がありませんでした」


「どういうことだ? 何故敵は襲ってこない?」


「それについてはいくつか仮説が考えられます。解剖が終わり次第、その仮説をあなたには伝えて、またすぐに次の命令に移ると思います。解剖が終わるまでは少し休んでいてください」


「いや、休養はいい。久しぶりの実戦だ。不謹慎だが面白い。正直楽しくて休む気にならない。この緊張感のままでいたい」


 隊長は無表情ながら、そう言った。

 シェルドミルはそれに返答もせず、今考えていることを書類に書き記し始めた。


********************


 回収された首の検死結果は、検死解剖の二時間後にシェルドミルに伝えられた。

 補佐官とともにその資料を見る。

 首内部に敵からのメッセージがあると思ったがそんなことは無かった。解剖された首の内部に、犯人が何か魔法による仕掛けをしているわけでもなかった。いずれの首も単に切られただけであった。腐敗と動物による食い散らかしの跡は見られたが、何かのメッセージがあるわけではない。


 少し分からなくなってきた。


「おかしいですね。今回の回収作戦で、犯人達はグリフォン軍をあそこにおびき寄せたのに、それを襲撃するわけではない。また、何か首に仕掛けがある可能性が高かったのですが、それもない。あの現場に、何か大掛かりな魔法陣の仕掛けがあるのかと思ったがそうでもない。おびき寄せたグリフォン軍に、犯人達は気づいていたはずですが、一体犯人は何を考えているのでしょうねぇ……」


 流石にシェルドミルも思考が止まる。

 すると、補佐官の通信板に連絡が入った。


「人の街の傍受に成功いたしました」


 シェルドミルは返答しない。

 補佐官は続ける。


「人族の街では魔族と人族のエルフ種代表であるキエティが婚姻契約を結んだようです」


 シェルドミルは顔を動かさずに、目だけを補佐官に向ける。

 じっと補佐官を見続ける。


 少し経ってから、補佐官に質問をした。


「他に何か情報はありますか?」


「いえ、他に何か目ぼしい情報はありません。ただ、ここしばらく人の街はこの話題で持ちきりのようです。民衆は歓喜に沸いているようですね。当該魔族とエルフの画像はこちらになります」


 そう言って補佐官は二人の顔をシェルドミルが確認しやすいように通信板を動かす。

 そこには魔族とエルフの模写が描かれていた。

 現時点で、あの地域では魔力障害のため通信板が機能しない。そこで、信号獣のなかで画像転送能力に優れた種も派遣しており、その信号によって得られた情報を模写したものだった。

 シェルドミルはその画像を一瞥して、から、フンと鼻を鳴らして、首を動して天井を見つめる。


 しばらくして補佐官が質問した。


「次はどうしますか?」


「人族の〝街〟に、この魔族とエルフの出頭命令を出します」


 シェルドミルは即答した。

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