第18話 女エルフの投球術
キエティはカズマサに言われた内容について考えていた。
そうなのだ。
たしかに私が現在、人族の中ではゼムドと接触した時間が一番長い。
私が行動しなければいけないのだろうか?
しかし抵抗がある。
私じゃない他の女性でゼムドを従わせることが可能なら、その方がいい。
ただ、魔族の女性の好みに対する習性が分からない。
研究者による学説では、魔族と人の祖先は同じで、魔素で汚染され、より適応進化したものが〝魔族ではないか〟ということだ。
女性の好みも人族に似てくるのではないだろうか?
しかし、女性を1人だけ愛するのか、それとも複数の女性を抱えようとするのか……。
仮に魔族は上限無く女性を囲うという性質なら、正直、その手の女性を大量にゼムドにあてがえて満足させ、人の街にとって有利に動かす方がよい。
う~ん。
グリフォンの首はまだ回収されていない、か。
でも、いつ回収されて事態が急変するか分からない。
たしかにこのまま手をこまねいていてはダメだ。
ゼムドは今、おそらくホテルのスィートルームで魔道板を読んでいるはずだ。
キエティが自費で購入した様々な分野の魔道板を渡したら〝それが読みたい〟とか言い出して、ホテルに籠っている。
様子を探ってみるしかない。
それに今日は大学に、ゼムドのために新しい魔道板を借りに行かなければいけない。
とにかく様々な分野の魔道板を持ってくるように言われている。
そう考えながら、身支度をして魔道車を呼ぶ。
そして、大学の図書館に到着して、ゼムドが借りていた魔道板の返却手続きを取る。
さて、今日は、どの魔道板を借りてゼムドの下へ持って行こうか、と思いながら棚を順に見ていく。キエティは理系出身だったので、この前、初めてゼムドのために魔道板を借りた時には理系に関する分野ばかりの魔道板を借りていた。
ただ、今回は文系の魔道板をメインに借りてみようと思う。
う~ん、どうしよう。よく分からない。
文系の内容でゼムドがどういう魔道板を見たがるのか、が分からない。
人の文化を知りたいというのであれば法学・政治等は必須だろう。
ただ、金融とかはちょっとマニアックな気もする。もう少し、人の文化を理解してからでもいいと思う。
〝あっ!〟と思った。
〝歴史〟だ。人について知りたいなら、歴史は必須でしょ!!
そう思って、大まかに人の歴史について分かるような本を探していく。
ただ、現在の人の歴史はグリフォンによって抑圧されている。しかも、人柱は厄介な制約だ。このへんも踏まえた魔道板を選んで、ゼムドに読ませたい。
なんというか、ゼムドは人の文化には興味があるが、人がグリフォンに虐げられていようが全く興味がない感じだ。
その辺について理解をしてもらいたいと思って、歴史に関する本を選んだ。
あとは、心理学に関する本も入れてみる。
ゼムドはどうも他人の立場に立って考える、ということが全くできない。
というか、考える気が無いように見える。この辺も直してもらいたい。そこで、心理学の本も選んでみた。
一度に教授が借りられる本の上限は15冊だ。キエティも5冊は自分のために借りていたので、新規に借りられるのは10冊だけだ。
大学の図書館で本を借りられるのは当然関係者だけだが、そのうち、ゼムドのIDを何らかの方法で作ってあげてもいいな、と思った。
こうしてキエティは本を借りてゼムドのいる部屋へ向かうのだった。
ゼムドが泊るホテルへ到着し、ゼムドの部屋の前へ立つ。
これからが正念場だ。
ゼムドが私のことを好きなのかどうか確認しなければいけない。
カズマサに言われたようにゼムドが私の事を好きだとは到底思えなかったが、ただ、本当に好きだったらどうしよう。
ホテルだし、その場で迫られたら、多分逃げられない。
ちょっと怖い気もする。
少し緊張する。スーッと深呼吸して緊張をほぐしてから、ドアをノックする。
「入れ」
中から声がする。
扉を開けて中へ入ると、ゼムドはテーブルの上に様々な魔道板を置いて、その中の一枚を触っていた。キエティが自分で購入した魔道板をゼムドに貸し与えており、それらをゼムドは見ていた。おそらく中身の情報を読み込んでいる。
キエティは新しい魔道板を大学から借りてきたことをゼムドに伝えて、いつものテーブルに魔道板を積み重ねていった。しかし、魔道板を重ねるだけなのに、心臓はドキドキしている。
ゼムドに真意を確かめねばならない。
キエティは意を決して話しかける。
「ゼムド様、お話がございます」
「何だ」
ゼムドは魔道板を見たままで、こちらを見ずにぶっきらぼうに答える。
「魔族の女性関係はどのようなものなのでしょうか?」
直球勝負をする。キエティ的には時速160キロの超速球だ。
ゼムドが顔を上げてこちらを見る。
「意味が分からない」
あれ? これ空振り? それともホームラン打たれたパターン? どっちか分からない。
何か質問を続けないと。
「その、ちょっとですね、私も女性なのでいろいろと気になってしまいまして、是非、そのぉ、魔族の方がどういう女性を好むか知りたいと思いまして……」
言いながら耳まで赤くなってくるのを感じる。
恥ずかしい。もう、これ、ボールの速度は200キロ超えてるでしょ!!
「俺に好みは無い」
どういう意味だろう?
「それはどういう意味でしょうか?」
「俺は今、魔族の女に興味はない」
「それはどうしてでしょうか?」
「お前は何を言っている? 意味が分からない。聞きたいことがあるなら、分かるように言え。時間の無駄だ。次が最後だ。意味の分からない質問なら、今後は答えない」
まずい。
的確に何か人族のためになる質問をしなければ。私は人族の代表だ。
眉のあたりに手を当てて、眉間にしわを寄せて、考え込む。
「ゼムド様は私の言うことなら何でも聞いてくださいますでしょうか?」
「聞くわけないだろう」
あ、終わった。
ツーストライク、スリーボールで、最後に変化球を投げたらすっぽ抜けてしまった……。
ゼムドは再び魔道板に目を落とす。
その後数回、チャレンジしてみたが、ゼムドは返答してくれなかった。
完全に無視されてしまった。
しょうがないので、〝失礼しました〟と告げて部屋を出ていく。
扉を閉めて、思わずしゃがみ込む。
「何やってんだろ、私……」
しばらくしゃがみ込んでいると、ホテルの従業員が通りかかったので、慌てて立ち上がって階段へ向かっていく。
その日は、あまり仕事をせず、自分の部屋に早めに帰って、すぐに寝てしまった。
そしてその後、事態は急変する。




