第17話 犯人を推理してみる
グリフォン国の上層部である情報局主任シェルドミルは、下位部門の情報収集局長から、上がったばかりの情報の報告を、自分の執務室で受けていた。
「グリフォンの首は全て人の街の入口で発見され、また、近くにはもう一体の別のグリフォンの上半身が落ちていたということです。
そして信号獣が首を発見した際に、人族から声を掛けられたようで、その内容をそのまま伝えます。
〝一人の魔族がグリフォンを一体殺害した後、その三十分後に七体の首を持って人族の領域に侵入して参りました。また、この魔族は自分が人族の領地を支配することを宣言しております。現在は人族の領域に犯人の魔族が一人で滞在しており、人族は脅されていて、その魔族に逆らうことができません。どうか人族を助けて戴きたい〟
以上です。また、信号獣が通信板で撮影した画像の送信については、あと一日ほどで魔力障害の発生している地域を抜けるようなので、それ次第でこちらへ情報を送信できるようです。遅くとも、明日の午後には死骸の撮影された映像、及び正確な場所についての情報の受信が可能になると思われます」
シェルドミルは気になったことを質問する。
「その信号獣に対して情報を伝えてきたという人は、口頭で伝えてきたのですか? それとも何かの魔道具でその情報を伝えてきたのですか?」
「通信板の動画による情報です。エルフ・人・ドワーフのそれぞれの代表が一緒に写った動画ですので、いつもこのことながら人族からグリフォン国への正式な公文書扱いになるものです。
通常では、この手の通信板を信号獣が閲覧する権利はありませんが、今回に限っては緊急性が高かったので閲覧を許可しました。お許しください。
また、この通信板についても魔力障害地域を抜ければこちらへ動画を送信することができるはずです」
「分かりました。状況の報告、ご苦労様でした。今回の任務については成功報酬が別途支払われるでしょう。現場へ向かった信号獣に関しては、何かしらの勲章を授与することになると思います。もう下がってよろしいですよ」
シェルドミルはそう言って、情報収集局長を部屋から追い出した。
横にいた女性のグリフォン補佐官が質問をする。
「今回、死骸を発見した信号獣とそのチームは殺処分しなくてよいのですか? 今回の情報はグリフォン上部でのみ共有すべきかと思いますが」
情報局主任シェルドミルが首を横に振って答える。
「今回はやめた方がいいでしょう。表面上グリフォン殺害は機密事項ということですが、既に内容を知らない国民はいませんし、配下の下位から中位種に至っても知らない者はいない。情報規制はしていますが、それでも色々な噂や風評が広がるばかりです。どうせそのうち正確な情報を公開せざるえません。
それに下手にチームごと殺処分して、それを元に変な噂が立てば、今後において下位種の協力が潤滑に得られない可能性があります。現在は完全に戦時下の体制を敷いていますが、この三千年ほど大戦は行われていません。今後、どこかの種族と戦争をするなら、下位種でも表彰することで、配下の下位種族たちの、グリフォンへの忠誠心を高める方が意味はあるでしょう」
そう言って、シェルドミルは一度天井を見上げてから、また補佐官に喋りかける。
「それよりもちょっと現状を整理してみましょう。
一人の魔族がグリフォンを一体殺害した後、さらに三十分後に七体の首を持って人族の領域に侵入した、という話が一番問題です。人族からすると分かっていないのでしょうが、カルサーンと人族の街を移動するにはグリフォンでも片道で半日は掛かります。エドワード兵を殺した魔族がその滞在している魔族であったとしても、その魔族がさらにワルエルド隊のいる位置まで移動し、全て撃破して首を持ち帰るのに三十分だった、という話はありえません。
つまり、人族は私たちに対して〝虚偽の説明〟をしているということになります。
では、人族が私たち支配種に対して嘘を付く理由は何なのか?」
シェルドミルは一度、呼吸を整える。
「おそらく人族は私たちに対して、何か間違った情報を流すように仕向けられているのでしょう。操られているのか、脅されているのかは分かりませんが。
また、仮にこの話の半分が事実として、エドワードを殺害した犯人はその魔族としても、結局ワルエルド隊を撃破した犯人は別にいることなるわけで、複数の犯人を見つけ出す必要があります。ワルエルド隊が撃破されたと思われる地域も、下位種を総動員してさまざまな物証を抑えてみましたが、結局犯人が何人いたのか、また魔力を使わずにどうやってワルエルド隊を壊滅させたのか未だに分かりません。
獣族のなかでグリフォン七体を、魔力を使わずに殺せる種は古龍程度になるでしょうが、しかし、あれほどの巨体が動けば目撃情報があるはずです。となると、何かしらの特殊な能力を備えた魔族が、グリフォン国の領域に侵入した可能性を考えるべきでしょうか。当面は、魔族の起こした犯罪として捜査するのがいいのかもしれません。」
シェルドミルは少し頭に手を当てながら、さらに話を続けた。
「人の街に滞在しているらしいという魔族についてですが、グリフォン軍本体を派遣すれば、その魔族を捕まえることは簡単でしょう。しかし、仮にその魔族が我々にとって〝餌〟の役割を果たしている場合、この魔族を捕獲するためにグリフォン軍を派遣すると、一時的とはいえ王宮と都市の警備が手薄になります。そこを狙ってワルエルド隊を撃破した者達が攻め込んでくるとなると、グリフォン側にもかなりの損失が出る可能性が生じます」
それを聞いていて、補佐官が答える。
「確かに、犯人が人族の街に全ての首を置いた理由も、その考えで説明できますね。相手はグリフォン軍の分断を狙っていて、魔族だけでなく〝首も〟餌である可能性があるということでしょうか」
「そうなのかもしれません」
そう言って、シェルドミルはため息をついた。
これは色々難しいことになったと考える。
発見された死骸の回収に誰を向かわせるかも問題だ。
これに関してはグリフォン以外の種族を向かわせるわけにはいかない。殺されたグリフォンの名誉を守るためにも、同族が死体を回収する必要がある。
ただ、先ほど話したように、これがグリフォンをおびき寄せるためのエサだとすると、相手の罠にハマってしまうことになるため大量のグリフォンを送ることはできない。だからと言って、少数の部隊を派遣して死骸を回収しようとして、再び犯人の攻撃を受けた場合、さらに被害者を増やす可能性もありえる。
また、ワルエルド隊長が殺害された、ということは国内的にも外交的にも大変面倒なことだ。情報統制をおこなっているが、ワルエルド隊長が殺害されたのはもう公然の事実になっている。
ワルエルド隊長は兵士としての偉業だけでなく、国民にとっては、その容姿からも人格からも畏敬の念を集めていた。そのグリフォンが殺されて、まして首を切られて下級兵士とともに人の街に晒された、というのは非常にまずい状態だ。今後、支配地域の他種族に対しても示しがつかない。
一方、ワルエルド隊殺害という点では、与党の支持率は上昇するだろう。
現在の与党は、武力に関する魔力コントロールの研究に対して積極的である。おそらく、与党としてはワルエルド隊の悲惨な死に方を、これでもかとアピールして支持率の上昇を狙うはずだ。
それに、グリフォンの歴史上を見ても、これほどの屈辱はおそらくない。自分たちの民族性からして、これだけのことをされて指を咥えているという判断はあり得ない。
犯人に対して過剰な報復措置を取ることになるだろう。
シェルドミルは補佐官に対して、今話した内容をまとめて、上院議会に対して説明できるような資料作りを指示した。




