第16話 誤解されてキレた
そして、ここからが大変だった。
数日して、議会では〝とあるエルフ〟が必死の弁明をすることになっていた。
カズマサが呆れた顔をしてキエティに話し掛けてくる。
「キエティさん、正直あなたがどう否定されても、あなたと魔族の関係は完全にただの恋人関係にしか見えませんよ」
ドワーフ種の統領ガルドマドもこれに続いて発言をしてきた。
「何をそんなに嫌がっておるのじゃ? あの魔族、かなり美形だと思うがのう」
この両者の発言でついにキエティはキレた。
「だから誤解ですって!!」
キエティは机を両手でバンバンぶっ叩いて否定する。
「私は、あの魔族が自ら人の生活が見たいというから、それに合わせているだけです。あなた方だって、あの魔族が最初に来た時、あの魔族がそう発言したのを聞いたでしょう!!」
男二人も流石にキエティのキレっぷりに、驚く。
キエティは肩で息をしている。
しかし、カズマサが淡々とこう言ってきた。
「しかし、各種メディアは連日これしか報道していませんよ。すでに半分ほどのメディアは挙式予定日の打診があったというウェディング関係者の証言まで取っているようですし」
「全部、嘘ですよ。う~そっ!!」
カズマサは少し考えていてから、話題を変えた。
「キエティさん、ここだけの話にしてもらいたいのですが、あの魔族がどれくらい強いか、それについて話をしたことがありますか?」
キエティはカズマサが真剣な表情になっていることに気づいて、呼吸を整えながら答えた。
「いえ、あの魔族がどれくらい強いのか、当人と話したことはありません。私としては訊かれた質問に対して、なるべく正確に偽証が発生しないことにだけに注意を置いて、対処していました。
仮にですが、私自身が誤認している情報をあの魔族に与えてしまって、それが虚偽だった場合、それなりの問題が生じる可能性があると思っていたからです。だから#薮蛇__やぶへび__#にならないよう、私の方から何かあの魔族に対して、質問するようなことも避けていました」
本当は、この数日くだらない質問とかをしたことがあったが、それは隠して返答する。まぁ、問題が無かったのだからいいだろう。
カズマサが続ける。
「あの魔族とグリフォンをぶつけて双方共倒れに持ち込むことはできないでしょうかね?」
キエティは内心驚いてしまった。
その表情を見たカズマサは話を続けていく。
「実はグリフォンの首なのですが、未だにキウェーン街入口に放置されたままなのですよ。
グリフォンが首の回収に来ないというのはあまりにもおかしいです。もしかするとですが、あの魔族は相当強いのかもしれません。だから、グリフォンはこの人の街に現在近寄ってきていない。そう考えられませんかね?」
キエティは、首が回収されていないという話については初めて聞いたわけではなかった。
ただ、十日を過ぎても回収されていないとは思わなかった。
人の国としてはグリフォン国に逆らわないという意思表示をするために、何か手段を取る必要があった。だから、グリフォンの首の回収部隊が来た場合に、グリフォンに対して言い訳できるような動画を議会の代表キエティ達三人で撮影した。そしてその撮影した通信板を、キウェーン街に送ってグリフォンの使者が来たら手渡すように伝えておいた。
つまり人族の申し開きは事件が起きてから十日を過ぎても行われていないことになる。
これは、少しまずいことかもしれない。
キエティは呟く。
「まずいですね」
カズマサが、即、答える。
「非常にまずいです。このまま放置すると、我々は完全にあの魔族と協力してグリフォンに反旗を翻していると、捉えられかねません。何か手を考えておかないといけないでしょう。」
キエティはどうしたらいいのか考えていると、カズマサが切り出した。
「あの魔族は全く魔力が無いように見えます。しかし、目撃証言からグリフォンを一体倒していることと、加えてこの数日のあの魔族の行動を見ていると、かなり高い魔力を持っているのは間違いないはずです。もし可能なら、あの魔族を人族に疑いが掛からないように動かして、うまくグリフォンと戦わせ、また、人の国は結果的に無実だった、と証明できるように持ち込めないですかね?」
キエティは言葉が出ない。
確かに、それは合理的な判断だ。
自分たちのような人族の代表ならそのような案も検討する必要がある。
「具体的にカズマサさんは何か手段を思いつくのでしょうか?」
「女性に対してこういうことを言うのは憚られますが、キエティさんが色仕掛けであの魔族をうまく籠絡することはできないでしょうか?」
ナニ、イッテンダ、コイツ。
「あの魔族はどう見てもあなたに対して相当の好意を抱いていますよ。あなたが、どうしてこの段階で嘘を付くのか分かりませんが、あなたもあの魔族の事が好きで、本当はグリフォンと戦って傷つくのを恐れているのではないのですか?」
よし! こいつも、私が行うであろう連続殺人の〝犠牲者リスト〟へ登録、っと!
「いや、私は全くあの魔族に興味がありません。今すぐあの魔族が死んでも泣かない自信があります。あの魔族がグリフォンと戦って傷つこうが死のうが知ったことではありません」
カズマサは真面目な顔を崩さずに続ける。
「まぁ、私たちの前では言えないこともあるのでしょう。ただ、少し考えてもらいたいのです。現在の人族が置かれた状況について。どちらにしてもあの魔族をある程度、こちらの都合のいいように動かす必要があるのはあなたも分かるでしょう?」
「……」
キエティはそう言われて、確かにそれは一理あるのは分かっていた。
「あなたが嫌というなら、あの魔族に別の女性を差し向けるのは簡単です。皮肉なことですが、あの魔族は現在非常に女性に人気があります。あなたでない人でも、あの魔族をうまく操れれば私としては構わないのです。
ただ、時間が無い。
グリフォンがいつ首を回収して、こちらにコンタクトを取ってくるか分からない今の状況では、今からあの魔族に新しい女性を与え、あの魔族が好む女性に行き当たるまで、とっかえひっかえするには時間が足りません。私は現段階で、あの魔族はあなたの言うことならすぐにでも聞く可能性があると、男の立場から断言できます。私は男ですので、男性の気持ちは推測できるのです」
「……」
キエティはそうなのかなぁ、と思う。
ゼムドはもしかして私の事が好きなのだろうか?
それを照れ隠しするために、あんな素っ気ない対応をいつもしてくるのだろうか?
そうは見えないんだけどなぁ。
「キエティさん、人族の存亡の危機なのです。是非、どうか真剣に考えてください」
そう言って、カズマサは会議室から出て行ってしまった。
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カズマサは会議室から出て、ふぅー、と息を吐く。
これは意外と面白い状況になってきたかもしれないと思う。
グリフォンほどの者が、人の街にある首をすぐに探せないわけがない。
奴らはおそらくパニックに陥っている。自分たちが殺されるなどとは夢にも思ったことが無いからだ。
多分、自分達は都市に閉じこもって下位種を総動員して必死に首を探しているはずだ。
戦うしか能のないバカ鳥が普段偉そうにしておいて、いざ自分たちが戦わねばいけない状況になると、臆病風に吹かれるとは片腹痛いわ。
そう思って、煙草を取り出す。
ここは喫煙禁止区域だが、無視して煙草を吸う。
あのエルフ女は利用できる。
何故この段階であの魔族との関係を認めないのか分からないが、まぁいい。
完全な結婚という既成事実を作って、あの魔族を喜ばせてやろう。
マスコミを動かすのは簡単だ。
あの魔族は間違いなく強い。
それも相当のはずだ。
あいつが少し動くだけで、人の文明が変わるほどの業績はこの数日で上げている。
可能ならばあの魔族を使って、人では取って来られないような魔石を入手したい。
人、ドワーフ、エルフの生活に必要な魔道機関の動力を一気にこの手で掌握したい。
莫大な金を生み続けるはずだ。
ただ、あの魔族がどの程度強いのかが分からない。
初日にグリフォンを魔法を使わずに倒している事、また、あの時点ではグリフォン七体をあの魔族が本当に倒せたのかは不明だったが、今になって思えば、やはりあの魔族が倒したに違いない。
グリフォン軍が大量に人族の国へ攻め入れば、あの魔族も死ぬだろうが、グリフォンのプライドからすれば、下位種に大軍を送ることはない。種の恥になるからだ。
あの魔族がグリフォンを全滅させることはできないだろうが、攻め込んでくるグリフォンをそれなりに殺し、人族の領域をある程度守ってくれればそれでいい。
グリフォンへは〝人族は魔族に無理矢理従わされている、助けてくれ〟と通知し続ければいい。
それに、グリフォン自体を疎ましく思っている種族はたくさんあるはずだ。
すぐにグリフォン国にも暗殺者が送り込まれるだろう。いや、もう送り込まれ始めているかもしれない。
あの種族は忌み嫌われているはずだ。
それらのトラブルが広がれば人族には構っていられなくなるかもしれない。
私の寿命は人の最高寿命まで生きると計算して、あと50年ほどか。
50年間、あの魔族がこの国を護れば、その後のことは私が考慮することでもない。
人族が滅ばずに、我が一族に永遠と権力を握らせたいが、そこは私の優秀な子供たちが判断してくれるだろう。
そう思うと、煙草を消して、カズマサは階段を下りて行った。




