第13話 人族の三人の代表者たち
人族の三人の代表は、ゼムドとの接見が終了した後、ゼムドを都市部で一番の高級ホテルへ案内するよう、部下に指示を出した。
そして、次にメディアを通して現状を国民に伝えることとなった。
普段、このような発表の場では、三人のうち、人のカズマサが代表して国民に説明をすることが多いが、何故か今回に限ってはカズマサが〝キエティが説明する方がいい〟と言い出したのでキエティがあの魔族について国民へ説明することになった。
キエティは大勢のメディアのフラッシュに焚かれながら説明することになった。
キエティはマイクを持って、説明していく。
「この映像をご覧になっている国民の皆様、また、この度お集まり頂いたマスコミの方々、エルフ種代表キエティから今回の一連の騒動について、ご説明させていただきます。メディアにはかん口令を出していたのですが、五日ほど前に一人の魔族が、私たち人の国へ侵入しました。当初、この魔族には用事が済み次第、帰って頂くつもりでした。しかし、今日の昼に首都では大騒ぎになったように、議会建物へこの魔族は侵入しました。そして私たちに要求をしてきました。これが一連の流れになります」
そう言った瞬間、物凄いフラッシュがキエティに向かって焚かれた。キエティは眩しくて思わず目を閉じてしまった。が、目を開けて話を続ける。
「魔族が私たちに要求してきたことは、〝自分に人々の生活を観察させろ〟ということになります。現在までに、この魔族が人族の街に侵入して以来、この魔族が誰かを傷つけたことはありません。皆さん、ご心配されているでしょうが、その点についてだけは問題ありません。私も今日この魔族に実際に会いましたが、そのようなことをする人物ではないと理解しました」
キエティはここで嘘を付いた。
あの魔族が人を傷つけない保証はないが、ただ、それを言うとパニックになってしまう。あの魔族は、今日、嘘さえつかなければ街を壊さないと言っていた。だったら、それに向かって、人を束ねるのが自分の役割だと思ったからだ。そう思って続ける。
「つきましては国民の方々は、今からもパニックになることはなく、いつも通りの生活をして下さい。また、あの魔族が何か見学に来ても、怯えず自分たちの生活を見せてやってください。そして、あの魔族を怒らせないように言動には気を付けてください。あの魔族が人を傷つけることはないと思いますが、攻撃すれば、自分を守ろうと、他者を攻撃することはあり得ます。それは人でも同じです。傷つけられようとすれば反撃することはあり得ます。
決して、あの魔族を怒らせないような行動を取ってください。また、メディアに関してはあの魔族につきまとう、あるいは、近づいて報道をすることを禁じます。もし、それに違反したメディアは、極刑に処せられる場合もあることを肝に銘じてください」
キエティはまた嘘を付く。グリフォンを倒したあの魔族が、ただの人に傷つけられるわけないが、あえて魔族を刺激しないように国民へ注意喚起する。
グリフォンをあの魔族が倒したという話については今後も伏せておくつもりだ。一部のメディアが既にかぎつけていて、おそらくそのうちその手の話が出回るのは予想できたが、今は、あの魔族が満足して帰っていくまでの時間が稼げればいい。何も皆を混乱させることはない。ここでも嘘を付いたことになるが仕方ない。
加えて、マスコミについては強く釘を刺して置いた。マスコミが過剰にゼムドを追跡すれば、人の生活を見学する際に邪魔になる。それだけは避けたかった。
「以上になります。それではメディアの方々からの質問を受け付けます」
そう言った瞬間にまたフラッシュが焚かれ、そして、そのあと一時間ほどキエティはマスコミへの応対に時間を取られることになった。
キエティはマスコミの対応を終えてから、各部署に色々と連絡しなければいけなかった。時間は既に深夜になっていたが、キエティはまだ寝るわけにはいかなかった。
メディアはしつこかったが、その対応については部下に任せて、ゼムドをどうするか考える。
とりあえず、ゼムドには新しい情報の入った魔道板を与えておいた。上位種の魔族は寝ないと言っていたから、おそらく今もホテルのスイートルームで魔道板を見続けているのだろう。
実際に会って話した感じだと、ゼムドは魔族の下位種のように知能が低いわけではないと思った。
キウェーン街に着いてからのあの魔族の行動については逐一報告を受けていたが、これまでの行動にしても、今日会って会話をした感じでも、嘘で騙し通せる相手ではないと思った。当初は、何かしらうまいことを言って、そのまま帰ってもらおうと考えていたが、今日の会話からすると下手な小細工をすると何をするか分からない。
とにかく、当面は人の街を見学させてやるしかないと思った。
とすると、誰かがゼムドに付き添ってその要求に応えてやる必要があるだろう。ただ、今日の議会での対応を見ていると、カズマサはこの魔族に対してあまり近寄りたくない感じだった。まぁ、当然だと思う。
自分だって、あの魔族に近づくのは怖いとは思う。
それに、自分は人族の代表の一人だ。
私の軽率な行動がもしかすると人の国全体に大きな損失を与えてしまう可能性だってある。
政治家としては政治生命という意味で、致命的なリスクを取りたくない面はある。
正直、この手の交渉術の専門家を探してゼムドの対応に当たらせるのが判断としては妥当だろう。
ただ――私は、個人としてあの魔族に会ってみたいとも思う。
私はエルフ種の代表であると同時に、大学の教授もしている。研究者としての探求心からあの魔族に会ってみたいという欲求があるのは事実だ。
……。
――自分はあの魔族に会ってみよう――
キエティはそう決意すると、翌日ゼムドに会うための準備をしていくのだった。
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人族の首領カズマサ=フェゼラーは、イライラしていた。
人族の代表三人でいろいろと話し合った後、それなりの対応はしなければいけなかったが、早く家で休みたくなって、すぐに帰ってしまった。部下は残って欲しそうだったが無視した。
自宅の豪邸に辿り着き、一人で部屋に籠って、考え事をしていた。
グリフォンを倒した魔族ということで、何か利用できるかもしれないという考えもあった。あわよくばグリフォンにあの魔族をぶつけて、双方共倒れになるような状況に持ち込めないか、と思案していたのは事実だった。
ところが、今日の話を聞いていれば、自分の知りたいことを知ったら街を出ていく、と言っていたではないか。それが事実なら単にグリフォンを挑発して、その火の粉を人に振りかけたまま自分はトンズラするつもりということだ。
〝最悪〟だ。
仮にあの魔族が逃げてしまったら、グリフォンの性質から考えて、人族に相当の賠償を求めてくるのは間違いない。面倒ごとを持ち込んできたあの魔族が本当に憎らしく思えてきた。
次の代表選挙が近いことも問題であった。せっかく、長年を掛けてこの地位まで上り詰めたのに、ここであの魔族が何か騒ぎを起こせば、国民の不満は爆発する。そのしわ寄せは間違いなく、今の人族代表である自分にも押し寄せてくるだろう。
「ああ、クソ!!」
頭にきて、アルコール度数の高い酒を一気にグラス一杯飲み干す。喉の焼けるような感覚がする。
あの魔族はそうそう騙し通せるようなタイプではないことは、今日会って、はっきり分かった。うまくゴマをすって、取り入ることができれば幸い、と思っていたが、とてもそんなことが通じるような相手とは思えない。
明確な目的、例えば金や女を要求するのであれば、それなりに操れる可能性もあったが、まさか、人の生活を見たいなどという、下らない要求を突き付けて来るとは思わなかった。
この事態をうまく収拾できれば、自分の名を人族の歴史に刻めるチャンスではあるだろう。
正直、ただの政治家ではなく、歴史の転換点を自分で作り出したいと思う。自分は財閥の長として金はある。
ただ、それだけでは物足りないのだ。〝名誉が欲しい〟切実にそう思う。
が、今回の件ではそれは諦めた方がいいかもしれない。
それよりも目先のダメージを抑える方に切り替えた方が良さそうだ。
これからどうするかは、あの魔族との接見が終わった段階で大体決めていた。
あのエルフの女に放り投げるのが一番いい気がした。
あのエルフは研究者肌だ。政治に向くタイプではない。
あの魔族は最終的にグリフォンに負けるが、その時、火中の栗を拾うような役割はあのエルフ女に担ってもらうか。そう思って、あのエルフ女に面倒ごとは全て吹っ掛けて、逃げてきた。
カズマサはもう一度グラスに一杯アルコールを注いで飲み干した。
そしてカズマサは――明日からメディアの質問があった場合に、どう返答すれば次の選挙に向けて自分の好感度を上げられるか必死になって考え始めていた。
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ドワーフの統領ガルドマドは、メディア対応をした後、いつものメンバーで居酒屋に集まっていた。
ガルドマドを中心にテーブルを囲み、ガルドマドは声を出す。
「よーし、魔族の侵略にカンパーイじゃっ!!」
皆でグラスをぶつけあう。
ガチーン、とグラス同士がぶつかるいい音がした後に、仲間が喋り出す。
「おい、ガルドマド、お前の立場でその音頭はダメだろう!!」
飲み仲間からツッコミが入った。
「いや、いいんじゃよ。どうせ、このままではドワーフは滅亡するんじゃから」
それを云うと場の空気が一気に沈み込む。
ドワーフは人族三種の中では寿命が短い。この二千年間、人族三種の中でそれぞれの種から一定数の人柱を提供することで合意したが、ドワーフの繁殖力は低く、相対的に種の人口減少を招いていた。すぐに滅亡するわけではないが、長期的に見れば何かしらの方法で繁殖力を上げる方法を模索する必要がある。エルフに依頼して種の繁殖力を上げる方法を模索はしているが、まだ、現実的には人口の増加には至っていない。
人やエルフは魔法に関する研究で成果を上げているから、長期的にもグリフォンに守ってもらえる可能性はあるが、鉱石の加工についての技術を主とするドワーフはグリフォンからの寵愛は受けられないだろう。
ドワーフはグリフォンの宮殿を作るときの石材の提供では、貢献していたが、基本的にグリフォンにとってはどうでもいい存在のはずだ。
「で、その魔族ってのはどんな感じなんだ?」
「体格はいいな。人よりは大きい。パッと見ると人のようだが、やはり違う。腕や首あたりの筋肉の付き方はやはり人ではない感じじゃな。」
「で、その魔族は何をしてほしいわけ?」
「それがよく分からんのじゃ。てっきりグリフォンを討伐するための情報でも欲しがるのかと期待していたんじゃが、グリフォンには興味が無いようじゃった。」
一同から、はぁ~、っとため息が漏れる。
「グリフォンを倒したっていうからそれなりに期待してたんだけどなぁ」
「で、俺たちは明日からどうしたらいいんだ?」
ガルドマドは答える。
「別にいつも通りで良いじゃろ。魔族が言うには普通に生活しているのが見たいらしい。いつも通り、石を削っていればそれでいいじゃろ」
やれやれ、という感じで皆が酒を飲み始める。
ドワーフ達はなんとなくその魔族に期待していた面もあった。
何かいいことでもあれば、酒が進むのだろうが、なまじ期待してしまったことが、裏目に出てしまったために酒の席の空気は重い。ガルドマドは気づいていないが、普段ならストレートで飲む酒を、今日は無意識に氷で割って飲んでいるのだから、それなりに本人も重症なのだろう。
酒の席は普段より短い時間でお開きになるのだった。




