第11話 魔石を持ち帰って
ケリドは中位種の獣族のいる都市を訪れていた。
魔族の下位種は知能が全くないが、獣族は下位種でも意思疎通をすることができる。獣族は魔族と違い、知能が高い種族だった。
ケリドは魔石を探すと五人には言ったが、自分は探す気がなかった。
あの五人、あるいはアザドムドを除いた四人は放っておいても必要十分な量の魔石を見つけてくるだろう、それよりも自分が急ぐことは獣族と交渉することだ。
獣族の市長に話に行く。
ゼムドの魔力痕を、追跡獣を使って捜査していたが、その依頼をしたのがこの追跡獣の市長だ。
追跡獣は犬のような形態をした獣だ。ただ、ある程度の年齢に達すると人型に形態を変えることもできた。追跡する時には変装も大事だから、そう進化したのだろう。
獣族の中位種は人型になれる種族となれない種族がある。追跡獣は人型になれるが、なれない中位種も多い。
人型の形態をした市長の前にケリドは座り、話しかけた。
「すみません。この度、追跡して頂いている者の捜索について、今週いっぱいで打ち切って頂きたいのです。それに追加の仕事依頼があります」
「なんだ、見つけるまでという依頼ではなかったのか?」
「はい、当初その予定だったのですが、どうも追跡されている方が追跡されることを想定して出かけているようなのです。おそらく、追跡獣でも見つけるのは困難だと判断致しました」
「それは追跡獣への侮辱だな。わしらはそれが商売だ。時間さえ掛ければ見つけることはできる自信があるぞ」
「それは十分承知致しております。ただ、今回の捜索の相手は、実は〝闘神様〟なのです。おそらくあなた方でも見つけることは短期的にはまず困難だと思われます」
市長は驚いた顔をする。
「そういうことか。お前が妙に渋るので何かおかしいと思ったが、そういうことか。で、何か手伝えることはあるのか?」
「はい。今度は追跡ではなく、情報を集めて戴きたいのです。それも前回と違い、私たちの周辺だけでなく〝全大陸で〟という話になります」
「それは我が種全体でやればすぐにやれることはやれるが、ただ、我々も現在いくつもの依頼を受けている、仕事がある。お前たちのためだけに時間を割くことはできないぞ。それに、それだけの広域での捜索となれば、それなりの費用も頂くことになる」
「存じ上げております。その費用についてはこちらで負担致します。また、期限については、そちらの本業の傍らで構いません。どれだけ時間が掛かっても構いません。あと、探す条件については、大陸における〝強い異変〟ということでお願いします。大地が割れた、火山が噴火した、氷河が溶けた、あるいは獣族が一夜で滅んだ、そのような類のものでお願いします」
「そうか。それならその内容で引き受けよう。ちょっと待っていてくれ、先に部下に連絡する」
そう言って、追跡獣の市長は黙ってしまった。
じっとしている。
獣族がこうしているときは、いつも同族同士で信号を送り合っているのだ。ケリドの依頼を各部署に依頼しているのだろう。
しばらくして市長が話始める。
「依頼主のプライベートを聞くものではないが、少し気になる。何故、闘神殿は出て行かれたのだ?」
「それが分からないんですよね。あの方は、いつも無表情でボソッとしか喋りません。変化の兆しはありませんでした。私たちもいなくなってから、初めて異常事態に気づいた状態です」
「そうなのか」
「闘神様は私たちから隠れようとしています。ですから、闘神様がいなくなったという情報は表へ出さないでください。あくまで、〝強い異変〟ということでお願いします」
「ああ、大丈夫だ。いつも通り私たちは受けた依頼の通りしか動かない。もちろん相手に気づかれるような情報は流さない。そこは心配ない」
「お願いします」
そう言ってケリドは市長の部屋から出て行った。
六人全員はアジトに帰ってきていた。
テーブルに上に山いっぱい魔石が積まれている。
皆魔力で浮かして、それぞれ持って帰ってきていた。ガルドロストだけは鎧の中に魔石を入れて帰ってきたが。
アザドムドがポカーンとした表情で喋り始めた。
「おい、じゃあ、俺の取ってきた毒の沼にあった魔石は要らねーのか?」
「はい、使えません。獣族に報酬として渡すのに、毒を渡したのでは意味がありませんから。私がこの魔石を見た感じでは、この魔石のあった沼は、かなり魔素の濃度が高かったのでしょう。高濃度の毒が含まれた魔石になります。この魔石は獣族が戦争に使う時なら、役に立つでしょうが、この三千年大戦は行われておりません。現在、この魔石の価値は低いでしょう」
ケリドの言葉を受けて、アザドムドがキレるのが分かる。アザドムドの表情が怒りに変わり、本人は一気に魔力を放出し始めた。魔石の個数で一番多く持って帰ってきたのはアザドムドだったからだ。
「まあまあ、アザドムド殿。魔石の数は、お主のを除いてもこれだけあるでござる。足りないこともなかろう。そんなに魔力を放出しては建物が壊れてしまうでござる。せっかくケリド殿が設計し、材料を集めて作ってくれたご恩を、お主が一時の感情で壊してしまっては駄目であろう」
その言葉を聞いて、アザドムドの表情が平常時に戻っていく。魔力の放出を止めて、アザドムドは普段座っている自分の椅子に座りこんで、テーブルに両足を載せる。
「ワダマルさんが、見つけてきた魔石はかなり貴重なものですね。これは取っておきましょう。回復に使える魔石はかなり貴重です。私たちでも使うことがあるかもしれません」
「いや、必要ねぇ。獣に渡してやれ」
アザドムドが皮肉を言う。
ケリドはアザドムドの言葉には返答せず、続ける。
「この中で獣族に渡す魔石として一番価値のあるものはガルドロストさんの持ってきた魔石達になりますね。これほどの種類、よくこの短時間で見つけられましたね。ぜひ場所を伺いたいくらいです」
ケリドは、ガルドロストは教えてくれない、いや〝喋らない〟と思いつつそう話す。
「私のはどうですの?」
エスカがケリドに尋ねる。
「エスカさんの魔石は報酬に使えなくはないのですが、それほど珍しいものではありませんね。水の中に入れておくと、水をきれいにするタイプの魔石ですが、比較的普及しているものです。個数が沢山あれば、価値があるかもしれませんが、五個だとそれほど獣族にとって価値のある種類の魔石ではありません」
アザドムドがエスカに質問する。
「エスカ、おまえ誰よりも最初に出かけたのに、なんでそんなに魔石が少ねーんだよ」
エスカが目を逸らしながら、答える。
「女性にはいろいろあるのですよ。これだからデリカシーの無い男は」
普段ならアザドムドの挑発に切れ気味に返答するが、何故か今日はバツが悪そうだ。集めた魔石の数より、殺した魔族の数の方が多いとは流石に言えない。
「あたしのは?」
ミホが質問する。
「ミホさんの魔石は……これは使えますね。最近、獣族の大きい都市では、魔道機関として魔石から火を起こして日常生活に使うことも増えています。見た感じ、かなり魔素濃度の高いところで生成された魔石に見えます。火力を発生させられますので、大半の獣族で価値があるでしょう」
「やったー!」
ミホが嬉しそうに両手をあげる。
「ガルドロストさんの取ってきた魔石は珍しいものも混じっています。全部は獣族に渡さず、ここに置いておいてもいいかもしれません。アザドムドさんが取ってきた毒の魔石ですが、これは時々、私たちが食べてみてもいいかもしれません。魔素濃度の高いところで、生産されたものですのでそれなりに刺激が楽しめるのかもしれません」
「毒って美味しいの?」
ミホが聞く。
「はい。獣族の一部では食事の際に香辛料というのですが、辛い物を食べる習慣のある種族があります。もちろん辛い物を食べすぎると体に良くはないのですが、ただ、多少の刺激は味覚と体に良い場合があります。ちょっと食べてみましょう」
そういって、ケリドは毒の魔石を掴んで一口で飲みこんでみる。
「うーん」
ケリドには毒の魔石は美味しくなかったらしい。
アドゼムドを除いた四人の魔族も近づいてきて、毒の魔石をそれぞれ食べてみる。皆、一口だ。ガルドロストだけは、皆に顔を見られないように器用に鎧の一部を持ち上げて食べた。
エスカが感想を言う。
「ああ、これ美味しいのではないですか、独特の苦みがありますね」
「そお? 私は嫌いかも」
ミホが顔をしかめている。
「ミホ殿はまだお子様でござるからな。しかし、拙者もそれなりにこの苦みは好きでござる。酒のつまみとして、食べる分には良さそうでござる」
そう言いながら、ワダルマが一つ毒の魔石を取って、アザドムドに放り投げた。
アザドムドは、片手でキャッチして魔石を食べてみる。
「あー、なるほどな。確かに悪くないことは悪くない。時々食べる分にはいいかもしれない。これは残して置いた方が良いな。ケリド、獣にはくれてやるな」
獣族の報酬にはならないと言われたのに、そうケリドに言う。
そして、アザドムドがそう言い終えた瞬間だった。ガシャンと音がして、ガルドロストが後ろを振り向いたと思ったら、鎧の間から毒の魔石を吐き出した。
残りの五人は思わずポカーンとする。
ガルドロストの体格からして、かなりの大男のはずだが毒の魔石の味は苦手なのだろうか?
ちょっとみんな驚く。理由を聞いてみたいが、聞いても返答しないだろう。
しばらくして、ケリドが話し始める。
「では、魔石については私が獣族に報酬として渡す分と、私たちが取っておく分に分けておこうと思います。獣族に魔石を渡してもそれなりの個数が余ると思いますので、どこかに保管しておきます。滅多に使うものではないですし、どこかの地下にでも埋めておきましょうか。」
そう言って、ケリドは集めてきた大量の魔石を選別していくのだった。




