第9話 六人の魔族たち
人族の住む土地から、はるか遠くの建物の中で六人の魔族が騒いでいた。
六人の魔族たちが集まっている建物はかなり大きい。そして、建物内部にある巨大な円形のテーブルの近くに、六人の魔族が座っている。
そして一人の〝若い男の魔族〟が、不機嫌そうに話し始めた。
「おい、まだゼムドの行方は分かんねーのかよ?」
そう言いながら片足を、ドン、とテーブルに乗せて騒ぐ。
この不機嫌そうな魔族に対して、この男よりずっと若い〝男の子の魔族〟が落ち着いた様子で答える。
「はい、闘神様の魔力痕を、追跡獣を使って捜索はしているのですが見つかりません。どうやら出かけるに当たって完全に魔力を消してから移動したようです」
この男の子の魔族はこの六人の中では一番の新参者だ。だが、新参者だからというわけではなく、誰に対してもいつも丁寧な口調で喋る。
男の子の発言を聞いて、机に足を乗せた魔族が独り言のように呟いた。
「あの野郎、出かけるなら出かけるで、一言声かけて出掛けりゃいいじゃねーか」
「まぁ、ゼムド殿なりに何か思うところがあったのではないでござろうか? この千年程、物思いに耽っていることが多かったように思うでござる」
侍のような恰好をした。ひょろっとした姿の魔族が、顎をさすりながらこれに返答する。この侍の魔族はいつも笑顔だ。穏やかに笑っている。
テーブルに脚を載せた魔族がこれに返答する。
「いや、全然そんなこと分からなかったわ。俺にはいつも通りにしか見えなかった。俺があいつと初めて戦った時に比べれば確かに最近大人しくなったとは思っていたが、それはここにいる奴全員そうだろ、みんな大人しくなりやがって」
「いや、あんたに一番驚くわー。どんだけ負けてもまだゼムドに勝つつもりでやってんだから、それに驚くわー」
小さい女の子の魔族が答える。答えた魔族の女の子はテーブルの上に上半身を突っ伏して、両手を伸ばしている。
「(ガシャンガシャン)」大きく金属音がする。
女の子の隣に座っていた大きい鎧を着た魔族が、大きい音をまき散らしながら頷いている。女の子の意見に同意しているようだ。
この魔族は鎧をいつも着ていて、喋らないし、皆、中の人がどんな人物なのか見たこともない。この鎧の魔族にはガルドロストという名前があったが、闘神であるゼムドが適当に付けた名だ。
前に一度この鎧を外してやろうと、女の子の魔族がちょっかいを出したが、この魔族と喧嘩になり三ヵ月ほど寝ることなく戦うことになった。女の子も、鎧の魔族も両者は魔族の上位種である。このレベルの魔族が本気で戦うと地形が相当変化するし、魔力によって大地が汚染される。その時の闘いの影響は今もこの大地に残ってしまっていた。ただ、その時の闘いではどちらも本気を出していないので、どちらの方が強い魔族なのかは分からない。
「そう、お主に一番驚くでござる。お主この千年大して強くなってないのに、よく毎回ゼムド殿に挑み続けるでござるな。普通諦めるか、もっと強くならなきゃ挑もうと思わないでござる」
侍の魔族がテーブルに置いてあった刀を鞘から抜いて、天井に向かって差し出し、それを見ながら、テーブルに方足を乗せた魔族にツッコミを入れた。
「うるせー。俺はいつかゼムドを倒すんだよ。で、勝ったらお前ら全員、俺の配下な」
「無理ねー」
「無理でござる」
「(ガチャンガチャン)」と大きい鎧の頭を動かして頷く。
「お前らぶっ殺すぞ!!」
言葉使いは物騒だが、机に足をのせた魔族も、もちろん本気で殺してやろうとは思っていない。
「まぁ、それよりゼムド様の顔を見られないのは私としては辛いですわ。あの方の横顔を見るだけで毎日幸せな気持ちになれたのに、それができないことがこんなにも心苦しいとは思いませんでした」
一人の女ががっかりした表情でそう言う。
「お前もホント不思議だねぇ。それだけの美貌があって未だに#番__つがい__#が見つけられねーとは。ゼムドはお前に興味ないって。諦めて他の男を探せよ」
「あなたそれ本気で言ってます? 返答次第では許しませんよ」
「おー、怖い怖い。あ、そうだ、ゼムドは嫁探しに出かけたんじゃねーの?」
バン、という音ともにテーブルが叩き割られた。厳密には叩き割ったというよりはバカにされた女の魔族が魔力を放出したのだが。
「もし、そうだったとしたら私は相手の女を殺しますね。絶対に認めないし、許しません。というか、ゼムド様に近づく女は全て私が排除してきましたし、今後も私に振り向いてもらえるまではそれを続けるつもりです」
(……おい、冗談で嫁探しって言ったんだけどよ、これ本当にエスカのせいでゼムドが出て行ったんじゃねーの?)
(あー、私も思った。これ本当に嫁探しの可能性あるかも……)
「コホン」
六人の中で一番若い男の子の魔族が軽く咳のフリをしてから喋り始めた。
「闘神様の追跡についてですが、追跡獣での探索は現状では今週いっぱいで打ち切る予定です。魔力痕を一切残していない、ということは、闘神様は最初から追跡されないような行動を取っているはずで、あの方の魔力コントロールを考えると、追跡獣での捜索に意味があるとは思えません。そこで別のアプローチに切り替えようと思っています。あれほどの力を持った方ですと、外出したといっても、どこかでは力の衝突があると考えられます。他の大陸も含めて何かしら異変があった場合の情報を集める方が、手っ取り早いように思えます」
「あー、それはそうだな。この数千年ゼムドには多少の上位種の魔族ですら、俺たちが近づけさせてないから、同じ魔族でもあいつが闘神と分からない奴もそれなりに増えてるだろ。ゼムドが周囲のことを気に掛けるわけないから、他の魔族か獣とぶつかる可能性が高いな」
「確かにどこかしらでは魔力の放出なり、地形が変わるくらいのことは起こりえるでござろうな。その情報からゼムド殿を探す方が早かろう」
「それはいい案ですね。さっそく魔族の下位種から中級種に種を滅ぼされたくなければ、ゼムド様の居場所を見つけるように命令しましょう。有力な情報を見つけた者達には、強い魔石のような報奨を渡してもいいですね」
エスカと呼ばれた女の魔族を除いた一同は、顔を互いに見合わせて黙る。
(……おい、これどうなんだ? 本気でエスカは外した方がいいんじゃないのか? う~ん)
男の子の魔族が、エスカの話を受けて続ける。
「魔族の下位・中位種に脅しを掛けても、大半は言うことを聞きませんし、命令した内容を理解すらできないでしょう。そこで、獣族に大陸の地形が大きく変化した場所が存在しないか、あるいは獣族で一夜にして全滅した種がどこかにないか、そのような情報をこちらへ届けてもらうようにしようかと思います」
「どうやって獣族に命令すんだよ? 俺は、たかが獣に興味ねーぞ。あんな弱い連中のところへ行こうとするだけで、イライラするわ」
男の子の魔族が続ける。
「私が出かけて行きます。私はあなた方と違い、獣族とも若干ですが交流があります。獣族では採取することができないような魔石をいくつか掘り起こして、それを手土産に交渉してみようかと思います」
女の子の魔族が答える。
「じゃあ、私もどっかで魔石取ってくるわー。ここで、こうしてても、つまらないしー」
「ふむ、では拙者も魔石探しに興じてみようか」
「良いですね。私一人では流石にこの世界のどこかにいるゼムド様を見つけるのは無理ですし、獣族を使ってゼムド様を見つけるのがいいでしょう。では、さっそく私も魔石を探してきますね。見つけてきたら、ここにすぐ戻ってきますので」
そう言うといきなりエスカは立ち上がって、急いで建物の外へ出て行った。
ドン、という大きい音が聞こえる。
おそらくもう魔石探しのために、空へ飛んで行ったのだろう。
「ガルドロストさんはどうされます?」
男の子の魔族が大きな鎧を着た魔族に尋ねる。
「(ガシャンガシャン)」
頷いているので、魔石を探しに行く気らしい。
「アザドムドさんはどうしますか?」
「俺は行かねー、別にゼムドが帰ってこなくてもいいし。知ったこっちゃねーわ」
不貞腐れたような表情をしているが、アザドムドは、結局魔石を探しに行くかもしれない。
この人の性格からすると〝魔石を探しに行く確率は50%くらいかな〟と考えながら、男の子魔族ケリドは、残りの魔族に話しかける。
「では、私たち四人も魔石を探しましょう。
もちろん全員で同じ場所を探してもしょうがないので、適当に方角をバラして、珍しい魔石があるような場所で魔石を拾ってきましょう。その際に闘神様を発見することが出来ればいいので、闘神様が見つかったら、その場で強めの魔力を放出してください。エスカさんには伝えていませんが、彼女も私たちが強めの魔力を放出すれば何かあったと気づくでしょう。
ガルドロストさんは二時の方向へ、私は四時の方向、ミホさんは六時の方向、ワダマルさんは八時の方向へ飛んでもらいます。エスカさんは十時の方向へ飛んで行ったので、そちらは探す必要が無いでしょう」
アザドムドにわざと〝十二時の方向へは、誰も魔石を探しに行きませんよ〟という情報を流してやる。
魔族の女の子ミホが立ち上がる。
「よし、行くかー。なんか強い敵いないかなー」
侍の魔族ワダマルがそれに答える。
「最近出かけてないでござるからな、もしかすると上位から高位の魔族へ進化した者がいるかもしれないでござる。出来れば手合わせ願いたいでござる」
ガシャン、と大きい音がして鎧の魔族もその場から立ち上がる。
そして四人は建物の出口に向かっていき、外へ出て行く。
建物から出た場所で四人は物凄い音を立ててその場から飛び上がり、それぞれの目的の方向へ魔石を探しに飛んで行った。
一人残されたアザドムドは毒づく。
「俺は行かねーからな!!」
大きい声でそう発すると、誰もいない建物の中にその声が反響していった。




