プロローグ
人の街に魔族の男が一人、立っている。
数週間前に、魔族は一人だけで人の国を訪れていた。
そして現在、魔族の周りには大勢の人が群がって、スマートフォンのような板を使って、その姿を写真に撮っていた。
魔族が人に興味を持つことは、通常は無い。
しかし、人にとっては魔族は珍しいものなので、この魔族の画像をネットに上げれば、話題になる可能性が高い。だから、皆、興味があるのだろう。
そんな中、この魔族を監視する女エルフは思う。
〝なんで私がこの魔族と一緒に街を歩かなきゃいけないのよ……〟
この魔族は、何故か人に興味があるらしく『人の街を見学させろ』と言ってきた。
女エルフとしてはこの魔族にはさっさと人の国から帰って欲しかったが、その手段が思いつかない。
しょうがないので、街を見学させてやることにした。
〝まぁ、しばらくしたら帰ってくれるだろう〟
そう思って少しの間面倒を見ることにしたのだった。
魔族の横顔をじっと見てみる。
この魔族を大学へ連れて行くと、色々と研究成果が進んだ。
どうもこの魔族はかなり強いらしく、魔法の使い方がうまかった。
人族ではできないようなことを簡単にこなせるようだ。
女エルフは自身も大学の研究者でもあったが、この魔族に自分の研究を手伝ってもらいたいと思う面はあった。
しかし、それには問題がある。
人族の国はグリフォンと云う獣によって支配されてた。
しかも、この魔族はグリフォンを数体殺してしまっている。
人族がこの魔族を街に滞在させているというのは非常にマズイ。
グリフォンからすれば、人族はグリフォンに反旗を翻したと思われているはずだ。
う~ん。
女エルフは目の前の人々が好奇心で湧いているような景色とは裏腹に、自身の憂鬱さを感じてしまうのであった。