マイ・スペース
マイ・スペース
パラパラとページをめくる音と、ちょとした呼吸の音が聞こえてくる
人は一人は好きなくせに、独りは嫌いだ。それはまるで、ここを表しているみたいで少し笑えてくる。
私がいるのは図書室である
誰もが本を読み一人になるが、皆が本を読んでいて独りではない、そんな空間が私はたまらなく好きだ。
私は、今日はどんな本を読んで「独り」から「一人」になろうかと考えながら図書室をあてもなくさまよう。
すると、本棚に隠れていて見えない場所に一人の男性が座っていた。その男性は独りでに、こちらをチラッと見ると直ぐに本に視線を戻し一人になる
私は結構な頻度でここに通っているが、こんなスペースがあるのを初めて知った。そして、そんな陰気な場所で本を読んでいる彼が気になってしまった
彼は寝癖の付いた髪を揺らし、ずれる眼鏡を時折直しながら、本を読む。読んでいる本は「蹴りたい背中」であった。確か高校生の青春物語だった気がする
私も昔、あの本を読んだことがあった。あったのだが内容はあまり覚えていない、人間は忘れる生き物だから仕方がない
そんな彼を横目に私は本棚にあった良く理解も出来ないのに自己啓発本を手に取り眺め始めた。仕方がない、なぜなら気になってしまったのだから
そして私も「一人」の一部になった
時々視界に入る彼は十分に一回ぐらいの頻度で足を組み替えたり、腰を伸ばしたりしている。見ていても面白味もない彼をみて、何で彼はこのような場所で本を読んでいるかと思ってしまった
ここにいたら、独りの自分を誰かが見つけてくれるとでも思っているのだろうか、それとも劇的な出会いをして青春を謳歌したいのだろうか
しかし、そんな事はここでは起きない、彼は「独り」ではないからだ
そんなバカな事を考えている内にチャイムがなり「一人」の時間が終わる、次の授業が始まってしまうのだ。だが、時間が過ぎても彼は動こうとしなかった
このままでは授業が始まってしまう、シンデレラの魔法はここでお終いであるはずだ
私は彼に話しかけた
「授業が始まりますよ」
すると彼は少しビクッとして私の顔をみた
ちょっとだけ、彼の一重の目と私の目が合う
「すみません、ありがとうございます」
彼は笑いながら言い、そそくさと図書室を出て行ってしまう
そんな普通の彼を見て私は落胆した。そして分かってしまった。「独り」を見つけて欲しいのも「劇的な出会い」も私が望んでいた事だったのだ
そう気が付いた「独り」の私は、次はここに座ろうと思い図書室を出て行った
昔思ったことで、作者はこんな経験したことありません
・・・劇的な出会いをしてみたかったな
それよりも、これって純文学に入るのだろうか