魔法開発現場は何色ですか?
魔法開発現場という題目ですが
今回のお話にほとんど魔法はでてきておりません。
今日では魔法といえば
快適な生活をおくる上で欠かせないものとされている
旧時代では水一つ、食料を一つ確保するだけでも
多大な労力と危険を伴っていた
今日を生きるそれだけで精一杯だったため
変わることのない生と死の狭間を行き来する日々
それを見兼ねた神が魔法という力を与えた
この時代の魔法は
ただ単純に「水を出す」「火をつける」など
今日の魔法とは比べるにも値しないものではあったが
それでも今までにほとんどなかった
ゆとりを生み出すことができた
そして人類は
その生み出されたゆとりの時間を使って
さらなるゆとりを生み出すために
魔法という力を自分たちの手で発展させてきた
これはその魔法を発展させている最前線の
魔法を開発する現場の一幕
俺の名はアデル
二日後に公開されるくそみたいな魔法の開発リーダーだ
リーダーと言ってもほとんど名ばかりだけどな
魔法開発はこの現場が初めてで
学びやで一応は一通り以上は勉強してきたとは思っているが
それでもリーダーをいきなり任されるほど能力があるとは思っていない
事の発端は前任のリーダーだ
魔法に憧れ
どうすれば自分で魔法を作れるのかを調べ
周りが青春を謳歌している中勉強に打ち込み
ようやく夢への第一歩として入った開発現場
初日は開発リーダーと一言二言言葉を交わしただけで
今回のプロジェクトの資料を渡され熟読するよう命じられる
この時は周りの雰囲気が暗いなーとか
こんな夢物語のような魔法ほんとに作れるの?マジすげぇー
とか軽く考えていた
いくら夢へ近づいたとは言え
もうちょっと周りから読み取れとこの時の俺に言いたい
どう考えても真っ黒だろうと
次の日現場に行ったら
昨日少しだけ言葉を交わしたリーダーが辞めたと伝えられ
上曰く前任から次の開発リーダーは俺しかいないといわれた
・・・うん意味が分からない
心の内では同じ名前の人がいるのかーとか現実逃避してた
そこからはもう思い出したくもない悪戦苦闘の毎日
技術も経験も何もかも0なのに
進捗は?とか(俺が知りたいわ!)
ここ変更になったからとか(今の仕様すら把握できてないよ!)
いつまでかかってんの?とか(俺にどうしろと!)
いきなり爆発したんだけど!!とか(わかんねぇよ!)
毎日のようにつっつかれ
それを言われたまま対応しようと指示すると下からは反発され
いつの間にか人と精神がすり減っていく日々・・
俺の夢って何だったんだろうと振り返ったり
何もする気が起きなくなったり
ふと前任のように消えてしまえば楽になるのかなとか
正直だましだましではあるが一応完成までこぎつけたのは奇跡のようだ
いや完成したことだけじゃない
俺が今も生きていることが奇跡だ!
俺生きてる!
もちろんこれは俺一人の力じゃない
これはなんだかんだと
今まで残ってくれているみんなのおかげだ
程度の違いはあるが痩せこけてぼーっとした表情をしている
きっと俺と同じく
終わった虚無感とわずかな達成感が入り混じってるんじゃないだろうか
くそみたいなプロジェクトではあったけど
そこだけはよかったと思う
俺はどんなことがあったって
こいつらを・・・いやこの戦友達を裏切ったりはしない!
そうやって気持ちを噛みしめていると
この部屋唯一のドアが開く
入ってきたのはいつも怒号と一緒にやってくる上司だ
いつもと違うのは怒号がなく
不気味なほどにこやかな顔で近づいてくるところだ
俺は警戒しつつも何の用か尋ねると
懐から少し厚みのある封筒を取り出し
俺の肩を叩きながら激励とともに俺に渡してくる
「よくやってくれた!
これはボーナスだ受け取りなさい」
それだけを告げると
逃げるかのようにそそくさとこの部屋から出て行った
いつもであればグチグチと長時間あの人に拘束されるんだが
目的を達してすぐに帰ってくれるのはこちらとしては非常にありがたい
それにボーナスに懐柔されたという訳ではないが
今日はこの後みんなでお疲れ会と称して
飲みに行く予定なので有効に使わせてもらおう
戦友の一人である今日の幹事にもらった封筒をそのまま渡し確認を促す
「これで今日の飲み代はまかなえそうか?」
せっかくもらったボーナスだ
いくら入ってるかわからんが
金額が余ればメンバーで割って山分けのつもりだ
内心少しだけあの上司に感謝の気持ちが芽生えたかもしれない
本当に極々僅かだけど
しかしいつまでたっても戦友から返答がないのに気づき
戦友の顔を見てみると先ほどよりもさらに体調が悪そうな顔をしている
ふと封筒から出ているものが目に入ったが
どうやら中身はお金じゃなさそうだ
封筒を返してもらい自分で中身を確認してみると
「ボーナスは追加のお仕事です!
内容は今回と同じような魔法で所々違う感じ
納期については
今回の魔法を多分流用できると思うから
それを鑑みて余裕がとれるように2カ月にしておきました
同梱している仕様の通り自由に作ってもらっていいので
納期だけは必ず厳守するように」上司より
何度も読み返すが
頭が内容を受け付けてくれない
おかしいな・・・いろいろとおかしいな・・・
チラッと仕様を確認してみたけど全然別物だよ?
それに今回開発が完了した魔法だって
正直なんで動いているのかわからないレベルだよ?
あれ?俺何度も説明したよね?
しかも納期2カ月って何?6分の1じゃん
何度も読み返し解釈しようとするが
どう好意的に見ても・・・なんだろう死ねってことかな?
そうやって頭の中でグルグルと思考を巡らせていると
いつのまにか戦友達が俺を囲むように近くに来ていた
「アデルさん・・・いきなりいなくなったり・・・しませんよね?」
みんな不安そうな顔つきだ
そりゃ当たり前だろう
こんなの無理じゃん
お前たちも分かっているんだろう?
それでも俺は戦友たちの不安をかき消すために言葉を発する
「俺は前任とは違い絶対にお前たちを置いて言ったりはしない!」
そして続ける
「今回のプロジェクトだって正直絶対無理だみんなも思ったはずだ!
それでも俺たちは力を合わせ乗り越えることができた!」
その言葉に反応して戦友の一人が俯きながら消えるかのような声量で
「今回ばかりはどうやったって無理ですよ
それこそ1日を100時間ぐらいに伸ばさないと・・・」
俺だってわかってる
この仕様の魔法を2カ月で作れって
それこそ魔法のようなことだってことぐらい
「俺たちなら力を合わせればどんな困難だって乗り越えていけるはずだ!」
みんなの目から光が失われていくのが感じられる
そりゃこんな精神論を振りかざして
戦地に特攻しろと言われりゃそうなるよな
「今日のお疲れ会は延期だ時間が無い
取り掛かるなら早ければ早いほどいいからな」
戦友たちに見せつけるように
俺は力強く机に向かって歩いていく
「早くお前らもこい」
後ろからは失望や絶望など
色々負の感情が入り混じったものが感じられる
机までたどり着いても誰も動こうとしていない
だから俺はいつものように笑顔で戦友達に向けて最後の言葉を発する
「一緒に退職届と転職先を探そうぜ!」
みんなの目に光が戻った
ITのあるあるを魔法版にした感じのものを書こうと思いましたが
ちょっと長くなりそうだったので一番大事な部分ですが省略しました
気が向いたら書くかもしれません