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野良猫のように  作者: 潜水艦7号
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外国の猫はしたたかただった。

由紀がバイトを始めてから一週間。

“先輩”のジュンに色々と尋ねたりして大分事情も飲み込めてきた。出会い系サイトで相手を欲しがるタイプには三種類のヤツがいる。一つ目は言うまでも無く、そーゆー目的でのみ相手を探すヤツ。“割り切ったお付き合いを”とか言ってくるヤツはこのタイプだ。恥かしげもなくエロい文句を綴ってきたり、中にはあからさまに、“キミのヌード写真を見せて”等と言ってくるヤツも居る。ジュンはそういう場合の為にネットからそれっぽい写真を落としてきて、携帯サイズに加工してストックしてある、と言っていた。しつこい相手には、有効な手らしい。二つ目はひたすら優越感に浸りたいヤツ。こうゆうタイプには誇大妄想、というか、虚言癖としか言いようのないウソを平気で言う輩が多い。“自分はこんなにスゴいんだぞ!”と威張るのだ。それで女が惚れるとでも思っているのかも知れないが、すぐにウソだとバレるので惚れる代わりに哀れみをもよおしてくる。また、こうゆうヤツには常套句があって“自分はあの有名な○○の○○にあたるんだ”と自慢をしてくるのだ。“でも、それじゃぁエラいのはお前じゃなくて、その○○だろう”と思わず突っ込みを入れたくなってくる。

三つ目は現実の相手に合うのが怖いタイプ。女性が苦手というヤツや、二次元のオンナしか相手にできないオタク型、又は人付き合いが極端に下手で女性の顔を直視すると何も言えなくなってしまうのが、このタイプに当てはまる。また、ごく稀には“イメージが壊れるのがイヤだから”と言ってメールのみの相手を探しているヤツも居る。こうゆうのは中年でしかも、ちゃんと奥さんがいる場合が多い、とジュンが言っていた。

「ハーイ、皆サン。コンバンワ。」

ドアを開けてミッシェルが入ってきた。ミッシェルはフィリピン人専門のパブで働いているが、指名客を増やすためにここで相手を探しにきているのだ。ミッシェルが言うにはフィリビンパブとは言っても最近はホステスの半分以上が他の国の人間らしい。一度ビザが切れて帰国すると簡単には戻ってこれないからだ。ミッシェルもそろそろ期限が切れる、と言っていた。

「ネェネェ、コレ見テ、買ッチャッタ!」

ミッシェルが嬉しそうに手持ったものを見せびらかした。

「何?それ。・・あっ!スゴいじゃん!」

ジュンがミッシェルの元に駆け寄った。それは大きなデジカメだった。

「おっきいね、それ。高いんじゃないの?」

ミッシェルは腰を屈めると、目を輝かせて両手をさし出したジュンにそれを手渡した。

「フフ・・十二万円。買ッテモラッチャッタノ。」

「わぁ、いいなぁ。それって、お客さんに?」

「ソウ。帰国スルカラ、記念トシテ。」

由紀は不思議に思った。おそらく、その客はミッシェルと“いい仲”なのだろうが、それにしても記念品にしては高すぎる。バブル期とかならいざ知らず、一介の勤め人のサイフには重荷ではないだろか。それも二度と帰ってこない、つまり、この先イイ事が出来ない相手に対して、だ。

「よく、そんないいヤツ、買ってくれたわねぇ・・・。お金持ちなの?その人。」

由紀の問いかけにミッシェルは、フフと含み笑いを見せた。

「ウン、オ金持チ。ミッシェルが“今度帰国スルノ、デモ、アナタノ事、一生忘レナイ。ミッシェル、アナタトノ思イ出イッパイイッパイ残シテ置キタイカラ、デジカメ買ッテ”ッテオ願イシタラ、スグニ買ッテクレタ。」

彼女の口ぶりから察するに、多分同じ手をあっちにもこっちにも使っているに違いない。男ってヤツはホントに馬鹿な生き物だ、と由美はつくづく思った。それとも洋の東西を問わず、オンナってヤツは皆、逞しく出来ているのだろうか。

「ミッシェルって上手いねぇ~。そういうのって見習らないとね。・・で、ミッシェル何時帰るんだっけ?」

ジュンがデジカメをミッシェルに返しながら聞いた。

「明後日。デモ、スグニ戻ッテクルノ。」

「えっ?ビザいいの?」

由紀が尋ねる。

「ウン。オ客サンノ一人ガ、ミッシェルノ保証人ニナッテクレルノ。ダカラ、マタ戻ッテキテ日本デ仕事スルノ。日本デ仕事スルト、オ金タクサン手ニハイル。」

「へぇ~・・。でも、それってさっきのデジカメの人じゃないよね?」

もしそうだったら、泣き落とし戦術が通用する筈はない。

「ソウ。ミッシェル、イイオ客サン、沢山イルノ。明日はオ客サン皆デパーティースルノ。」

今生の別れとばかりに泣きの涙で見送った筈の女性が、すぐに戻ってきて別の店で働いている、と知ったら、その男達はどうするのだろう。もしも男女の立場が逆だったら、これは絶対に刃傷沙汰になるだろう。だが、多分男達はそれでも“ダマされた自分がアホだった”と諦めて終わりにするだろう。可哀想に。由紀は明日のパーティー出席するという面々にこっそりと教えてやりたい気にすらなった。

「ジャァ、今日ハ、加護サンニ挨拶ニ来タダケダカラ、コレデ帰ルネ。マタ、スグニ戻ッテ来ルカラ。」

ミッシェルは手を振りながら出て行った。

「あ~ぁ、また一人減っちゃったね・・・。」

閉じたドアを見ながらジュンが大きくため息をついた。

「大丈夫よ。すぐに戻ってくるんでしょ?それに、あたしやミキさんも居るし。」

「・・・そうだね。シマさんや加護さんも居るし、新人さんも募集してるらしいから、また増えるよね。」

そういえば今日は来てないが、カマ太郎のヤツも居たか。自分的にはあいつは居なくてもいいんだが・・・と、由紀は一瞬思った。しかし、それを口に出すとジュンに怒られそうなので止めることにした。

「・・ところで、さ。」

いい機会だ。と由紀は思った。どうしてもジュンには聞いておきたい事があるのだ。

つまり、ジュンが何故此処に居るのかを。


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