第四章
駅の構内を出口へ向かう途中、ポケットの中のスマートフォンが震えた。
起動すると通知が一件入っている。
『数学の小テストって何曜?』
送信者は「大輪田麻衣子」。
奴め、今日だと知らないな、と返信を返そうとした時だった。
突然、硬いものが転がり落ちるような音がした。
「何……?」
辺りを見渡すも、特に変わった様子はない。奇妙に思いつつ出口へ向かおうとすると、今度は頭上付近の明かりが一斉に消えた。
「何だ、突然暗くなったぞ!?」
「停電か?」
突然の暗転に辺りからは次々と不安の声が上がる。
「…何か降ってきたぞ!」
騒然とする中、不意に何かが天井から音もなく剥がれ落ちた。
あっと言う間に地面に落下し、乾いた音を立ててバラバラになる。
駅天井の下地が崩落したのだと、気付くのに数刻を要した。
灰色の防護シートが剥がれて天井から垂れ下がっているのが見える。
改装工事中の箇所を覆っていたものだろう。
その隙間からは黒く無骨な梁が顔をのぞかせ、溜まっていた埃や砂がさらさらと舞い降りてくるのが見える。
工事を請け負った業者の不手際だろうか。
「何かぐらついてないか!?」
「みんな逃げろ!!」
「……何あれ」
梁の一つが揺らいだかと思うと、天井から離脱した。組み合わさっていたパーツはバランスを失い、次々と落下を始める。
落下物は防護シートを突き破り、崩れかかった天井の下地を巻き込みながら地上に降り注ぐ。やけにゆっくりと感じられるが、実際は一瞬だ。
悟った。
私は押し潰されて、生を終えるのだ。
最期はあまりに呆気なかった。
そう諦め掛けた時だった。
「……え?」
不意に後ろへ強く引っ張られ、体勢を崩して尻餅をつく。
次の瞬間、崩れ落ちた駅天井は勢いを殺ぬまま目の前に叩きつけられた。
大気が震えた。
轟音が辺りに響き渡り、地面から振動が伝わってきた。衝撃は後に尾を引き、余韻が鳴り止むまでその場を沈黙が支配した。
やがて舞い上がった塵芥の霧が晴れると、眼前に広がる暗闇の最中に人々が呆然と立ち尽くしているのが浮かび上がって見えてきた。
はっとし、助けてくれた誰かの姿を探す。
しかし誰もいなかった。
辺りに広がるのは暗闇と瓦礫ばかりで、背後には誰の姿も見当たらない。
見通しが悪く、屋外から射し込むわずかな光だけが視界の頼りだ。
「あっ……」
誰ともなしに発せられた声。
気がつくと空は灰色に染まり、俄かにポツポツと雨音が聞こえ始めた。
見えるはずのない場所から覗く空はどこまでも現実味が無く、気味が悪い。
ここにいても仕方がない。
今は外に出ることだけを考えよう。
そう考え、歩き出そうとすると何かを踏んだ。
恐る恐る片足を退けてみると、見覚えのある髪飾りが粉々に砕け散っていた。
思わずどきりとしたが、とにかく外を目指そうと出口の方へ急いだ。




