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5.インターネットに民主主義は無いことについて

【本話の要点】

・インターネットは、決して平等なプラットフォームではない。それはインターネットの構造そのものが、平等に連結された「トポロジー型構造」ではなく、不均衡に連結された「多中心型構造」であるためである。

・「パレートの法則」は「小説家になろう」に投稿された作品のブックマークだけでなく、小説投稿サイト自体のインターネット上での立ち位置をも規定する。

 今ではすっかり古い映画となってしまいましたが、シュワルツェネッガーが主演をつとめた映画に『ターミネーター』シリーズがあります。シュワルツェネッガー扮するサイボーグが未来からやってきて、敵方のサイボーグと戦闘を繰り広げるわけですが、敵方のサイボーグの背後には、「スカイネット」と呼ばれる、自我をもった防衛システムの存在がほのめかされています。


 『ターミネーターⅢ』においては、そのスカイネット本部の破壊が試みられるわけですが、主人公であるジョン・コナーは、「スカイネット本部の破壊」というミッションが矛盾を孕んだ内容である、と、終盤になって悟ります(なおネタバレになってしまうので、詳細は省きます)。要するに、防衛システムがネットワーク上に存在する以上、「スカイネットの本部」など存在するはずがないのです。


 一回聞いたかぎりでは、確かにその通りに思えます。しかし実は、ネットワークにはちゃんと「本部」のような部位が存在しています。『ターミネーターⅢ』を観終わった後、観客は「これから主人公たちは、ありとあらゆるネットワーク通信システムを破壊するという、絶望的な戦いを強いられるのか――」という一種アンニュイな気分に襲われますが、しらみつぶしにネットワーク通信システムを破壊しなくとも、全体の二割程度を破壊すれば、勝機は十分にあるといって良いでしょう。


 それはなぜか? ――私たちはインターネットについて、次のような構造体を想像しがちです。インターネット上に通信システムが5つしかない、と仮定した場合、1つの通信システムは他の4つの通信システムと互いに「平等に」繫がっている――という想像です。この想像を図にすると、以下のようになります(図②)。A、B、C、D、Eの通信システムがあり、AはB、C、D、Eと平等に繫がっているわけです。このような構造を、分散型トポロジーと言います。


挿絵(By みてみん)


 もし「スカイネット」が分散型トポロジー型のネットワーク内にいた場合、まさしくしらみつぶしに通信システムを破壊しなくてはなりません。ところが実際のネットワークは、分散型トポロジーの構造をとっていません。


 今度は、下の図を確認してみましょう(図③)。AからOまで、15個の通信システムによって成立するネットワークです。ところが、先ほどの図とは異なり、通信システムによって接続状態は様々です。Aは8個の通信システムと接続されている一方、G、Oにいたっては2個の通信システムとしか繫がっていません。


挿絵(By みてみん)


 このような繫がり方の不均衡が、ネットワークにおいて興味深い特徴を作り上げています。最大の接続数を誇る通信システムAは、もっとも大量に、効率よく情報を収集することができます。通信システムF、J、Kなどは、Aに従属しないかぎり情報を収集することは困難になります。


 では、通信システムAがネットワーク内で万能かといえば、そんなこともありません。通信システムAが、GやOの情報を入手しようとする場合、通信システムE、Mを経由しない限りは情報を獲得することができません。その意味で、通信システムE、Mは、このネットワークの中で独自の地位を築いていると言えるでしょう。


 このような構造を「多中心型の構造」と呼びます。分散型トポロジーとは異なり、各通信システムの接続数は不均衡ですが、その代わりに幾つかの通信システムが、他の通信システムに対して、「中心」のような役割を果たしているわけです。


 実際のネットワークもまた、このような「多中心型の構造」をとっています。そして、このような構造体を破壊するのは、意外と簡単です。図③に即して言えば、「中心」としての役割を果たしているシステムA、C、E、Mを破壊してしまえばいいわけです(図④)。図④を見れば、15個の通信システムのうち、たった4個を破壊しただけで、ほぼネットワークが機能しなくなってしまう有様が、視覚的に把握できるものと思います。


挿絵(By みてみん)


 いい加減本題に入りましょう。ネットワーク構造が、「多中心型の構造」であるということはお分かり頂けたと思います。そしてネットワークが「多中心型の構造」を有しているとき、実はそこに「パレートの法則」を見出すことが可能なのです。


 先ほど図④で確認したとおり、通信システムA、C、E、Mを破壊しただけで、ネットワークはバラバラになってしまいました。このとき、通信システムA、C、E、Mは、このネットワーク内において「ハブ」としての機能を果たしていたわけです。ずば抜けて多くのリンクを持つ「ハブ」は、「多中心型の構造」を有する構造体の中で必ず存在します。「小説家になろう」でたとえるならば、ブックマークの格差の頂上に位置している作品のほとんどが、「ハブ」としての役割を持っているのです。


 さて、今度は下の散布図を見てください(図⑤)。散布図にする意味が若干疑わしいのですが、図⑤は各小説投稿サイトにおける、2016年2月1日のアクセス数です。各小説投稿サイトのポータルサイトだけをアクセス解析にかけたため、このアクセス数がそのまま小説投稿サイト全体のアクセス数というわけではありませんが、ネットワークの構造を知るだけならばこれで十分です。


挿絵(By みてみん)


 項目4.で示した図①と、この図⑤とを見比べてみてください。異なった対象から収集したデータであるにもかかわらず、グラフの形に一定の類似があることがお分かりいただけるかと思います。「小説家になろう」における各作品のブックマークが「パレートの法則」に従うように、インターネットにおける各小説投稿サイトもまた、「パレートの法則」に従っているわけです。


 図⑤において、左から数えて2個目のプロットは、「小説家になろう」を表しています。一方、左から数えて11個目のプロットはカクヨムを表しています。もちろんカクヨムはオープンしたてであり、これからアクセス数は順調に伸びていくものと思いますが、今のところその差は歴然です。

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