4.「パレートの法則」について
【本話の要点】
・「小説家になろう」の、作品ごとのブックマーク数に格差が大きいのは、「パレート分布」にしたがっているためであり、ウェブ上にコンテンツを作る上での宿命である(だから、ブックマーク数が少ないことを、そこまで悲観する必要はない)。
3.の項目で挙げた①ないし②の期待は、実は同じ論理から説明することが可能です。
これまでに筆者が書いたエッセイを通して読んでくださっている方は、その論理についてもう何度も言及しているため、「またかよ!」とお思いになるかもしれません。筆者自身も、同工異曲のエッセイを濫発している観があるため、おなじ論理を使いまわすのは嫌なのですが、ウェブ小説投稿サイトが、必然的に「インターネット構造」の一部であるかぎり、この論理を使わずして一切を説明することはできません。それほどまでにこの論理は単純であり、単純であるがゆえに強力なのです。
「この論理」とは何か? ――それはパレートの法則であり、「ベキ法則」と呼ばれているものです。
パレートの法則は、次のような式で表されます;
P(x) = A*x^-α
式を出されても困る人が多いと思うので、「小説家になろう」のブックマークに即して、噛み砕いて説明すると、「ブックマーク数が10000件を超えるような作品は2、3作品ある一方で、ブックマーク数が2、3件しかない作品は10000作品あるよ」ということを、上記の式は示しています。
大学で経営学を専攻していた方ならば、「80:20の法則(2:8の法則)」というものについて聞き知っているかもしれません。「80:20の法則(2:8の法則)」は経験則であるため、厳密に言えばパレートの法則とは異なるのですが、両法則が示唆している内容はだいたい一致します。すなわち「ビジネスにおいて、売り上げの8割は全顧客の2割が生み出している」という内容がそれです。「小説家になろう」に即して言えば、「小説投稿サイト『小説家になろう』において、ブックマークの8割は全作品の2割によって占められている」ということになります。
パレートの法則が「小説家になろう」で作用していることを確認するために、下の図を用意しました(図①)。図①では、2016年3月15日時点における、「ブックマーク数の多い順」での100作品が並べられています。
図①中にある数式は、字が潰れてしまって読みにくいかもしれませんが、
Y = 111489 * x ^ -0.288
となっています。ちなみにαの値は小さいほど、格差が大きいことを示しています。2014年9月8日はα=0.3141、2015年5月29日はα=0.2518、2015年9月19日はα=0.2473、と順調に格差が拡大していたため、ここに来て少しαの値が大きくなったのは、喜ぶべきことだと思います(註:ちなみに「80:20の法則(2:8の法則)」は、ここでは通用しません)。
余談ですが、世界各国における富の配分について調査すると、いかなる政治体制の国であっても、だいたいα=1.5に収束するそうです。21世紀に入ってから、世界の一体化はますます加速しているため、αの値は1.5より小さくなっているかもしれません。しかし、さすがにα<0.3などという値にはなっていないでしょう。「小説家になろう」におけるブックマーク数の格差のすさまじさを、このαという数値は端的に示しています。
さて、ここまでの段階で、筆者は話題を「小説家になろう」に限定していました。しかし「パレートの法則」は、実は「小説家になろう」以外の小説投稿サイトをも規定しています。「パレートの法則」は、インターネットの構造そのものにも通用しているためです。
「パレート分布」の特徴の一つに「平均・分散が無限大に発散する」という特徴があります。一方、高校・大学で習う統計学では、この「平均・分散」が大きな意味を持ちます。裏を返せば、「『小説家になろう』のブックマーク数を分析する上で、統計学をそのまま利用しても大した収穫がない」ということになります。このことだけは念頭においてください。