1.「カクヨム」オープン前におけるユーザーの期待について
【本話の要点】
・2016年2月29日に、小説投稿サイト「カクヨム」がオープンした。
・「『カクヨム』では、『小説家になろう』で見られるような欠点は克服されているのではないか」と、ユーザーからの期待は大きかった。
2016年3月1日をもって、2017年度の新卒をターゲットとした就職活動が解禁されました。
2016年度の新卒採用活動では、「3月に解禁し、8月から選考がスタートする」という予定が組まれていました。一方2017年度においては「3月に解禁し、6月には選考がスタートする」と、かなり過密な日程に調整されました。
6月といえば、3月期決算の企業にとっては、株主総会の準備・実施で大わらわな時期です。また学生の側に立っていえば、卒業研究の中間発表などを行なうため、それなりの準備をしなくてはならない時期にあたります(大学院生・理系の学生にとっては切実な問題です)。
梅雨のうっとうしい時期において、企業の側も学生の側も、切羽詰った状況下で右往左往することになりかねません。個人的にこれは改悪だと思うのですが、就職活動の時期について論じることは、このエッセイの本旨ではありません。この問題はひとまず、産・官・学の有識者の方々に任せましょう。
就職活動が解禁になり、大手の就活サイトにアクセスが殺到する、その24時間ほど前のことです。とあるウェブサイトにもアクセスが殺到しました。“KADOKAWA”と“はてな”との協働によりオープンした小説投稿サイト、「カクヨム」です(註:以下、カギカッコなしで、カクヨム、と表記します)。
「“KADOKAWA”と“はてな”とが、新しい小説投稿サイトを作る」という情報が流れ始めたのは、2015年の10月中旬頃のことになります。Twitterのトレンドを見て、初めてそのニュースに気づいた、という方も多いでしょう(かくいう筆者も、そんな一人です)。またこのニュースに対し、少なからぬ期待を抱いた「小説家になろう」ユーザーも多いはずです。
では「小説家になろう」ユーザーが、そのときに抱いた「期待」とは何でしょうか? ――実は当時の様子について、筆者は正確なデータを持っていません。いきおい記憶から引用することになってしまうのですが、「新しい小説投稿サイトでは、『小説家になろう』では生じなかった動向が生じるのではないか」ということを、多くのユーザーが期待していたのではないかという印象を抱いています。
「小説家になろう」で流行しているのは、異世界転生モノが大半であり、それ以外のジャンルの小説を書いている作者/それ以外のジャンルを好んで読む読者は、不自由を感じることが多い。しかし新しい小説投稿サイトでは、「小説家になろう」で流行していたジャンルが流行するとは、必ずしも言い切れない。したがって新しい小説投稿サイトには、「小説家になろう」では存在しなかった傾向が生まれるのではないか。――噛み砕いた例を挙げるならば、きっとこういうことになります。
「新しい小説投稿サイトがオープンする」という情報が流れ始めてから、実際にオープンするまでの間には、それなりの猶予期間が存在していました。もっとも、新しい小説投稿サイト(後になってカクヨム、という名前だと判明しました)では、事前のユーザー登録が可能だったため、かなり早い段階から登録を済ませていた人も多かったのですが、本格的にカクヨムがオープンするまでの間に、ユーザーの期待も著しく高まりました。期待が高まった背景にも、やはり既存の小説投稿サイトに対する不満が存在していたことは、容易に理解されるでしょう。