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野郎は勘弁、女は歓迎。

 柿川が眉間の皺を寄せているとき、俺達は今後のことをまとめていた。

 「で、どうやってあの惨劇を隠すかってのは…」

 「あー、それさ、むしろ、さ、言っちゃうってのはどうよ?ミステリーハンターになれるぜ?」

 事の重大さは既に分かっているのに、桐谷は阿呆なことをいっている。

 「なんでだ!…グールを利用するって言っただろ?」

 ああ、そうだったそうだったと、キリタニは突然興味を食べ物へ移し、絶えず口へ食べ物を運んで行く。

 コーヒーの香りに身も心も洗われ、ぽけーっとしていると、キリタニも食べ終わった。少し休憩をとると椅子にかけていたコートを着て、席をたつ。


 「キッカちゃんのこと、隠しといてね?」


 代金を払う時、ははは、と店長は笑顔で言った。

 「サービスするからさ。」

 「そんなことしなくても、言いませんよ。」

 そもそも、この人は特になにもなくても、顔馴染みには何かしらのおまけをつけてくれる。そういう人だ。今日頼んでもないシフォンケーキがきたのは、柿川からの口止めではなく、毎回してくれるおまけだ。

 「そうかい?ありがとう。申し訳ありません。時間を取らせてしまい。またのお越しをお待ちしています。」

 「ええ、また。」

 顔は互いに覚えていたが会話はしたことがない関係だったので、嬉しさを抱えつつ外に出る。しかし、少し利用してやろうと思っていたが、まあ、それもないだろう。店長に感謝し職務に従事するんだな柿川。

 足取りは重かったが、結局、館へつく。溜め息をだらだらと吐く。吐く…か…。時間がたって死臭が出てたりしたら、まずいことになる。クウヤに処理を任せはしたが、全部を平らげるわけではないだろう。策はまだ講じる必要がありそうだ。

 扉も昨日の十二割増し位に重い。しかし、昨日泣かされただけあり、扉を開けるコツは得た。ドアノブをひねり、扉を横にやるようにしながら、開ける…!

 死臭大開放とはならず安心した。二次惨劇は防げたようだ。というかむしろ芳香剤のような芳りが、漂っている。階段も綺麗になっている。深い色合いの木材が本来の艶を取り戻している。クウヤが掃除でもしたのだろうか。

 二階に上がると驚いた。きれいさっぱりになっている。欠片も残っていない、床もピカピカに磨きあげられている。以前は埃っぽく、ほの暗かったが、今ではそんな評価はできない。空気も新鮮でいて、窓を開け放ち採光している。ここでも、芳香剤の香りが鼻についる。

 感嘆の声をあげていると、ガチャリと部屋の扉が開いた。その部屋は記憶が正しければ、血の惨劇が繰り広げられていた部屋だ。見ればグール、クウヤがいた。何処からか取り出したのか、エプロンをつけ、モップを片手にしている。

 「いやー、お待ちしてましたよ~。今ちょうど、掃除終わったところです~。綺麗にしましたよ!ちょっと、汚れすぎた家具とか絨毯はどけましたけど。」

 昨日、赤一色で染まっていた部屋を見れば、家具がなくて寂しさを覚えるが、部屋としてはとても清潔だった。窓は綺麗に拭かれていて、秋の心地よい陽の光が、部屋に明るみをもたらす。匂いも、昨日のような、鉄臭いものではなく花の匂い。部屋の隅に置かれた芳香剤スティックが出処だろう。心地よい環境になっている。

 しかし、どどーんと部屋の真ん中に、山状の白いモノが目につく。

「骨か…」

 キリタニが呟いた。

 それは人骨だった。洒落頭がこちらを向いている。部屋の様式が西洋だから、そういうインテリアと言われれば、見えなくもないが、骨があまり綺麗な形でなく、量も狂気的なのがその可能性を否定している。クウヤが本当に食した割には肉だけが取れたように真っ白だった。残りカスがついていたら危なかった。

 グールだから、肉は喰えても、骨までは喰えない。そういうことだ。といっても、あしが早いナマモノは対処できたし、血の跡も注視しないとわからない程度だ。期待以上の働きだ。芳香剤について尋ねると近くの雑貨屋で買ったらしい。金は自分のポケットに入っていたものを使ったらしい。グールになっても買い物が出来るのか、そう思ったが、この金髪グールはグールの名を冠してはいるものの殆ど人の容姿と変わりない。それに人としての記憶が多少残っているらしい。店員さんに喰らいつかなくて良かった。

 「もう一度、サモンだ。」

 いつの間にか、シルルはリュックから、出ていた。またか、という俺の小声にシルルは答える。

 「まただ。今度はスケルトンとかで良いだろう。」

 『とか』とはまた適当だ。骨くらいなら埋めても問題ないのでは、そう思った方、出直してきてほしい。そういった油断は手がかりになり、お縄につく。土曜日の6時でよく学んだ。彼は探偵側だが。

 キリタニは召喚を見たことがないので、少し興奮気味だ。今回の召喚準備は彼に任せるとしよう。

 「方陣を描くものがないな。」

 「あー、血とかか?」

 「まあ、その方が好ましい。カシオ、指でも適当に切ったらどうだ?」

 「好ましいってことは、基本なんでもいいんだな。そこに転がってる万年筆でいいんじゃね?」

 俺はそう言い、都合よく落ちていた黒い万年筆を手に取った。

 「ああ、それですか。掃除してたら出てきたやつですね。」

 クウヤの説明を耳にいれつつ、手の上で万年筆を転がし、キャップを外す。黄金色のペン先が目に染みる。万年筆に特別詳しくはないが胴が細すぎる印象を覚える。

 「で、書けんのかよ。」

 キリタニがきいてくる。

 基本、紙にインクをつけるものなので、無理だろうと予測はついていたが、一応形だけ床にペン先をつける。インクがないのか、乾いたかは知らないがペン先はしなるだけであった。ハナから期待していなかったので、未練もなく置かれていた場所へ戻すところで、シルルが万年筆に興味を持つ。これか?と万年筆をあげると、シルルはフワフワと俺が持っている万年筆の周りを遊泳し、万年筆の隅から隅までを品定めをするかのようにねっとり観察する。

 心置きなく品定めをした後にシルルはふん、と頷く。

 「カシオ、その筆に力を込めよ。」

 そう言われたので、ギギギとペンを持つ手に力を入れる。

 「腕力ではない。魔力だ。魔力を込めよ。」

 先にいえと思ったが、先に言われてもどうしようもできない。俺はハンドパワーも、スピリチュアルパワーも持ち合わせちゃいない。これは試したことがあるので、確実だ。その事を察したのかシルルは続ける。

 「まずは、自分の外を取り巻く、または内で渦巻くチカラを想像しろ。人の魔力は己が妄想から始まった。貴様でも不可能ではない。」

 妄想、夢想、理想を描くことだけは得意だ。眼を閉じて、言われた通りに、想像する。とりあえず自分をイメージする。次に力をその自分に纏わせる。すると、瞼の色が少し明るくなる。

 「お、先が光ってんな。さすがカシオ、妄想は得意だな!」

 「芽吹いたようだな。まあ、先日、無意識に取り出したので、もうすでに発芽はしていたか。」

 万年筆の先を見れば光を発している。だが、それは普通の光ではない。光の粒子一つ一つが粒だっているようでぼやけていない。よく、見たいと思い、万年筆を宙に滑らすと万年筆の軌道にその光が残留した。か細くはあるものの、はっきりとした光芒だ。捕らえれるかと思い、光芒を掴むがちょうど掴んだ所だけ、霧散した。

 それにしても意外だ。俺には魔力のようなスピリチュアルパワーは存在しないと思っていたのに、むしろ、ないからこそ努力して成り上がるタイプだと、思っていた。しかし、意外にあっさり、会得できるものだ。

 「ふむ。やはり、それはただの万年筆ではないようだな。こうぼう筆とでも名付けようか。」

 「弘法大師とかけてんのか?まあ、いいや。で、これ。何に使うんだよ。」

 空間に「鹿」書きながら聞く。光の強弱やしまい方も分からないので続け書きになる。だいぶと汚い「鹿」になる。

 「魔方陣を描くためだけの筆だろうか、見たところ、その光、魔力で構成されている。練習がてらスケルトンの魔法陣を描いてはどうだカシオ。」




 そのころ柿川は舘の庭の茂みに隠れていた。

 喫茶「ナオ」を出た鹿追、桐谷の我々二人を尾行し始めた柿川はナオの主人に嘘をついてまできたので見失うわけにいかないと意気込んでいた。実のところ、彼女は店長にバレないよう我々二人に交渉するか、柿川も我々の秘密を知るかのどちらかが達成できればよかった。

 俺が語ることは無かったが、志久坂学園は自由度でいうとだいぶ高水準を誇る。制服こそあるものの着用は義務づけられていない。個性を出したい者は思う存分自らのセンスを晒している。大抵の生徒は面倒だから、制服を着ているが。校則も必要最低限にしている。しかし何故かアルバイトには厳しい。進学校を謳う高校だから勉学へ集中を向けてほしいのもある。それと「拘束は最低限しかしないからその分、生徒の皆さんも最低限の校則は守れよな。」という圧力が強く息づいているのも理由の一つか。

 柿川は完全に会話にでるタイミングを見失っていた。今出て、先程までアルバイトをしていたのになぜ、ここにいるのかと思われると怪しまれる。ただでさえ弱みを握られているのに更に弱みを増やしかねない行為はリスクが高すぎた。

 もう一つの、こちらも向こうの秘密を握るという可能性もある。しかし、それは一朝一夕で得られるとも思えない。それにやましい点も無いかもしれない。それは桐谷に限ってはないかなと、柿川は思っていたが。

 そんなこんなで柿川は後をつけることしか出来なかった。

歩を進めていくと、見慣れた風景になっていくので安心した。ここで知らない所にいかれると、帰るのが不安だ。

 ここらの土地勘はあるから柿川は察したが、この先は住宅街しかない。案の定、閑静な住宅街にさしかかって、もしや帰宅かと、柿川は焦りが募る。バイトを切り上げるには全く釣り合わない収穫のない尾行行脚だ。行脚と呼べるほど距離もないのが柿川の苛立ちを増した。

 柿川は自分の家も近くにあるので、もう帰ろうか悩み始めていると、我々が、裏路地に入っていくのをみて好機の気配は感じ取った。つまりは我々の弱点を掴む気配を。









 


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