アンダー
期間空けましたので、あらすじ。
シルルから魔力やなんやらのハウトゥーを学ぶ鹿追、桐谷、柿川。
ある程度その非日常に慣れてきた頃、なんとシルルが姿を消してしまった!
捜索を行うもあまり捗らず…
昼食を食べる時間も惜しんでの捜索でもシルルは見当たらなかった。他の生徒の目もはばからず、ゴミ箱の中や自販機の下などのシルルが潜める場所をくまなく探したが手がかりすら、掴めなかった。
校舎内に残っているのかも怪しくなってきたところに予鈴が鳴り、それまで分かれて校舎内を駆け回っていた俺、キリタニ、柿川は合流して経過報告しあったが、誰一人シルルの影を捉えていなかった。
「いないわね。」
「いねーな。」
「いないな。」
「とりあえず教室戻らないと、授業始まるぜ?」
「ホント見た目の割に真面目よね。」
「戻るか。」
午後の授業を休み、探すこともできたが、そこまでせずともいずれ戻ってくる。そんな思いをこの時、持っていた。しかし、それは見当違いも良いとこで、シルルはその翌日も、またその翌日も戻ってこなかった。
シルルがいなくても魔力修練は怠らなかった。自分の力が扱えなければ格好がつかないし、俺の求めた非日常は確かにそこにあった。光芒筆の扱いも要領を得はじめていた。つい最近ではクウヤ、図形ことスケルトン達の呼び出し召喚も行えるようになった。こちらが命じれば彼らは戻るし、彼らの使い勝手は大幅に上昇した。といっても例の洋館をお化け屋敷にするため常時、館に待機させているのが現状だ。
だが、これから俺の成長は見込めないだろう。
どうしてか。
師であるシルルが失踪したままであるからだ。
捜索も一応は継続しているが、捜索の体を装ってるだけだ。というか、そうせざるを得ない。なにせ一つも手がかりを掴めてないのだ。もはや、なにかあったとき、ちゃんと探してました、と言い逃れるための行動だった。しかし、柿川は俺とは違い全力だった。責任を感じているからなのは火を見るより明らかだった。
そんな息苦しい停滞が終わったのはシルル失踪より三日後の登校時の事だ。
体の気だるさを抱えながら通学路を歩く。ここのところ狂ったように魔力を使用していたため、慢性的に体が重いのだ。そこに元よりあった貧血が合わさり、身体不調のマーチは勢いを増していた。目眩は頻発し、手は痺れ、それらを収めるための深呼吸の回数は多くなっていた。
そこにいつかの声の大きい男子生徒達の声が聞こえた。
「知ってるか? No.1メガネ君の顔色がこの頃ヤバくて目付きもヤバくなってるって噂。」
「犯罪者見たいな雰囲気なんだろ。コエー。」
彼らはやはり声が大きく、その声は聞き取りやすいが、脆くなった身体にはよく響いた。しかし話によるとメガネ君はあまり状態が良くないようだ。一種の危うさを抱えてるのには気づいていたが、彼の状態の原因が心象的なモノのせいなのかは分からない。もしそうであるなら彼の膨らみきった仄暗いモノは一体どこへ向くのだろうか。
「…。」
「…。」
突如、男子生徒達の声が止む。何事かとそちらを見ると噂の人物がいた。
「…。」
彼は男子生徒達には一瞥もくれず、進む。心なしかこちらに来ている気がする。目が合う。人相は以前より酷くなり、炯炯とした眼は刃物のようだ。堪えようとしても体はたじろいでしまう。逃げることも許されず硬直する。
メガネ君は俺の目の前まで来て歩を止める。こちらをじぃっと見るだけでそれ以上の動きを見せない。
「な、なんだ?」
意図が分からず、思わずそう問う。
それからメガネ君はねっとりとした動作でメガネを上げる。そして、その凝り固まった無表情をやっと崩す。最初に露になった表情は愉悦ーー笑みだ。三日月状の裂け目から白い歯が覗く。彼のこんな表情は彼を知ってる人間ほど想像がつかないだろう。
「お前の悪魔は頂いた。今夜お前達の洋館を訪れよう。」
そう言うと、メガネ君は去っていった。
なぜだ。
なんの話だ。
悪魔とは。
答えがない問いで頭が埋め尽くされた。とりあえず分かることだけを組み上げる。
不鮮明なことは多いが確かなことは一つ。シルルはメガネ君が拐ったのだ。その動機も、どうしてメガネ君が情報を持っているのかも分からないが、これだけは言える。むしろこれだけしか言えない。向こうはこちらの情報をだいぶと掴んでいる様子だったが、こちらは被害にあった事実のみ。圧倒的に不利だ。我々からアクションを取るのは危険過ぎる。が、そうしたい衝動は熱を持ち簡単には収まりそうにない。どこから来るものなのかは分からないが、久しく感じたその静かな激情は懐かしさを孕んでいた。
深呼吸をし、居住まいをただす。
「要相談だな。」
独り言を吐いてから俺は学校へ向かった。
これより毎週水曜日、日曜日の更新を心がけます。