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チカラ力

 疲労を抱えながら学校へ向かう!いつもなら休日に疲れは無くして、月曜日を迎えるが昨日はそうはいかなかった。

 柿川に事がバレた次の日、光芒筆の扱い、魔方陣の知識やらを学ばさせられた。それもほぼ一日中だ。ご近所さん、ましてや家族にもシルルや光芒筆を見られるのはまずいのでカーテンも閉め切り、ドアにも滅多にかけないカギをかけた。そのせいで体内時計が見事に狂い、昼の二時だと思って外に出ると夜の八時だった。

 不摂生の極みを味わったその代償か、俺は光芒筆で六芒星程度は書けるようになった。だが形は拙いし、時間もかかる。実用できる段階には達していない。しかし、シルルに練習するなんて言った手前、辞めるなんて言えない。

 教室に入る。ここで少しでも女子に近づきたいと思う思春期男子は柿川に声をかけるだろう。が、俺はそこら辺を全て弁えている。 柿川を視界にさえ入れずに席につく。幸い柿川の席はちょうど後ろだ。ふん、と心の中で大人な鹿追樫雄を演出し、授業の準備を始める。このまま一時間目のチャイムが鳴るまで待機していたかったが、そうはいかない。

 「よ、柿川。土曜のこと誰にも言ってないだろうな?」

嗚呼、どうして君はそんなに阿呆なのか、キリタニよ。キリタニは見かけによらず聡い。天然のバカではない。こういった面倒が大好物なのだ。証拠にキリタニの声からは悪戯っ子の様なやんちゃさが聞いてとれる。

 キリタニの言葉で柿川と談笑していた女子がにわかに色めき立つ。どうせ彼女達の脳内では「誰にもいってない→秘密→恋!?」みたいな図式が成り立っているのだろう。流石に端折り過ぎだが、あながち間違いでもないだろう。それに土曜は学生からしたら休日だし、休日に会う関係なんて、そりゃ親密ですよねって話だ。しにかし、本当に彼女達は何処でも何時でも、そういったコトを求めている。それが彼女達の専売特許なのだろうが。ちょっとだけ腹が立つ。

 「うん。言ってないよ。キリタニ君が何もないところで転んだことは。」

 上手い。答えるのに時間をそんなにかけていないし、キリタニ君と「君」をつけることで、距離をアピール。そして内容そのものがどうでも良いし、会うべくして会ってはいないことを示唆している。

答えとしては満点だろう。

 キリタニは「言うなよ!」と言い己の席に、ではなくこちらへ向かってくる。

 「いやー、強かった。バイトのこともあるから、嫌な顔が見れるかと思ったけど、あんな風になってビックリだったわー。そういう関係でもないのにな。助けてもらったわー。」

 キリタニをさっき聡い、と評した。あれは取り消しだ。




 特に難なく昼休みに入る。

 今日のシルルは大人しい。スクールバッグの中で睡眠中だからだ。昨日頑張ったからと本人は言ったが、別に寝なくても良いと初日に俺に明かしていた。ただ惰眠の快楽を貪りたいだけなのだ。

 召喚初日こそあらゆる物が新鮮に映ったのか、矢継ぎ早に質問をぶつけてきたが、今では殆どない。飽き性なのだろう。

五時間目が移動授業で、生徒が少なくなった所を見計らい俺は柿川に声を掛ける。学校での柿川の髪型はくくる位置が低めのポニーテールだ。ここではポニーテールの良さについて語り明かしても良いが生憎時間がない、また今度の機会としよう。

 「今日、館に来れるよな?」

 「一応、ナオでもバイトはないからね。」

 「オッケー。サンキュー。」

 今日来てくれという旨はもう、伝えてあったが、念押しの確認だ。

柿川はもう関係ないんじゃないのー?と思いの方もいるだろう。最初は俺もそう思っていたが、グールやらスケルトンやら、曰く付きのあの館やらの管理が俺とキリタニと黒毛玉ではどうも人員不足な気がした。だから誘った。阿呆なキリタニより、お互い弱点を握りあっている柿川の方がよっぽど信頼できる。阿呆なキリタニより。

 後、柿川が握る俺達の秘密は些かファンシーというか、なかなか信じてもらえるモノではない。だから、事実上、秘密を握りあっているとはいえ、こちらの立場が強い。柿川はそれも分かっているようで、来て欲しい、と伝えると、露骨に嫌そうな顔しながら了承した。言わば体のいいパシり条約を結んだ訳だから、嫌な顔の一つ位して当たり前だ。

 まあ、シルルが触れるぞと言ったら態度が一変したから、俺が強要をしているのではない。そういうことにしておこう。

そんなこんなで柿川には今後、雑用を主とした協力をしてもらうことにした。

 「あ、キリタニに私に声かけないでって言っといて。」

 「あー、了解した。」

 「勘違いして嫉妬する子も出てくるからね。」

 「へ?嫉妬?勘違い?」

 自分でも素っ頓狂な声だと思う。

 「分かるでしょ?」

 どうして、誰が、柿川に。意味がわからない。頭の回転速度も上がらず、間抜けな顔をしていると、柿川が焦れったくなったのか小声で教えてくれる。

 「キリタニは人気があるのよ。」

 絶句した。

 あの金髪短毛のどこが良いのか。脳内データベースを探っても出てこない。人気があるというのは何かの比喩か。いや、何の比喩なんだ。直喩も暗喩も換喩も引喩も何もない。人気がある、というのは人気がある、ということなのだ。それ以上でも以下でもない。オンリーワンだ。もっともっと特別な。

 では何か?俺はあいつのことを金魚の糞だと思っているが、周りは逆だと?俺が金魚の糞だと?連なるのは俺の方だと?

なんと滑稽なことだろう。自らが母体だと思い込んだ金魚の糞。そこには人の長い歴史が生んだ人類を総ての頂点に置く人類至上主義の穢れた醜い側面が映し出されているのではないか。

 話があらぬ方向に飛んでいる。

 混乱し、言葉を失った俺に柿川が言葉を付け足す。

 「キリタニはここだから人気が出たんだと思う。」

この学校にはキリタニの様に派手派手な格好の者こそいても、それに行動と度胸が伴った者はいない。

 いわば、砂漠の中のオアシス、大飢饉の中の米俵、宇宙空間内での酸素 、水中での酸素、長野県にとっての海、奈良にとっての海、山梨にとっての海、志久坂学園の中のキリタニ。

 柿川は黙りこくった俺に訝しげな視線を送り続けていたが、それが魂を失った人形だと分かると俄に興味を無くし、実験教室へと向かっていった。

 



 放課後、館に来たは良いものの、特にすることがなかったので、俺は光芒筆の練習をしていた。気分はアーティストでエアリーなボブの女の子を描いたが、キリタニにもシルルにも不評だった。俺の所為(せい)で評価を落とした彼女には謝罪の気持ちしかない。

 こんなことをしていると、柿川が来てもしてもらうことが無いなと急に悟り、早急に手を打たねばならなくなった。とりあえずこの館の謎について調査を進めようということに決める。

 決めたところで柿川が訪れる。

 「何をすればいい?」

 開口一番にそう告げる柿川。仕事だけ済ませて早く帰りたい、とでも言いたげな態度だ。 そんな態度だと首になちゃうぞ。いや彼女は

それを望んでいるたろうが…

 「そうだな。とりあえず、この館の謎を…」

 と言いかけて俺はシルルに指示を仰ぐ。正直、具体的に何をすればいいかは俺もわかっていない。

 「人造グールの魔方陣を探して欲しい。この屋敷にある確率が高いからな。ないやも知れんがな。」

 無言で頷くと、俺、柿川、キリタニの三人で手分けして魔方陣の捜索を始めた。シルルは柿川に持っていかれた。心なしかシルルも満更ではなさそうだ。

 この屋敷にある確率がなぜ高いかと言うと、人造グールの発生と同時に展開されていた結界がその裏づけで、こういった手法は良く何かを守られるために使われるとはシルルの談だ。

 こういった手法、とは何か特定のアクションを起こしスイッチを押してしまうと、側に術者が居なくても予め魔力の注入された魔方陣と結界が作動する仕組みで、結界内の侵入者を一掃するか、結界を破られるか、結界の魔力が切れるか、はたまた特定のアクションを起こされない限り、結界は解除されない。

 そしてこの手法は大抵、結界範囲内で魔方陣を描くかたちを取っている。だから、館内に魔方陣がある確率が高い。

 早めに魔方陣の位置を特定して、消してしまわないと、またグールと対峙しなければならなくなる。今はスケルトンとグールがこちらにいるが、逐一相手にするのも面倒だし危険な話だ。




 ここにはないだろ、という所まで探してみたものの一向に見つからない。探索中の柿川、キリタニの二人も同様のようであった。 もう一度、同じところを探るか、と二階にいたら、一階から柿川の声がかかる。

 降りてきた俺に一瞥もせず、柿川とキリタニは可笑しなことをしていた。そこには絨毯を剥がした床に直で耳をつけた状態の柿川とキリタニがいた。二人ともコンコンと床を叩き、眉間に皺を寄せている。柿川は俺と話す時はいつもこのような顔だが、今回の眉間皺の対象は俺ではないらしい。

 というか、本人達が真剣なときに申し訳ないが、土下座みたいな姿勢で真面目な顔しているのが、どうにも滑稽だ。

笑いをこらえつつ、大体察したが柿川に聞く。

 「何してるんだ?」

 「見りゃわかるでしょ?多分これ下、空洞。」

 「カシオもやれば分かる。」

 格好が屈辱的だったが、二人にやらせといて俺だけやらないのも悪い。渋々といった所作で耳をつける。ふむ、確かに空洞を突いたようなく響く音はする。しかし、隠し扉みたいなものがついている様子は床には見られない。

 「あ!ちょっと待って!なんかある。」

 そう、似つかわしくない声をあげたのは柿川だ。

 「なんか、魔方陣?みたいなのが。」

 見れば光の加減で見え隠れする魔方陣が確かにあった。シルルはそれを確認すると

 「樫雄、魔方陣の中心に手を置け。」

 そう言った。理由も聞きたいが、聞いたら小言を言われそうなので、素直に置く。

 「珍しく文句を言わず置いたな。」

 「一言多いんだよお前は。で、次は?」

 「魔方陣に手を置いて、することなど一つだ。」

 俺はそこでも口答えしたい気持ちを抑え、魔力を魔方陣に送る。こう聞くと大層なことに聞こえるが、実態はただのイメージである。イメージだが、実際にその通り動く。魔力の操作に関しての適性は人より蚊一匹分ほど優れているとシルルのお墨付きだ。伊達に不毛妄想を繰り返してはいない。それに俺の見せ場なんてここ以外特にない。

 昨日いやと言うほど味わった魔力が吸いとられる感覚がする。 

 エネルギーを得た魔方陣はプログラムされた通り動く。

 ゴゴゴと重鎮そうな大層な音を立てながら、魔方陣があったところに地下へと続く階段が現れる。下に続く階段の先にあるものは暗闇が支配しており、目視できない。

 「こりゃ凄いな。」

 「やっぱりあったでしょ?」

 「行け、カシオ。」

 「お前な…酸素とか大丈夫なのか?」

 「大丈夫じゃない?死にはしないでしょ。」

 扱いが酷い。キリタニも白羽の矢がたたぬ様にニヤつきながら黙っている。その腰に付いている刀はなんのためにあるんだ。有事の際の武力じゃないのか。

 空気を鼻から目一杯吸い込み、全て吐き出す。

 「分かった。けど助けてくれよ?ヤバそうになったら。てか、柿川かキリタニどっちかじゃんけん負けたヤツ来い。」

 えー、と嫌そうな顔を浮かべるが、俺一人だけは可哀想だと思ったのか、すんなりじゃんけんをする。

 結論から言おう、柿川が負けた。過程もない一発勝負だった。

 「行くならさっさと行こうよ。鹿追。」

 クールだと思ったが、顔が引き攣っている。無理をしているのがバレバレだ。しかし彼女の言う通りなので、ビクビクしている柿川をパーティに加え、調査を開始する。

 殺しに来るギミックの存在も否定できないので一段試しに踏んでみる。

 すると、それがスイッチになったようで、壁についていた明かりが灯る。明かりは奥まで続き、最奥に木製の扉が現れる。普通の電灯でも灯籠でもない不思議な光を放っている。光芒筆のそれとよく似ていた。

 危険ではないと、分かったので歩みを進める。二段、三段と数を増やしても特に何も起きない。空気は冷たく乾いている。壁面はコンクリートだから無機質な印象を受ける。

 柿川は暗いのが嫌だったようで灯りが点いてから元気になり、早く進みなさいと後ろから押してくる。やめろ。まだ俺は怖い。

 おっかなびっくりの足取りで扉の前に来た。意外に呆気なかった。安堵するがまだ終わってない。図形かクウヤを連れてくれば良かったかなと思ったが、彼らは突然の来訪者に備えている。これくらい俺がやらなければ示しがつかない気がする。

 「じゃあ、開けるぞ。何か来たら即逃げよう。」

 柿川は無言で頷く。気づけば彼女は俺の袖を握っている。その程度で俺は落ちないが、髪の毛との距離が近くなっている。髪の毛に触れたい衝動を解放させる危険な香りがした。赤い魅惑の実がそこで熟れているというのに俺は手を出せない。いや、出してはいけないもどかしさに苦しめられ、顔が紅潮する感覚を覚える。こう考えたら俺、落ちてる。チョロい。

 「早く開けろ。危険はどうせない。」

 「カシオー、びびってんのかー?」

 上にいる二人は発破をかけてくる。

 「うるせ、今から開けるわ!」

 挑発に乗るあたり、俺はやはりチョロい。

 ドアノブは金属でしんと冷たかった。手のひらから温度が吸いとられる。

 開いた先は暗闇ーーではなく同様の灯りがついていた。壁も床も木でできているため温かさが感じられる。仕掛けが作動するような音もしない。

 広さは約六畳と広いが、内装は簡素で家具と呼べる家具は机と椅子、小さめな物入れが端にあるだけ、こざっぱりとした印象を受けるかも知れないが、そんなことはない。理由は四畳分を残さず使った緻密な魔方陣だ。黒ずんでいることが、既に発動済みの証拠だ。

 「意外に明るいわね。うわ、なにその模様!」

 ワンテンポ遅れて柿川が入ってくる。

 「魔方陣だな。けどもう動かないだろうな。安全だ。」

突然、扉が勢い良く開け放たれ心配そうな顔のキリタニが入ってくる。

 「おい!大丈夫か?」

 「あぁ、大丈夫。」

 地下室に入ってから音沙汰が無かったから、心配したそうだ。それなりには身を案じてくれたらしい。刀も抜刀している。それにしてもキリタニは例の刀の重さをものともしていない。外見が肉体派っぽいだけあって力はそれなりにあるのだろう。そういえば体育の着替えの時、引き締まった体をしていた。文化系の俺の体とは違っていたので良く覚えてる。

 「ふん。これだなグールを呼んだ魔方陣は。」

シルルもいつの間にやらいた。そして、緻密な魔方陣を見てそう言った。

「古い型だな。ふむ…魔力が枯渇したか…。作動条件は…血縁の侵入…範囲は…」

 ぶつぶつと呟くシルル。知識があれば魔方陣を見ればある程度の概要が知れるのだ。自称長寿で博識賢者シルルは召喚はお手のものと自分で言っていた。

 「もう、グールが出てくる心配は無さそうだな。」

 暇だったのでキリタニに喋りかける。

 「ま、出てきても俺が一刀両断!だけどな。」

 「そう言えば刀いつ貰ったんだ?」

 「探してる時なんかあったらヤバイなーと思って、クウヤさんから貰ったんだよ。今日、俺持って帰るしな。」

 「!…そりゃまたなんで?」

 「今後役に立つかな?と思って。素振りでもしようかな、と。

 カシオだけになんかやらせるのはな。守るのは俺じゃないと。カシオとかシルルは後方にいりゃいいんだ。傷を負うのは俺の仕事だからな。」

 もし、俺が女なら惚れているような言葉だ。ハニカミつつ言ってるのが人によってあざとく感じるかも知れないが、キリタニなのでそこは高評価になる。チョロいことに置いて信頼と実績のある俺なら尚更。だが、俺は女でないので万に一つ、いや恒河沙に一つもないが。

 「ちょっと来て。なんかある。」

 柿川は机の引き出しから何やら取り出し、手招きする。

 見れば直方体の箱と革張り手帳だった。柿川はノートを手に取り、パラパラとめくる。劣化して黄ばんでいるページにはインクで何かが書かれている。ただ適当に書いているだけでは無いらしく、何かの規則に従った暗号のような文字列が並び、時折魔方陣に似た図形などが書き込まれている。

 「何を見ている。」

 魔方陣の品定めは終わったらしく、こちらに興味を移すシルル。

 「博識賢者なら分かるんじゃないか?魔方陣っぽいのと、謎の暗号。」

 パラパラと捲られるノートをシルルは見るが、首をかしげる。首をかしげると言うか、ケサランパサランが傾く。

 「こんな文字は知らぬな。それに、このような魔方陣も見覚えがない。形的には魔方陣だが、荒唐無稽というか破天荒というか。何処が何を意味しているのか一つも分からん。」

 ポンコツ黒ケサランパサランめ、と心の中で罵倒する。

 一旦ノートを置いて柿川は直方体の箱を手に取る。箱は上と下が分かれパカッと開けるタイプだ。材質は紙?だろうか。そんな光の返し方をしている。色は黒で高級感が溢れている。

 すぐに柿川は開けるかと思いきや、少し怖じ気付いてるらしい。

 「これ開けた瞬間に、舌切り雀の悪い方のお爺さんの箱とか、パンドラの箱みたいに災い飛び出ないよね?」

 「大丈夫じゃないか?そこまで卑劣じゃないと思う。思いたい。」

 「持ち主の性格が良いことを願おうぜ。願いたい。」

 「(わざわい)が飛び出したとしても、最後に希望は残る。残って欲しい。」

 「なんで、どいつもこいつも最後に願望形にしてんのよ…上手くないからな?」

 苛つきで言葉遣いが女子とは思えないほど乾燥しているぞ柿川。ガサついてるぞ。乾燥は女子の敵だと聞いた早めに治したほうがいい。そんなことより、シルルもノッてきたのが嬉しい誤算だった。

 「じゃんけんで決めるわよ。」

 結論から言おう柿川が負けた。過程もない一発勝負だった。

 「じゃあ、開けるよ…?」

 深呼吸を挟み落ち着いた上で、パカッと開けるが、案の定何も飛び出ない。

 「イヤリング…?」

 中に合ったのは紅いカラリとした宝石のイヤリングだった。大きくはないが、そこはかとなく上品さと気高さが感じられる。

 柿川が手に取って、自分の耳へ持っていく。

 そのイヤリングはお世辞でもなく、普通に柿川に似合っていた。赤の髪色にも負けてない。

 「それは魔石だ…な。は、外してくれ…!」

 シルルが驚いた顔をして、苦しそうに呟く。いつもより低めの重みがある声色だ。

 「なに、なんか危ないやつ!?」

 シルルの様子と発言に、柿川は焦ってイヤリングを取る。

 「…はあ。

 危なかった…。

 いや、害はない。着けた者にはな。チャームの効果が高いという話だ。」

 シルルはまだ苦しそうだ。

 「チャーム?魅力みたいな?」

 「ああ、その装飾品は魅力を極端に上げる代物だ。極端に、だ。人の仔には分からん(感知できない)だろうが、我のような魔には影響が大きすぎる。

 極度に効果が強いようだ。それは…。我も危うく魅了されかけた…。柿川自身も魅力が強い、故に相乗効果で影響が更に大きくなったのには驚いた。我ほどの大悪魔でも危なかったのだから、グール、スケルトンなど瞬殺だ。あまり着けないことを薦める柿川。」

 「う、うん…分かった。」

 シルルはかなり焦っていたようだ。それほど危なかったのだろうか。俺からしたら似合ってる程度の感想しか抱かなかった。

 「チャームってのは俺らが言ってる魅力と相違ないか?」

 「あぁ。しかし、少し違う。影響力が違う人間は同族が寄ってくる程度だろうが、我々の言うところの魅力は遍く魔を問答無用で無条件で惹かせる。ある者には究極美味の餌として見え、ある者にとっては魂が尽きるまで絶対服従を誓いたい主君に見える。これだけ聞くと至極、強大な力のように聞こえるが実際、魅力を実用しているモノは少ない。誰もがそこまで魅力が高くないし基本的には先天的なモノだ。例に挙げたことを可能とするのはほんの一握りの名も知れた神、悪魔だ。しかし、それ(イヤリング)はレベルが違う。あまりに強すぎる人の身でありながら、大悪魔、神の御業を振るえる。

 と言って脅したが、そこまでの段階へ至るには修練が必要だ。先刻、柿川に着けるなと言ったが、扱えれば力になることは明白の理。着けていても魅力を抑える程度は技を積んでおいても問題ない。それに何処の馬の骨にこれを取られても尺であるしな。」

 



 「でも、なんでここに…?」

 「そりゃあ、愚問だぜ、柿川。ここをどこだと思ってやがる。」

 「グールに骨に刀にケサランパサラン。何でもござれのアミューズメントパークだしな。」

 と称したものの、この館は本当に得体が知れない。シルルを召喚した直後にグール騒動が起こったのも偶然とは思えない。

 シルルもなんだかんだ言って得体が知れない。今でこそ弱小悪魔と扱っているが、内心はシルルと仲を深めようと考えた上での軽口をたたいている。今でこそ彼は力を持たないが、なにかを切っ掛けに力を取り戻すかもしれない。俺が寝たと思い込んだ夜更け、彼はぶつぶつと呟きながら何かをしていた。暗闇で詳細は疑えなかったが、おおよその見当はつく。俺に憑依、もといた所に帰還ここら辺りだろう。だが俺はそれに言及するつもりはない。言及した以降、疑心暗鬼で共に過ごしづらくなるのは嫌だし、やはり敵対するのは嫌だ。嫌なのだ。

 「にしても、このまんまじゃ、なんも分かんないままじゃん。」

 柿川は机に腰かけ、つまらなさそうにノートをパラパラとめくる。

 「うわ!見て見て!最後のページになんか書いてる!」

 「うぇ!マジかよ!」

 「ほらほら!」

 騒ぎ出した柿川、キリタニを尻目に俺は静かに読み上げる。

 「『これが読まれているころ私はここにいないだろう。

 いやなに、死んだわけじゃない。この場所にいないだけ。

 旅に出る理由は与えられた力にうんざりしたからだ。故に力もここに置く。私の力と知識がどこまで通用するか。それも試してみたい。

 ついでに子どもたちも置き去りになってしまうのが唯一の心配だ。

 私の話はこれくらいにしようか。

 これを読んでいる君がそれなりに()()していることを願う。

 何に、なんてのは聞くまでもないだろう?

 ふん。とりあえず、置いた力は好きに使ってくれ。君が悪人でなければ使えるさ。なんてのは無責任かな。

 悪用するなら私が死んでも止めにいくからね?

 この館も子どもたちと一緒に過ごすつもりだったけど、それも無理だ。

 好きに使って問題ない。けど、あまり派手には扱わないで欲しい。まだ使うかもしれないしね。

 証拠に水も電気もガスも通ってる。私に請求がくるようになっている。気にせず使ってくれ。稼ぎは良いんだ。

 ただ先代の頃からのモノだから老朽化が目立つ。そこは勘弁だ。

 それと、この手紙の近くにあるはずの黒い箱の中に入ってるイヤリングあれは取扱い注意だ。知識あるものが持てば力を発揮し、ないものが持てばその身を破滅へと追い込む。そこらへんは刃物と一緒かな。

 刃物といえば、この館には訳ありの刀が隠してある。ほとんどの人にはただの刀だけど、もし、もし刀に気に入られたら恐ろしいことになる。気に入られるってのは互いに惹きあう感じかな。まあ、そうなったらヤバイって話。(まあ、ないだろうけど)

 さて、これ位かな。それではサラバだ。』」

 「変な人だな。」

 「そうね。」

 比較的新しさが残るインクで日本語で書かれていた。このページ以外、読めるページは無かった。

 その手記は妙なしこりを残すだけ残した。



 「今後どうするのよ。」

 「謎は残りまくりだな。」

 「当分はあの人を探すか。その時に押し付ければ良いさ。何もかも。」

 我々は館も探索し終わり、椅子に座って休憩していた。探索は終わったが、問題は山積みだ。クウヤ、図形、シルルの悪魔共。謎が残る館とその主。

 柿川の扱いも決めないといけない。柿川もシルルに乗せられイヤリング着用術?を習うことになった。シルルが触るのを許可したらすぐだった。しかし、だからと言っていつまでも惰性で付き合わせるのは可哀想だ。自主性はある程度重んじたい。

 俺は一応、自衛のために魔方陣の知識は学んでおく。あと光芒筆か。シルルも乗り気だ。

 キリタニ、彼は自分から刀を扱うつもりだ。聞けば父親に、幼少の頃から訓練つけてもらったから大丈夫と話ていたが、どんな訓練なんだ。手記の文言は気になるが、自主性は重んじたい。刀の所持及び管理を容認した。

 やる事はそれぞれ違うがあまりバラけすぎても困る気がする。定期的に集まった方が良いだろうか。

 「毎週金、土は集まるか。」

 「俺は良いけどよ。」

 「えー、毎週かぁー。」

 「そういえば柿川って部活入ってたっけ?」

 「いや、辞めた2ヶ月前に…。てか、それだからって話は別だからね?」

 「ま、金か土どっちかで良いよ。」

 「そう言うなら…行くけどさ。シルルちゃんいるし…。」

 「良かった。じゃあ、連絡は…」

 「ああ、それなら問題ないぜ!持ってるし。」

 え、何を…と言うほど俺は馬鹿じゃない。そう彼、桐谷力太は多分難なく手にしたのだ、そう柿川の連絡先(女子の連絡先)を。

 それは確かに存在していてるが、手に入れることは二階から目薬を放ち1階の眼球にHitさせる位、困難だとされている。何がそんなに難しいのか、それは虎穴に入らずんば虎子を得ずこの言葉が語ってくれている。つまり、断られるのを覚悟の上で挑まなければならないのだ。その時を想像してほしい。なんと惨めなことか。更に他の男が(女子の連絡先)を得ていた日には枕を涙で濡らし黴が生えてくる。 無論それだけではない。連絡先を聞くというのは多少のunderheart(したごころ)をひけらかす必要があるのだ。だから男は理由をつけ(女子の連絡先)を得ようとする。故に俺のような寡黙で誠実さ、勤勉さを売りにしている紳士はそのイメージを守らんが為に(女子の連絡先)を己が帳簿に記すことも出来ず散るのだ。

 しかし、キリタニは宝を、さもつまらないモノを取ったかのように、さも得ることが当然かのように、宝が自らの掌中であることを明かした。

 しかし、ここで妬み、嫉みを露わにしては紳士の名が廃る。平成を取り持ち、荒れ狂った心を鏡のような美しい水面に整える。

 「じゃ、じゃあ大丈夫か、じゃあ、解散。」

 「いきなりね…。」

 「流石、帰宅部の星! 帰ることに関しては早い!」

 なんとでも言うがいい。お前は同胞ではない。

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