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エピローグ 続いていく未来

 ふと、目が覚めた。

 何やら懐かしい夢を見ていた気もするのだが、生憎と細かい内容は覚えていない。

 ただ、懐かしいと思ったことだけは確かであり……あとは――


「快適な睡眠じゃなかったことも確か、か……」

「ん? 起きやがったですか?」


 聞こえた声に視線を向けてみれば、そこに居たのは見慣れた……もう見慣れたと言ってしまっても構わないだろう少女の姿だ。

 そして和樹はその体勢のまま、その言葉に応えるように肩を竦める。


「ま、快適に眠れる環境じゃないからな」


 視線を上に向けてみれば、そこにあるのは、こちらも最近では見慣れたと言ってしまえるようになってきた天井だ。

 木目のあるそれに、背中からは断続的に感じる震動。


 端的に言ってしまうならば、和樹達が今居る場所は馬車の中であり、今は絶賛移動中なのである。

 最近ではこの状況で寝ることにも随分慣れてはきたのだが……それを快適に思えるかは、また別の話なのだ。


「まあ確かに、どうせ寝るんならもっとちゃんとした場所で寝てえですね」

「もう一週間ってのもあるしな。いい加減ベッドが恋しくなってくる頃だ」

「言っても仕方ねえことではあるですが」

「まあな」


 聞いた話によれば、馬車での移動にかかる時間は、二週間ほどだということであった。

 まだ半分も残っていると考えれば溜息の一つも出てこようものだが、言ったところで仕方がないのも事実だ。

 まあのんびりとやっていくしかないのだろう。


「ちなみに俺がどのぐらい寝てたかは分かるか?」

「そうですね……三時間は経ってねえと思うです」

「ふむ……ちょっと寝すぎたか?」

「別に問題ねえと思うです。何か起こったってわけでもねえですし」

「相変わらず平和そのもの、か」

「です」


 もう少し何かあって欲しいと思うのは、きっと贅沢なのだろう。

 平和なら平和で、それでいいはずだ。

 そもそもこんなところで何かがあるとしたら、それは魔物か野党かどちらかの襲撃である。

 それがちょうどいい刺激で暇潰しになるなどと言い出すのは、おそらく和樹達ぐらいだろう。


「いや、レオンあたりなら或いは、か? まあレオンはレオンで、いざそれが起こったら歯ごたえがねえとか文句言いそうだが」

「レオンがどうかしたですか?」

「ここにあいつが居たら俺達と同じようなことを言いそうだと思ってな」

「確かに言う気がするですね……今頃何してやがるんでしょうか」

「さすがに治療に専念してるんじゃないか? あいつが大人しくしてるとも思えないが……身体がまともに動かないんじゃどうしようもないしな」


 そのことを思い、少し遠い目になってしまうのは、最後に会ってからそれなりの時間が経っているからだろう。

 まだ懐かしいと思うほどではないのだが……この調子では、そう思うようになるのにそう時間はかからないのかもしれない。

 普段何もすることがないせいで、酷く時間がゆっくりと流れている気がしていた。


「……皆も、どうしてるですかね」

「それぞれで頑張ってるだろうさ。マルクとミアは、まだ治療中かもしれないけどな。街の方は……まあ、いい加減元の賑わいを取り戻してるだろ」


 自分の放った言葉ではあるが、それで思い起こされるのは、最後にあの街を見た時の光景である。

 魔物の大規模襲撃、そう呼ばれることになったそれにおいて、ギルドが適切な対処をしてしまったせい……と言ってしまうとアレだが、そのせいでそれなりの住人が避難してしまったのは事実だ。

 またそのせいで、今までは可能性の話でしかなかった、魔物の襲撃というものが現実味を帯びてしまい、人の流動というものはかなり鈍くなってしまってもいた。

 和樹達が最後に目にしたのは、そんな、かつての賑わいなどは遠いものとなってしまったものだったのだ。


 ただそれでも和樹が悲観していないのは、それは予定通りだという話を聞いていたからである。

 何でも襲撃の危険性よりも、それを撃退出来たことで安全だということを示す、などとは言っていたが……まあサティアがそう言っていた以上はやり遂げるのだろう。

 だから今頃はと、そういうことだ。


「テオ達も今頃はランク二になってるかね」

「頑張るって言ってたです」

「だな。あの時のもちゃんと評価されてたようだし、順調にいけてれば上がれてるだろ」


 あの時はギルドの命令で動いていたわけではなかったが、それでも街を守るために奮闘したということはちゃんと評価の対象となったようであった。

 ぶっちゃけ三人でもランク三でやれるだけの実力は身に付いているし、あの時の貢献でそれだけの評価は得ているとのことであったが、さすがにランク三に一気に上げてしまうと問題が生じかねないということで、時間を少しあけてから上げていく、という話は聞いている。

 順調に行けば、半年もあればあの三人はランク三になっているだろう。

 それでもかなり早いペースでのランクアップだが、たまにあるとのことで問題はないだろうとのことだった。

 まあむしろ問題があるのは――


「こっちの方、か」

「何がです?」

「いや、ちょっとこうなった経緯を、ついでに思い出しててな」

「う……そのことに関しては、正直すまなかったです」

「ま、確かにリオのやったことが原因ではあるが、俺達が勝手にやったことでもあるしな。そもそもどう考えてもそこに理由を紐付けたってだけだから、結果的には変わらんよ」


 現状からすれば改めて言うまでもないだろうが、和樹達は今あの街から出て旅をしている。

 形式としては、半ば街を追い出されたようなものだ。


 その原因としては、リオを匿っていたというものであり、街を救うために働いたとはいえ、リオも一時期街を混乱させた人間である。

 それで禊とするには足りず、だが街を救う一因となったのも事実だ。

 だから罰を与えるのではなく、さらなる働きで以って返せと、依頼のために和樹達は諸共外に放り出され――


「それは結局建前だからな」

「建前です?」

「むしろついでにリオのこともどうにかしてしまおう、ということでもある。俺達を一旦そっちに向かわせるってのは、事前に計画されてたことだって、サティアが言ってたからな」

「つまり、リオは利用されたです?」

「理由付けとして利用したのは間違いないが、どっちかと言えばこっちがギルドを利用したって気もするな。まあどっちでも大差はないが」


 何にせよそれが、こうして旅をしている理由だ。

 向かってる場所は、あの街から見れば南……厳密に言えば、南東。

 もう一つの開拓地であり、もう一つの人類の最前線だ。


 とはいえ別にそこに何かをしに行くわけではない。

 これは所謂お使い任務であり――


「ま、そう都合よくはいかないんだろうけどな」

「そうなんです?」

「あのサティアが持ってきたもんだからな。本当に何の問題もなく終わるとか考えてたら、足元掬われて酷いことになるぞ?」

「う……気をつけるです」

「そうしとけ」


 勿論そうならない可能性もあるが、なる可能性が圧倒的に高い以上は気にしすぎた方がマシだ。


「だから休めるときには、ちゃんと休んどいた方がいいぞ?」


 寝る前と変わっていなかったのは、何も状況だけではない。

 それはリオの様子もであり……ずっと起きていたのは明らかであった。


「う……それは分かっちゃいるんですが……」

「寝れないのか? だがこの先のことを考えれば、少しでも――」

「なら私と交代するというのはどうでしょうか!?」


 自身の言葉を遮るようにして聞こえた声に、和樹は反射的に溜息を吐き出していた。

 それからそちらに視線を向けてみれば、前方の幌が捲くれ一人の少女が顔を出している。

 それが誰なのかは今更言うまでもないだろうが――


「ちゃんと前を見ろ、そして自分の役割を果たせ」

「いえ、ちゃんと警戒はしていますから問題はありませんよ? それにそんなことよりも、こちらの方が大事です。どうですか、リオさん? 交代しませんか?」

「……ユキは眠いんです?」

「欲求に違いはありませんが、私にあるのは、どちらかと言えばその狭い空間内で和樹さんと一緒に寝たいという欲求ですね。この通りかなり揺れていますから、その衝撃で色々な場所が接触してしまっても事故で済みますし」

「済みますし、じゃないわよ……まったく、本当にどうしてこんな娘になってしまったのかしら」

「いや、言ってないでお前もちゃんと前を向け」


 逆側の幌を捲くり顔を出した瑠璃に、溜息を吐き出す。

 まったく、折角四人なのだからと、御者役と休憩する役とに分けたというのに、これでは意味がないだろうに。


「仕方がないじゃない。いい加減暇なのよ」

「まあ、正直に言ってしまえば、そうですね。景色も見飽きてしまいましたし」

「暇も何も、話でもしてればいいだろ。積もる話があったんじゃないのか?」

「さすがに話し終わってしまったわよ。そもそも何年も離れていたわけではないのだから、そんなに時間もかからないわ。むしろ積もる話があるとすれば、あなたとではないかしら?」

「む……そうやってリオさんと代わろうとする作戦でしょうけど、そうはいきませんよ? 瑠璃さんはパーを出してしまったんですから!」

「それはあなたもでしょう?」

「くっ……何故私はあの時グーを出さなかったんでしょうか……そうしていれば、今頃私はあそこで和樹さんは組んず解れつ……!」

「ならないかなら?」

「……これは、やっぱリオがわりいんでしょうか? リオがぐーぱーとかいうのを理解してなかったせいで……」

「いや、分かってるもんだと思い込んで勝手に始めたこっちに非があるし、どっちにしろあっちの二人はパーでペアが決まってたからな。何の問題もない」


 ないのだが、まあ確かに一週間も同じペアでいたら飽きが来るのも仕方のないことだ。


「まあ今夜あたり、またペアを変えてみるかね?」

「……瑠璃さん、私はまたパーを出しますから、そちらはグーをお願いします」

「そうね……また一緒になってしまったら意味がないものね」

「堂々と談合を始めんな」

「えっと……リオは何を出せばいいんです?」

「お前も乗らなくていいからな?」


 さらに溜息を吐き出し……ふと、口元に笑みが浮かんだ。

 その理由としては、大したものではないのだが――


「和樹さん? どうかしましたか?」


 目敏いな、と思うも、肩を竦める。

 本当に、大したことではないのだ。

 ただ。


「いや、この四人でこうして旅をすることになるなんて、思いもしなかったと思ってな」


 その言葉に三人は顔を見合わせると、笑みを浮かべ頷いた。


「確かに、思いもしなかったですね」

「リオはそもそもジジイ達と離れることになるなんて想像してなかったです」

「それは皆そうでしょう? 今の自分の状況を予測できる人なんていないわ。わたしに至っては、ここに加わったばかりでもあるのだし」

「それで完全に馴染んでるあたり、お前はある意味凄いけどな」

「ですがそれがこうなっているんですから、本当に不思議なものですね。人生何があるか分からない、ということでしょうか?」

「幾らなんでも波乱万丈すぎる気もするけどな……」


 本当に、こんなことになるなんて、あの頃には――


「……あ」

「……? どうかしましたか?」

「いや、何でもない。ただ、ちょっと思い出しただけだ」


 それは、先ほど見た夢のことであった。

 何の夢を見たのかを思い出したのであり……それは確かに、懐かしいと思うはずだ。

 あれはもう、どれぐらい前になるのか……少なくとも、一年は経っていると思うのだが――


「え、えっと……本当に、どうかしましたか? 私の顔をジッと見詰めて……はっ!? これはまさか、そういうことですか!? 分かりました、今リオさんと代わりますから、少しお待ちください!」

「ユキは相変わらず騒がしいやつですね」

「瑠璃、任せた」

「任されたけれど……はぁ。本当に、どうしてこんな娘になってしまったのかしら」


 心底同意することではあるのだが、言ったとこでどうなることでもない。

 まあこれもまた、ある意味では、思いもしなかったことの一つなのだろう。


 そしておそらくは、これから先も、こんなことは続いていくのだ。


「それがいいことなのかは、分からんけどな」

「はい? 何か言いましたか?」

「いや……これからどうなるんだろうなって、そんなことを思ってただけだ」

「なるほど……つまり私との未来へと思いを馳せていた、ということですね?」

「相変わらず前向きなようで何よりだ」

「いえ、それほどでも」


 本当に相変わらずだと苦笑を浮かべ……ふと、外の景色へと視線を向けた。

 雪姫達の後ろに広がっているのは、雲一つない空。

 そういえば、こんな空を眺めながら途方に暮れていたことなどもあったなと、そんなことを思いながら――


「今日も良い一日になりそうだな」

「そうですね」

「です」

「そうね」


 返って来た言葉と笑みに、和樹もまた笑みを返すのであった。

というわけで完結となります。

ここまでお読みいただきありがとうございました。


色々と拙いところの多かった作品だとは思いますが、こうして何とか無事完結させることが出来たのは、お読みくださり、また応援してくださった皆様のおかげです。

本当にありがとうございました。

反省点は多々あるのですが、そちらは次回作以降に活かす事が出来ればと思います。


一応こちらは厳密には第一部完と言いますか、回収してないネタは沢山ありますし、続きの構想もあるのですが、書くかどうかは未定なので一旦完結という形にしています。

続きは完結まで書ける気がしたら、というところでしょうか。

まあ、あまり期待せずにお待ちいただけましたら、という感じです。


それとこちら宣伝になってしまいますが、こちらの完結に伴い新作の方を始めさせていただきました。

可能でしたら、そちらの方もお読みいただけましたら幸いです。


それでは、再度になりますが、ここまでお読みいただきありがとうございました。

また別の作品でお目にかかれることを祈りつつ。

失礼致します。

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