雪姫の実力
――模擬戦をして欲しい。
フィーネが雪姫に向かってそんなことを言ったのは、模擬戦を始めてからちょうど一週間目のことであった。
休憩時間であったために思い思いに休んでいた皆の視線が一斉にフィーネへと向くが、相変わらずその顔には表情らしい表情は浮かんでいない。
厳密には微妙に違いがあり、テオ達には分かるらしいのだが、さすがに和樹達はそれが分かる領域にまではいっていなかった。
分かることといったら、首を僅かに傾げている様子から、何故自分が今注目されているのか分からない、というところだろうか。
まあ何にせよ、何を考えてそんなことを言い出したのかは見ただけでは分からないということであり、それを知るには直接尋ねる以外に方法はないということである。
「ふむふむ……返答をする前に、どういうつもりで言ってきたのかを聞いてもよろしいですか?」
「…………やってみた、い?」
「通訳、任せた」
「何ですかそれ……いえ、まあ、分かりますけど。多分、僕達との模擬戦とかを通じてやれるっていう自信が出てきたから、ユキさんと戦ってみたい、とかいうことだと思います。あと多分、何か試してみたいこともあるんじゃないかと」
「……ん」
「……いつも思うが、よくそこまで細かく分かるよな? 俺も表情の変化ぐらいなら分かるが、さすがにそこまでは無理だぞ? なんかフィーネ専用のスキルでも持ってんじゃねえの?」
「ただの一緒に居た時間の違いだよ。ラウルは何だかんだで結構家の方手伝ってたでしょ?」
テオはそう言うものの、和樹としてはラウルの言葉は半分ぐらい当たっているのではないかと思っている。
実際のところ、そういったスキルは存在しているからだ。
和樹が以前に使用した拈華微笑も似たようなものではあるが、自分の意思を齟齬なく相手に伝えるためのスキルというのが、幾つか存在しているのである。
だがそうは思いながらも、和樹は敢えて口を噤んでいた。
スキルのおかげで分かるなど、無粋以外の何物でもないからである。
まあそれに今気にすべきは、そんなことではなく――
「で、どうするんだ?」
「ふむふむ……つまりこれは、今ならば私程度にならば勝てる、ということでしょうか? 喧嘩を売られている、というわけですね」
「いやいや、そこまでのことは考えてないとは思いますよ!? ただ、何処まで出来るようになったのか知りたいとか、胸を借りたいとか……そういうことだと思います!」
「ふむ、胸を、ですか……生憎と私の胸は和樹さん専用なんですが、和樹さんがいいと言うんでしたら構いませんよ?」
「好きにしろ、以外に言うことはないな」
「え、好きにしたい、ですか……? しかも今ここで、ですか……さすが和樹さん、大胆ですね」
「耳腐ってんのか」
「まあ、さすがに冗談です。分かりました、確かにここら辺で自分がどのぐらい出来るようになったのかを知っておいた方がいいでしょうし、新人の鼻をへし折るのは先達の役目です。受けましょう」
「……ん、ありが、とう」
言うや否や雪姫は立ち上がると、少し離れた場所へと歩き出した。
休憩する前まで模擬戦用の場所として使用していた場所へと、だ。
そのすぐ後をフィーネが続き……残された三人は何をするでもなく、その後姿を眺めていた。
「ふむ……ま、ちょうどいい機会だし、お前達もよく見といた方がいいぞ? 多分それなりには参考になるだろうからな」
「それはそうさせてもらうつもりっすけど……いいんすか?」
「何がだ?」
「いえ、フィーネああ見えてかなりやる気みたいっすし、ユキさんが負けるとはさすがに思わないっすけど、怪我をする可能性とかがっすね」
「あー、そういう意味か。まあ、あいつも魔物とかの戦闘をしてる以上そういうことも考えてるだろうし、問題はないんじゃないか? というか、そもそもこの模擬戦で怪我をする可能性とか、万が一にもないしな」
「むっ……それはフィーネがまだ全然だってことですか? そりゃ、和樹さんから見ればまだまだかもしれませんけど……あいつだってかなり頑張ってきたんですよ?」
「いや、それは知ってるが……んー、そうだな。レオン達のことは知ってるよな?」
「あ、はい。勿論です……けど?」
初日に来た際に邪魔でしかなかったので以降来るなとは言ってあるのだが、そんなことは知ったことかとばかりにレオン達は何度かこの場へとやってきている。
レオンやマルクだけではなく、マリーやミアもであり、主に手伝いという名の暇潰しを兼ねて来ているため、その実力のほどはそれなりに知っているはずだ。
まあそうでなくとも、ランク五だという時点で説明は不要であり……故に比較対象として出すには適切であった。
「あいつらの誰か一人でいい。フィーネが戦って、勝てる……いや、傷一つ負わせられるイメージが湧くか?」
「それは……さすがに、無理ですけど」
「それが答えだ。雪姫はあいつらと真っ向勝負をして、普通に勝てるからな」
「っ!?」
「え……マジっすか?」
「マジだ。しかも、あいつら、だからな? あいつらの中の一人じゃなく、四対一で勝てる」
それは大げさなことではなく、ただの事実だ。
というか、実際に以前一度やってみて勝ったことがある。
レオンが和樹との一騎打ちを望み、雪姫に勝てたらな、とか言ってたら本当にやる流れになり、その後色々あって四対一でもやることになったのだが……まあ、余談だろう。
「ユ、ユキさんって、そんなに強かったんすか……?」
「普段は魔物相手でさえかなり抑えて戦ってるからな」
「で、ですけど、フィーネも頑張って……」
「お前がフィーネ贔屓なのは分かったから、これ以上は黙って見守ろうぜ? な?」
「べ、別に贔屓ってわけじゃ……」
「ま、確かに、とりあえず黙って見守った方がいいな。さっきは万が一にも、とは言ったが、万が一にぐらいなら有り得ないとも限らんしな」
もっともそれは、雪姫が油断でもしていればの話だが。
そしてそこから見る限り、その可能性はなさそうであった。
「何にせよ、これがあいつの今の集大成になりそうだが……さて、どんなことになるやら」
目を細めながら、二人の一挙手一投足を見逃さないように、眺める。
二人は既に向かい合っており、準備は万端といった様子だ。
合図はないし、必要もない。
真っ先に動いたのは、フィーネであった。
――アクティブスキル、サポートスキル:フィジカルブースト。
同時、使用されたのは、身体能力強化のスキルだ。
腕力が上がるから攻撃力が上がるし、脚力が上がるから移動速度も上がる。
勿論足を使った攻撃をする場合はそっちの攻撃力も上がるという、文字通り全能力が強化されるものであり、必須且つ鉄板のスキルだ。
――アクティブスキル、サポートスキル:パーマネント・カウントダウン十。
さらに直後、フィーネの身体が薄ぼんやりと光り始めた。
それは儚く、今にも消えてしまいそうなものであるが……実際のところ、それそのものには意味がない。
その視界の端に映し出され始めた、十という数字も、だ。
故にこそ、フィーネはそれに意味を与えるために、左足へと力を込める。
地を踏み締め、身体を沈め――瞬間、前方へと勢いよく飛び出した。
――唐突且つ今更の話ではあるが、この世界には、スキルというものが存在している。
それは以前からも散々述べている通りであるし、そのこと自体を理解してないものはこの世界には存在しないだろう。
さて、だがしかし、具体的にそれがどんなものかを口に出して説明することの出来る者はほとんどいない。
その必要がなく、また、具体的に理解出来たところで、効率などが上がるわけでもないからだ。
それでも敢えて説明をするならば、スキルとは、端的に言ってしまえば使用者の行動を何らかの形で補助するためのものだと言う事が出来るだろう。
それはサポートだろうとアタックだろうと違いはなく、また例外もない。
直接、間接、或いはそれ以外の形でと、発現の仕方はそれぞれではあるが、そのことだけは確かなのだ。
そしてそんなスキルではあるが……実のところ、その九割以上は役に立たなかった。
その理由は単純だ。
スキルというのは、基本的に次の行動に対してのみその補助効果を与えるからである。
分かりやすい例を挙げよう。
例えば、腕力上昇の効果のあるスキルを使ったとする。
そしてその状態で、敵対している相手を殴ろうとしよう。
だが相手との距離は僅かに遠く、それを詰めるために一歩を踏み出し――先のスキルの効果は、その直後に切れてしまうのである。
まだ殴るどころか、そのモーションにすら入っていないのに、だ。
否、例えモーションに入ったとして、相手の攻撃の方が早く、そこで回避行動に移行したとしても、その直後にスキルの効果は切れてしまう。
そういうことなのである。
要するに、融通が利かないのだ。
例えスキルの効果と関係ないことであろうとも、それが行動であるならばカウントされてしまう。
しかも大体のスキルというのは、次の行動に対してのみ補正を与えるのだ。
中には決まった時間補正を与えるものもあるが、そういったものは珍しい上に効果が弱い。
確かに有用な状況で使用できれば問題はないのだが、そんな状況など滅多にあるものではなく、咄嗟に使おうにもスキルというものは片手間に使えるものでもないのだ。
ある程度の集中力が必要なのであり……ぶっちゃけ、余計なことを考えるよりも殴ったほうが早かった。
役に立たないというのは、そういう意味である。
ちなみに役に立たないもう一つの理由として、当然のように行動とはスキルを使用する、ということも含まれるからだ。
即ち、複数のスキルを同時に使用することが出来ないのである。
そういったことから、スキルというものは役に立たないのだと言われていたのだ。
いた。
過去形である。
つまりは――そういうことだ。
そしてそれを過去のことにした理由の一つが、今しがたフィーネが使用したスキルであり、ソードマスタリーを覚えた次に和樹が皆に覚えさせたものであった。
パーマネント。
それがその名である。
パーマネントは、先に述べた、決まった時間補正を与える、というものの一つだ。
そしてその効果は、その特定の時間分スキルの発動を任意で遅らせることが出来る、というものであり、その時間は使用時に自分が決めることが出来る。
つまりは、パーマネントを使用していれば、どれだけ行動を重ねたところでスキルが発動してしまうことはないのだ。
特にこの場合、任意、というところがポイントである。
要するに、特定の時間というのは限界時間であり、解除はいつでも可能なのだ。
しかも留めておけるスキルの数は実質無限なため、攻撃の瞬間にそれを一気に使用することが出来るのである。
そうしてそれの登場により、ようやくスキルというものは使えるものだということになったのであった。
尚、他にもスキルを有効活用させることが出来る方法は存在しているのだが、最もポピュラーなのはやはりパーマネントである。
理由は単純であり、分かりやすく使いやすいからだ。
例えば、似たような効果を持つディレイというスキルも存在しているのだが、こちらは指定した時間の後に自動的に発動してしまう。
そのため、特定条件下では有効に使えたりもするのだが、普段はかなり癖が強く使いづらい。
使うのは、余程の物好きぐらいだろう。
他の方法も同じようなものであり、万人が使うには向いていないようなものばかりであった。
もっとも、特定の条件を満たす者達にとっては、その限りではないのだが。
ちなみに、だが、この話はあくまでもこの世界の事情に関するものだ。
和樹達のゲーム時代の頃となると、また若干事情が異なる。
それは以前にも少し触れた通りではあるのだが……まあ、今は関係ない話だろう。
共通することがあるとするならば、どちらも最初の頃は大変だったということぐらいである。
閑話休題。
何はともあれ、そういった理由により今のフィーネは複数のスキルを同時に使用することが可能であった。
勿論全ての戦闘でそんなことをしていればあっという間に体力が尽きてしまうが、今は模擬戦故にそんな心配をする必要はない。
否、模擬戦だからこそ、全力を目指す必要があったとも言えるだろう。
――アクティブスキル、サポートスキル:シャープネス。
再度地を踏み締める間もなく、その思考のみでスキルを発動させる。
通常では有り得ない加速により生じた衝撃で、着地した右足に僅かな違和感が走るが、構わず一歩。
――アクティブスキル、サポートスキル:アクセラレート。
研ぎ澄まされた思考が、重ねられたスキルによってさらに鋭敏化する。
引き延ばされた体感時間が、全てを置き去りにし、だがその程度では、まるで足りない。
――アクティブスキル、サポートスキル:コンセントレーション。
別にフィーネは雪姫を舐めているわけでも、侮っているわけでもないのだ。
ただ、普段の戦闘と今の自分の力量を冷静に見比べ鑑みた結果、全力のさらに一歩先に到達できれば、その手が届くのではないかと思っただけなのである。
――アクティブスキル、サポートスキル:クイックネス。
それは自信なのかもしれないし、或いは過信なのかもしれない。
何にせよ、言えることがあるとすればただ一つ。
上を目指すためには、確実に必要なものであった。
――コンボ:偽・奥義一閃。
「……ほぅ」
それを目にした瞬間、和樹は感嘆の息を吐き出していた。
自身の最も得意とするものであるからこそ、それが何であるかを即座に理解することが出来たのだ。
奥義一閃というものは、奥義という名が示す通りアクティブスキルの中でも最上位に位置するスキルの一つである。
本来であればそれを覚えるまでに様々なスキルを覚えなければならないし、そもそもフィーネではレベルが足りていない。
だがフィーネはその足りていない様々なことを、他のスキルとの組み合わせによって補い瞬間的に使用可能にしたようだ。
勿論本来のそれに比べれば威力も速度もまるで足りていないし、身体にかかる負担や消費する体力さえも上になってしまっているだろう。
つまりは、見せ掛けだけを似せた贋作だということだが……今のフィーネの技量やレベルを考えれば、十分過ぎるほどであった。
そしてそれを可能としたのが、コンボという技法である。
コンボというのは、要は複数のスキルを組み合わせることでまったく別のスキルとしてしまうもののことだ。
前提として複数のスキルを絶え間なく使用することが必要ではあるが、それを利用すれば、本来自分が覚えていないスキルや存在していないスキルさえも使用することが可能である。
もっとも、言うは易し行なうは難し。
その組み合わせはほぼ無数にあり、また使用する順序どころかタイミングによってすら発動するスキルが変わってしまうために、非常に扱いが難しいものでもあるのだ。
そのためその存在を知らせ実際に見せたことはあったが、それ以上教えたことはなかった。
まさかこの瞬間に覚醒したとかいうことはないだろうから、こっそりと練習していたということなのだろうが……やはり三人の中で最もセンスがあるのはフィーネのようである。
――とはいえ。
それが雪姫に通用するかどうかは、また別の話ではあるが。
――アクティブスキル、ガードスキル:パリィ。
そして自身へと迫ったそれを、雪姫は当たり前のように受け流した。
それは文字通りの意味での受け流しだ。
ダメージどころか、衝撃すらも伝わってはいない。
手応えからそのことを理解し僅かに目を見開くが、フィーネは即座に次の行動に移っていた。
幸いにも、フィーネが指定したパーマネントの効果時間は十秒。
念のためにもと大目にしておいたのだが、おかげでまだ二秒残っている。
それだけあれば、一旦立て直す程度のことは可能だ。
――アクティブスキル、
だが。
――割り込み:行動続行。
その動きをとるよりも先に、雪姫は動いていた。
――アクティブスキル、サポートスキル:再動。
――アクティブスキル、サポートスキル:先手必勝。
それでも、フィーネと同じような行動をしていれば、まだどうにかすることも出来ただろう。
しかし雪姫は、そんな暇をすら与えることはなかった。
――割り込み:行動続行。
――アクティブスキル、サポートスキル:再動。
――アクティブスキル、サポートスキル:一意専心。
スキルを有効活用できる方法は一つではない。
それは先に述べた通りであり、またパーマネントは確かに最も分かりやすく使いやすいとは言ったが、最も優れているとは言っていない。
勿論状況次第ではパーマネントの方が優れることもあるのだが、事その状況に限って言えば、圧倒的に雪姫が行なっていることの方が優れていた。
――割り込み:行動続行。
――アクティブスキル、サポートスキル:再動。
――アクティブスキル、サポートスキル:怪力乱神。
割り込みとは、文字通り相手の行動、或いは自身の行動のタイミングで強制的に割り込む手段だ。
行動の直前か直後は任意に選択が可能であり、またこれを防ぐ手段は実質的に存在しない。
特徴的なのは、スキルではなく技法なため、それが行動と判断されないことだろう。
つまりは、使用したところでスキルが発動してしまうことはないのである。
――割り込み:行動続行。
――アクティブスキル、サポートスキル:再動。
――アクティブスキル、サポートスキル:手加減。
再動は数多あるスキルの中で唯一行動した後に使用可能なスキルであり、これと次の行動を一手として、さらには行動にカウントしないという特徴を持つ。
スキルを有効活用するための一つであり、だが単体ではそれ以上の意味を持たない。
しかしここに割り込みを組み合わせると、話はガラリと変わってくる。
再動はカウントはされなくとも行動の一つに違いはないが、割り込んだ結果それは一つの行動の中の細分化された一つに過ぎなくなるのだ。
要するに。
――割り込み:行動続行。
――アクティブスキル、サポートスキル:再動。
――アクティブスキル、アタックスキル:一刀両断。
瞬きする間も与えず、一気呵成にスキルを叩き込むことが可能となるのである。
――コンボ:極技・絶。
決着は呆気なくもたらされた。
攻撃を防がれたフィーネが下がろうとしたところを、雪姫が即座に反応して反撃を加え沈めた、という、言葉にしてしまえばそれだけのことではあるのだが、当然のようにそこまで単純ではない。
それでもこの世界の基準からすれば、ランク二以下では、或いはランク三になってさえ理解出来ない者がいたとしても不思議ではない攻防が行なわれていたのだが――
「……っ」
「……マジかよ」
二人の様子を見るに、きちんと理解できているようだ。
どうやら和樹達が教えていることは、問題なく伝わっているようである。
もっともその驚きの半分以上は、自分達よりも頭一つか二つ分ほど上にいるフィーネの全力以上の攻撃が軽く一蹴された、というものなのであろうが……それは当然のことなのだ。
というか、レベルが百二十三あるというのにそれが出来ないようでは、そちらの方が問題である。
まあ、とはいえ――
「さすがにちょっと大人げなすぎじゃないか? 極技まで使う必要はなかっただろ」
「そうですか? いい機会でしたし、上を見せるという行為も必要だと思いますが。はい、それだけが理由ですよ? 別に奥義一閃みたいなものを使われて和樹さんとお揃いなのが妬ましくて、ちょっとこちらも対抗してしまったわけではありません」
冗談なのか本気なのか微妙な線ではあるが、言ってることに一理あるのは確かだ。
極技は奥義と格こそ同じではあるが、レベルが百になれば使うことが出来るということもあってそれなりに手頃で強力なスキルである。
まあ色々と制限も多い上に、そもそも彼らが百まで到達できるのか、という問題はあるが、上を目指す向上心の一助になる可能性を考えれば、否定できることではない。
それがあまり高すぎると、逆にポッキリ折れてしまう可能性もあるので、注意が必要だが。
「っと、とりあえず、と」
――アクティブスキル、マジックスキル:ヒーリングライト。
上を示して見せたのは確かだが、それが強力すぎたのも事実だ。
今のフィーネ相手では明らかにやりすぎであり、手加減を使用していなければ余裕のオーバーキルで跡形もなく吹き飛んでいただろう。
勿論だからといって耐えられるかは別の話であり、当然のように意識を失い倒れているフィーネの元へと向かうと、後遺症等がないようにしっかりと治療を行なっておく。
「……むぅ、和樹さん手ずからの治療……先ほどのは受け流すのではなく、受けるべきでしたかね?」
「余計なこと考えてないで真面目にやれ」
「真面目にやったから受け流してしまったのではないですか。それに、ふざけてるみたいに思われるのは心外です。真面目に考えた結果なんですから」
「尚のこと悪いわ」
そんな戯言を交わしている間に、フィーネは目を覚ました。
状況は理解できているらしく、何を言うでもなくそのまま立ち上がる。
「身体の方は大丈夫か? 完璧に治療できたとは思うが、一応な」
「……ん、大丈夫。ありが、とう」
「それにしても、やっぱりいつ見ても凄いですね。さっきの絶対フィーネ死んだと思ったんですけど、それを一瞬で直しちゃうんですから」
「魔術……使えたら便利そうなんっすけどねぇ」
「便利なのは確かですが、肝心な魔導書がありませんからね。私も出来れば治癒系のものを覚えたいのですが……いえ、別にそれを口実に和樹さんと密着できる、とか考えてはいませんよ?」
「誰も聞いてない上にそもそも密着の必要性がないだろ。ま、ないものを羨んだところで仕方ないし、まずはやれることをやってからだ」
「……ん、掠れすら、しなかっ、た。もっと頑張、る」
「頑張るのはいいんだけど、こっちとしてはちょっと足踏みしてて欲しいところかなぁ」
「現状俺達は完全に置いてかれてるしな……ったく、努力する天才とか、頼もしくはあるんだが、今は勘弁して欲しいぜ」
そんなことを言っている割にラウルはやる気に満ちているようだし、それはテオも同様だ。
フィーネに関しては言うまでもなく、どうやら今回の模擬戦はそれなりに意味があったようである。
またやらせてみるのもいいかもしれないと、そんなことを思いつつ、和樹は次に彼らにやらせるべきことを考えるのであった。




