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一瞬の幸せ  作者: 棗☆
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1st story「出会い」

僕はこの平凡な生活に満足している。


そもそも、平凡な生活に満足していない人物なんているのだろうか。


万が一いたとしても、ほとんどの人が我慢しながら平凡な生活を送っているだろう。


そう。平凡でない生活を送れる人はそうそういない。


そのはずだ…。


そのはずだった…。




9月1日。


夏休みがあけ、学校が始まる日だ。


決して皆が皆学校に行きたい訳ではない。


しかし、皆が学校に行く。


これが当たり前だからだ。


これが平凡な者の運命だ。




「よう、桐夜(きりや)。元気にしてたかぁ〜?」


「普通。」


「俺なんて宿題そっちのけで遊び呆けてたぜぇ〜。また宿題見させてくれよー。桐夜様ー。」


「………。たまには自分でしろ。」


「なんだよケチー。」


「ケチで構わん。」


「くそー。」


こいつは金光(かねみつ)慶介(けいすけ)


一応中学時代からの友達だ。


あえて親友とは言わない。


「で? 夏休みの間、何した? 俺はいろんな所に遊びに行ったぜぇ〜。」


「別に。」


「別にってなんだよー。つまんないやつだなー。」


「つまらなくて構わん。」


「くそー。何か負けた感じがするー。」


「………。」


何故負けた感じになるのか僕には分からない。


「じゃ、また学校で会おうぜ〜。」


そう言うと駆け出していく慶介。


何故ここまで元気なんだ? あいつは。




学校に着き、自分のクラスに戻る。


いつもと変わらない2年C組の連中。


「おはよー。久瀬(くぜ)君。」


「おはよう。」


「久しぶりだねー。元気にしてたかい?」


「普通。」


「そうかぁー。普通かー。私も普通だったかなー。」


こいつは、和泉(わいずみ)由希(ゆき)


妙に僕につっかかってくるよく分からないやつだ。


どことなく性格が慶介に似ているような気がするが、どうして僕の周りにはこういうやつばかり集まるのだろうか。


僕と軽く話をした後、和泉は友達の輪の中に入っていった。


忙しいやつだ。




学校のチャイムが鳴り、朝のHRが始まる。


ここで転校生でも来るもんなら、多少は面白味があっただろうが、残念ながらそんな事は起こる筈もなく、普通にHRは終了した。


そして、体育館に全校生徒が集まる。


いわゆる始業式だ。


これも軽く終了した。




そして放課後。




「さてさて。桐夜様。宿題の方は…」


「たまには自分でやろうという気持ちは無いのか?」


「無いです。」


「………呆れた。ほら、貸してやるよ。あと、僕は帰るから、僕の分も出しといてくれよ。」


「あざーす!! あ、そいやー桐夜はやっぱり部活入らないのか?」


「興味ない。」


「お前は一体何になら興味が沸くんだぁ?」


「さぁな。自分でも分からん。」


「なんか趣味でも作ったらどうだ?」


「………。」


「じゃあなー桐夜ー。宿題サンキュー。」


「ああ。じゃあな。」


僕は無言で学校を後にした。




「そういえば、冷蔵庫の中身が空だったな。」


僕は帰り道の途中にあるスーパーに寄ることにした。


特に食べたいものがあるわけでも無かったが、一番にカレーが目に入ったので、とりあえずカレーを買って帰った。




「ただいま。」


家から返事はない。


そもそも家から返事が帰ってくる方が驚きなのだが…。


何故なら両親は他界しており、姉は既に家庭持ちでここには住んでいない。


もう一人姉がいたが、今ではどこにいるかも分からない。


つまり、実質ここで一人暮らしをしている。


僕はいつものように、学校の予習をさらっと終わらせ、夕食であるカレーを作って食べ、すぐにバイトに出かける。


周りには一人暮らしをしていることは隠しているので、バイトに行ってることも当然誰も知らないであろう。


僕が部活に行かない最大の理由はこれである。




僕がバイトをしているのは、ひと夫婦が経営している小さなファミレスである。


僕は一応ウエイターということになっている筈なのだが、料理が得意なので、人手が足りないときは、よく料理も作っていた。


そのせいか、夫婦とはとても仲が良く、給料も、高校生にしてはなかなか良い。


もしかしたら、普通のバイトよりも高いかもしれない。


「今日はあまりお客さんが来ないと思うから、ウエイターをお願いするね。」


「分かりました。」


あまり来ないというのは、実質全くに等しいほど人が来ないのである。


だから僕は結構暇だった。


そして、営業時間終了間際に、一人の女の子が入ってきた。


「いらっしゃいませ。一名様ですね。」


「………。」


「こちらへどうぞ。」


僕は何故返事が返って来ないのかと思ったが、普段通りに彼女を席に案内した。


僕は元々明るい性格ではないので、営業スマイルというものが出来ないでいる。


「ご注文がお決まりになりましたら、お呼びつけ下さい。」


このファミレスには、便利な呼び出しボタンなどがない。


しかし、一部の常連さんはそういう雰囲気が好きだと言っていた。




店の中には、もう彼女しか残っていないうえに、


11時という比較的遅い時間にやってきた事もあってか、つい彼女の方に目線がいく。


彼女は白のワンピースを着ていて、またまた真っ白な鞄を持っていた。


それが長い黒髪を際立たせている。


なかなかに美人でもある。


彼女は少しおどおどしているように見えた。


もう1年ほどこのファミレスでバイトをしているが、彼女の顔に見覚えがないため、


きっと初めて入ったファミレスにおどおどしているのだろうと思っていた。


しかし、30分たっても彼女はウエイターを呼ばない。


メニューをずっと見続けている。


流石に気になったので、彼女に声をかけようとした時…。


「あ、あのー。」


「はい。なんでしょう。」


「この料理は、お金が無かったら食べられないんでしょうか?」


「はい?」


そんな事は当たり前のような気がするのだが、とりあえず冷静に対応した。


「はい…。お金はいりますよ。失礼ですが、お客様は今何円お持ちなのですか?」


「128円しか持ってないです…」


「ひ、128円!?」


「お腹は空いているのですけど、お金を持ってないんです…。どうすればいいですか?」


とりあえず家に帰ったらどうですか、と言いたくなったが、何やら訳ありの様子だったし、そもそも何故ファミレスの原理を知らないのかという所に興味がわいたので、僕は軽い気持ちで答えた。


今思うと、この時こんな事を言わなかったら、今でも平凡を満喫出来ていたかもしれない。


「それでしたら、僕の家に来ますか? 軽くでよかったら、ご馳走しますよ。」


まぁ、こんな事を言っても、のこのここんな見ず知らずの男の家なんかには来ないだろうと僕は思っていた……のだが。


「ぜひお願いします!!」


「………、はい?」


僕は、まさかそんな返事が帰ってくるとは思いもしなかったので、つい停止してしまった。


「や、やっぱり迷惑ですか…?」


「い、いや。僕から振ったんだから、きちんとご馳走します。」


「あ、ありがとうございます!!」


やれやれ…。


面倒な事になってしまったと僕は半ば後悔し始めた。


そして、バイトが終了した。


「じゃあ行きましょうか。えーっと…。」


滝山(たきやま)未来(みく)です。未来って書いて、みくって読みます。あなたの名前は?」


「………。久瀬桐夜です。」


「よろしくね。桐夜君。」


「こちらこそ。滝山さん。」


「私のことは未来って呼んでいいよ。」


「いや。滝山さんでいいです。」


「えー。何で? 恥ずかしがる必要は無いってー。」


なんでこの人は突然元気になっちゃってるのだろうか…。


「いや。いいです。」


「あと、他人行儀にしなくてもいいよぉ。桐夜君。」


「いつからあなたは他人じゃ無くなったんですか?」


「今。」


「………。明日には戻ってますよ。きっと。」


なんせあんたがいなくなるからね。とか思ってる自分が自分じゃないように思えてくる。


「なにはともあれ、よろしくね。桐夜君。」


「こちらこそ。滝山さん。」


「未来ー。滝山さんじゃあ他人行儀じゃん。」


「僕は元々こんな人間ですから。」


やれやれ。


本当に面倒な事になりそうだ。そう思いながら、帰路についた。




「ただいま。」


本日二回目だ。


「お、お邪魔しまーす。」


滝山さんはかなり慎重になっているように見えた。


「別に大丈夫。どうせ中には誰もいませんから。」


「えっ…? じゃあ桐夜君は一人暮らし!?」


「はい。」


「へぇ〜。」


よく思えば、誰もいない方が問題だったのかもしれない。


「まぁ、上がってください。」


「お邪魔しまーす。」


僕は彼女を居間へ案内した。


彼女と話していると、つい他人行儀になってしまうから、とても疲れる。


それに比べると、彼女はいやに元気だ。


店で見せたあの感じとは全然違う。


こっちの方が彼女の元々の性格なのだろう。


まったく。なんで僕の周りには本当にこういう奴が集まってくるのだろうか。


まぁ、それも一晩の仲だと思ってしまえば、大分気は楽だった。


「ちょっと待っててください。」


僕は晩のカレーを作り始めた。


元々一人分しか作らないので、実質いちから作る事になる。


「ねぇねぇ桐夜君。」


「なんですか?」


「桐夜君って学生だよね? 高校生?」


「はい。二年生です。滝山さんは、僕と同じか少し上という感じに見えますけど。」


「………。じゃあ私は君と同い年だね。」


「そうなんですか。」


「うん…。」


なんだ? ほんの少し俯いてるぞ? 何か訳ありなのだろうか。


ここはあえて追求しないことにした。


「滝山さんはカレーお好きですか?」


「もう。同い年なんだから、さんは止めてよー。」


「そ、そうですか?」


僕は女の子を呼び捨てで呼ぶことが無いわけでは無いのだが…。


「滝山さんより未来って呼んだ方がいいですか?」


「勿論!!」


「じゃあ、未来はカレーは好きか?」


「うん!!」


かなり恥ずかしかったのだが、まぁ、今日ぐらいは我慢しよう。




未来はカレーをかなりのスピードで食べていった。美味しいとは言っていたが、本当に味が分かっているのだか…。


「ご馳走様〜。おいしかった。ありがとう、桐夜君。」


「いやいや、そんなに美味しそうに食べていただいて、嬉しいですよ。」


「そういえば桐夜君は何で一人暮らししてるの?」


「両親は僕が小学校の時に他界して、姉達は嫁いだり、行方を眩ましたりしてます。だから、取り残されたって感じですかね。」


「へぇ〜。そうなんだ。もしかして悪いこと聞いちゃった?」


「いえ。全然大丈夫ですよ。」


「え…、えーっとね、実は私、学校に行ってないんだよね。」


「そ、そうなんですか?」


まただ。また俯いてる。自分の素性を知られたくないタイプなのか?


「話したくなければ別に構いませんよ。」


「………。」


「あ、もう12時回ってますよ。そろそろ帰った方がいいんじゃないですか?」


「そうだね。そろそろ帰ろうかな。」


未来は立ち上がって玄関まで歩いていく。


「今日は本当にありがとうございました。」


「いえいえ。僕も楽しかったですよ。送って行かなくて大丈夫ですか?」


「大丈夫だよー。」


「そうですか。」


「じゃあね〜。またいつか会えるといいね〜。」


「はい。また会えるといいですね。」


正直、また会えるといいなと思えていた。


こんな僕は珍しい。


初めに会った時は会えなくて全然構わないと思っていたが、今は、未来に少し興味がわいた。


初めから興味はあったのだが、話をしてみて、ますます興味は増していった。


「じゃねー。桐夜君。」


「ああ。」


そう言うと、未来は暗闇の中を去っていった。


正直、実質高校生二年生が0時回っての帰宅はマズいのではないかと思ったが、11時にファミレスに来ていたぐらいなのだから大丈夫だろうと思った。


「さて。これで普段の生活が戻ってくるな。」


他人行儀な喋り方は疲れる。


明日からは普通通りの生活が送れると思うと、何故かホッとした。











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