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第五章 しまわれ続けた鍵

長山レベルのくだらない冗談で話をはぐらかすことしかできないとは……どうやら俺は相当まいっちまっているらしい。

「しっかし、お前もやるじゃねえか深紅」

「!?……な、何がだ?」

「何がって? 桜ちゃんだよ…」

一瞬、もう一個の心臓が駄目になるかと思った。

「あそこまで落ち込んでいたのに、大分精神的ストレスが和らいでいた……。このまま自殺でもしちまうんじゃねえかって心配してたんだがよ、いやぁ、一体どんな手を使ったんだ?」

「え?あぁ……そっち?」

「そっち?それ以外になんかあんのか?」

……完全に墓穴を掘ってしまった。

「いや、なんでもない。今のは忘れろ」

「そう言われたって気になるもんは気になるぜ?……もしやお前、桜ちゃんと!?」

何を言おうとしているかは予想できなかったが、とりあえず俺は懐からクローバーを引き抜き、長山のこめかみを掠るように引き金を引く。

「あ……え?」

髪の毛が一本頭から離れて宙を舞い、長山の元をすり抜けた弾丸は、空間転送により、部屋の窓をすり抜けて森へと消えていく。

「……………」

長山は何が起こったのかを理解できなかったらしく、放心状態のまま、唯クローバーの銃口を見つめていた。

「……忘れたか?」

「……えと、一体何の話をしていたのでありましょうかでしたっけ?」

「じゃあそのまま忘れていろ……いいな?」

「……うん、もう深紅をからかうことなんてしないよ」

長山は何とも間抜けな言葉を残し、その場にへたり込む。

「……」

俺は焦る反面、これ以上はボロをださないように、長山から逃げるように桜の部屋から退散する。


「やれやれ……本当に俺は何してんだ」

頭の後ろを掻いて、俺はため息を漏らす。

もちろん、その溜息はここまであほのように動揺している自分と、最悪のタイミングで飛び込んできた長山に対してだ。


「もし、長山が来てなかったら……」

ぽつりとつぶやき、桜の桃色の唇が脳裏をよぎる。

「っ!?何考えてるんだ俺は!?」

まったく、本当に薄情な奴だ……今一番に考えなきゃいけないことは石田さんの容体安定を喜ぶことだというのに。

はぁ……。

もう一度ため息を突く。

どこかの誰かが、ため息を一つつくたびに幸せが逃げていくと言っていたが……そのうわさが本当なら、俺は明日あたり豆腐の角に頭をぶつけて死ぬかもしれない。

「……何を考えてんだか」

自分でも意味不明な冗談に俺は苦笑をして、俺は医務室へと足を運ぶ。

石田さんの容体が戻ったのであるならば、カザミネにねぎらいの言葉の一つでもかけてやらなければ。




「あれ?シンくん」

病室に戻ると、そこには先ほどよりも顔色と表情が良くなった石田さんと、その手を取って安心したような表情を浮かべている桜がいた。

「……龍人君から聞いてると思うけど、あえてもう一度言うっさ。 容体は安定して、もう安心っさ」

カザミネは疲れと安堵が混ざったような表情でそう片手をこちらに振り、つけていたマスクを外す。

「……助かったカザミネ。ありがとう」

心の底からできるだけの感謝の意を込めてそう言葉を贈ると、カザミネはどこかバツが悪そうな表情をする。

「な……何を言ってるっさ。 これぐらい当然の事さね」

あ、こいつ珍しく照れてやがる。

いつもはこちらをからかう立場の人間ということもあって、カザミネのこんな表情は極めて貴重だ。

俺としては、今までの復讐もかねて、もう少しこの表情を持続させてみるのもまた面白いかも……なんてことも一瞬思い浮かんだのだが、それを行動に移すよりも早く、カザミネは俺の耳元によってそっと言葉を投げかけてきた。

「……そんなことよりも、どうやらうまく行ったようさね?よくやったさ」

「……別に、俺は」

「じゃあ、またしばらくしたらくるっさ」


何もしていない……と言うよりも早く、カザミネは上機嫌に、血だらけの包帯を持って、病室から出て行ってしまう。


途端に……先ほどまでも静かだった筈なのに……、とてつもなく濃い静寂が訪れたような気がした。

「よかったな……その……石田さんが無事で」

沈黙に耐えきれず、俺は桜にそんなことを呟くと。

「うん」

桜は少しだけ笑みを作り、石田の顔を見て今度は呆れたようなため息を漏らす。

「……本当に、起きたら首にしてやろうかこのおせっかい執事は……勝手なことして主人にこんなに迷惑かけるなんて……執事失格ね……失格」

口元はほころんでいるのに、わざとふてくされた様子で桜は石田の胸にそっと手を当て。

「あれ?」

ふと疑問符を浮かべる。

「どうした?」

「……いや、胸ポケット」

そう言い放つと、桜はおもむろに石田の胸ポケットに手を突っ込む。

「……桜?」

何をしてるんだ?と聞くよりも早く。

「裏か」

今度は服の内側に手を突っ込み、内ポケットをまさぐる。

「!?桜駄目だ!それは色々と駄目だ!?」

「あった!」

慌てて俺は桜を石田から引き離す。

一応石田さんだって男だし、何よりも絶対安静の石田さんを動かすのはまずい。

医学の心得があるわけではないが、それぐらいは分かる!?

「何やってる桜……病人だぞ?」

「あ……そうだった……石田、ごめん」

桜は少し反省する仕草をして、手につかんだものを確認する。

「……鍵……だね」

「鍵……だな」

これが石田さんの内ポケットから出てきたものなのか?

「あ、これどっかで見たことあるかも」

桜は俺に見えるように小さな鍵の先を持って俺に見せる。

どこかの、部屋の鍵のようだ。

金色をし、持つ部分が桜の木のような造形をしている。

見たところとてつもない高級な装飾が施されている用には見えないそれは、

別段特別でもなんでもなく、こういった様式の屋敷ならばあっても不思議では無いような気もするが……

「この家って、鍵を使うような部屋あったか?」

「だよねぇ」

俺達は同時に首を傾げる。

そう、この屋敷には、鍵を必要とする部屋はない。

確かに厨房は鍵が閉まる用にはなっているが、そのカギは厨房に保管されているし、形も大きさもあわない。

「……?」

どこの場所にあるのか全く意味不明な鍵……。

石田さんの胸ポケットに終始しまわれていたその鍵を、桜は凝視するようにして考える。

と。

「あ」

桜は思い出したように声を上げ、手を打つ。

「どうした?」

そう聞くと、桜はこちらを見て。


「これ、私のお父さんの部屋の鍵だ」

そう呟いた。

                      ◆

案内をされ、俺は一階の倉庫の扉を


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