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第五章 深紅の道の答え

「石田あ!」

桜の絶叫が響く。

目前の老人は……桜を何年も支え続けた執事は今、なすすべなく全身から血を吹き出し宙を舞っている。

「!?」

桜の表情から光が消える。その表情は石田さんの死を確信してしまったかの如く歪んでおり、その場に崩れ落ちる。

ただ一点、自分の傍にずっといてくれた義祖父を見つめたまま。

「いや……いやああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「桜!?落ち着け!」

何が起こったかを理解した彼女は、感情のまま絶叫をする。

「っ!?長山!石田さんを!」

「言われなくても!」

長山は倒れた石田さんの元へと走り、俺は桜の両肩を持って桜と対峙する

「まだ石田さんが死んだわけじゃない!落ち着け!」

「いや!……石田!?石田あああああ!」

「桜!!」

とっさに俺は、桜の頬に乾いた音を響かせる。

「っ!?」

「まだ石田さんは死んではいない。今ここでお前が取り乱してどうする!!」

「う……うん……でも、でも」

「大丈夫だ桜……」

「う……うん」

俺は桜を右手で抱き寄せる。

小刻みに震える振動が体を伝って流れ込み、桜の恐怖が手に取るように分かる。


その恐怖は、三年前の砂漠のあの日にとてもよく似ていて……。

俺はさらに強く、桜を抱き寄せる。


「……シンくん……」

「離れるな……」

錯乱状態は収まったようだが、それでもまだ動揺しているようで、息は荒く目には涙が浮かんでいる。

無理もない……話し合いのはずが、いきなり最愛の家族を失いかけたのだ……心の整理どころか、事態の把握も困難な状況。

石田さんの救出に向かいたいが……これじゃあ、桜からも離れるわけにはいかない。



「……戻れ」

石田を葬ったゼペットの部下たちは形を失っていき、ゼペットの左腕の術式が停止をする。

「さて」

思い出したかのように覇王は顎をさすり、こちらにゆっくり視線を向ける。

「……ゼペット」

「そう怖い顔をするなて死帝よ、主らとの決着はまた後日だ」

「何?」

「我も死神との戦いでかなり消耗したからのぉ。今日お前らと戦うのは少々辛い」

屈託なくゼペットは笑うが、その瞳は微塵も揺るがずに冬月桜を射殺すように見下している。

「……やはり桜を殺すか」

「当然であろう?刃向かいし者には容赦はせん。覇王らしく、この村をいただくとする」

「っ……」

「逃げることも許さん……もし冬月桜がこの村から逃げるようであれば、村のものは皆殺しだ……」

「……本気で言っているのか?」

無論……とゼペットは一言頷き、低い声で言葉を続ける。

「猶予は四日、その間に村から逃げ出し村人をあきらめるか、我と戦い命を落とすか決めろ……我としても先の願望通り、主と死合うのを楽しむのも一興」

「ぐっ……」

言い返せず、俺はゼペットをただ睨みつけることしかできない

「まぁ、我とて鬼ではない……冬月桜の首が手に入れば、村人の命は保障しよう。一人の女の命か、それとも村人の命か……はたまた我等二人の命か……貴様が決めろ」

「……」

それは桜にではなく、俺に言っていた。

俺の掲げる正義を見極めるかのように……含み笑いを込めて……。

「お前が約束を守るという保証は?」

「我は嘘はつかん、なんならこの首をかけてもよい」

ゼペットは不気味な笑みを零す。

その笑みからあふれる威圧はすさまじく、気圧されて俺は桜を強く抱き寄せる。


ゼペットには先ほどまでの温かみのある表情は消え、威圧に殺気がこもっている。


覇王は今この時、俺達を敵とみなし、排除するモノとして認識した。


「っ……」

俺は……なぜかその時その選択に重圧を感じた。

村人の命か、桜の命。

助けられるのはどちらかだけ。

考える必要はない。村人の数は千人、桜の命は一つ。

……桜の命を捨てて、村人全員の命を救う……。

それがこの場での正義だ。


そう、俺の頭は余計なことを勝手に計算をした。

「まぁ、正義の味方ならば、道は一つだろうが……あえて今は問うまい。四日後、答えを聞こう」

「……」

俺は、その言葉に返事をすることが出来なかった。

簡単な話のはずだった

 この村を救うには、何が一番効率よく正義を実行できるか。

それは二週間で死んでしまう桜を引き渡すこと


そうすれば村人は助かり、死ぬ人間は元々死ぬはずだった人間が少し寿命を短くするだけ。

合理的に考えれば、いや、以前の俺ならばすぐにでも桜を殺していたはずなのに……。


俺は……その計算を必死で否定した。

頭では分かっていながら……必死で、否定しようとして……結局、ただただゼペットを睨むことしかできなかった。

「ふむ」

そんな姿を見ながら、覇王は一つ考えるような素振りを見せ。

「一つアドバイスをやろう。死帝よ」

とつぶやく。

「なんだ?」

「……お前の父親が、最後に見たものを知れ、それがお前の道の答えよ」

「……親父が、最後に見たもの?」

疑問符を浮かべて復唱をすると、ゼペットは満足そうにうなずき、ゆっくりと謝鈴を抱きかかえて森の中を歩いていく。

「……俺の道の答え」

その後ろ姿はどこか猛々しくも優しく、俺は心の中に重苦しいものが生まれた錯覚を覚えながら、ゼペットが森に埋もれていくまで……その背中を追い続けていた。

                    ◆


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