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第五章 交渉決裂は死神の一撃より

「な……!?」

空気が凍る……今まで瞳を閉じていた石田さんでさえも、目を見開いてゼペットを睨みつける。

今、こいつはなんて言った?

桜の病を治すと言ったのか?

「……おい、虚言はよせ、ゼペット」

「我は嘘は言わん」

嘘を言っているようには見えない……。

「医学に精通しているとは思えんが?」

だがかといって、不治の病を治せる名医には到底思えない。

「治せるさ、その娘はもとより病になど侵されてはいない」

「何?」

「なんだ主ら、気づいていなかったのか?……そやつは、いや、この……」

瞬間。



「!?」

ゼペットの顔面がテーブルを大破させ、大理石にめり込む。

「え?」

                      ◆

衝撃は波。

誰にも気づかれるよりも早く。ゼペットのセリフが言い終わるよりも早く。

石田扇弦は渾身の限りでゼペットの脳天を叩き割り、その頭蓋を埋葬する。

「主!?」

深紅も、隣にいた謝鈴でさえも、その死神の動きを捉えることは出来ず、自らの主が埋葬される姿を見てからようやく反応して傍らにあった大剣に手をかけるが。

「おそい……」

「ぅ……」

それよりも早く繰り出されたトンファーの首への刺突により、彼女の意識は一瞬で刈り取られ、その場に倒れ伏す。

「安らかに……」

倒れた謝鈴に走るトンファーは迷いもためらいもなく、背部から少女の心臓を狙い走る。

……鋼鉄のトンファーの先はとがっておらず、先は円形になっている。

通常ならばそれが人の体を貫通するなんて思わない。

しかし、ぶれることのない直線に走る一閃と、死神の殺気から彼女の心臓を貫くイメージをその場にいた全員に植え付ける。

「石田!!」

死神の主人は己の右腕の奇行に驚愕し、行動を止めようと声を上げるが彼の耳にはそんなものは届かない。

ただ、当然のことのように石田扇弦は謝鈴の背部から心臓へとトンファーを突き刺す。



「!?」

響く一つの銃声。

そこから放たれた神速の銃弾は、石田のトンファーを弾き飛ばす。

静止……。

カランカランと音を立てて、トンファーが空を舞い。石田はその体制のまま動きを止め。

ゆっくりと深紅を睨む。

「何をなさるのですか?不知火様」

「それはこっちのセリフだ。何のつもりだ石田さん」

石田の瞳にはすでに、執事だったころの優しい面影はない。 

無表情に敵を睨み、静かに命を刈り取る……。死神と言うものがいるのなら、恐らくはこういった存在の事を言うのだろう。

深紅はそんな感想を心の中で呟き、石田を問いただす。

「桜様を守ることが私の使命」

「何を言って……」

「GRUAAAAAAAAAAAA!」

「!?」

抉られた床が宙を舞い、覇王がゆらりと舞い上がる。

「……っち。化物め」

仕留められなかったことに対してか、それとも純粋にジスバルク・ゼペットに対してか。

呆れたように冷たく呟き、謝鈴から視線を外す。

「……シンくん。あの人を安全なところに」

桜はその隙に深紅にそう頼み。

「おいやめとけよ、敵だぞ?」

救出に向かおうとする深紅を長山が止める。

真剣な目で、深紅に刃を向けてその少女を助けにいけないように行く手を阻む。

「……なんで?龍人君」

「決まってる。石田さんのせいで、さっきの交渉は決裂だ。……今殺しておかなきゃ、目をさましたら俺達を殺しに来る。 今殺した方がいい、そうだろう?深紅」

長山は冷たくそう言い放つ。

そこにはいつもふざけた調子の面影はなく……睨みつける深紅を尻目に、片手を上げて宙に剣を召喚する。

手首を返せば、刃は意識を失って倒れた少女を貫く。

「おい……長山やめろ」

深紅はそれに気が付き、止めようとするが。

「何で止めるんだ?こうなったら正義は俺達にある筈だ……だったら今のうちに殺した方が効率よく敵を排除できるだろ?」

「ふざけるな。あいつはまだ悪じゃない……」

「悪の芽は早めに摘み取るのが基本だろう?」

「悪も正義も確定なんてものはない……。俺は石田さんに殺されようとしている少女を助けるだけだ」

深紅の表情は迷うことなく長山を睨みつける。

あくまで自分は人の命を救うことが仕事であると……。

そこに敵も味方も関係ないなく。それが彼の生き方であると彼は長山に視線で伝え、長山の剣を右手で降ろさせて謝鈴の元へと飛び、肩に担ぐ。

「………ちっ……甘いよ。深紅」

「え?」

「桜ちゃんこっちに……どうせ逃げないんだろ?だったら俺の傍に……」

「あ……うん」

長山はそんな正義の味方の姿を見ながら、不愉快そうに呟き、桜の手を引いて自分の背後へと桜を置く。

「ふん……また奴に借りが出来たのぉ」

ゼペットは運び出される謝鈴と桜を目で追い、黙ってこちらをみやる石田に視線を返す。

双方の殺気は互角。 叩きつける波のような殺気を放つゼペットに対し、石田扇弦の殺気は全てを飲み込んでいく。

……両者は互いが放つ殺気に肌を焦がし、相手の一挙一動に全神経を集中させる。

「……老体よ……そんな老いて我に勝てると思うておるのか?」

「……貴様如き、この老いた体で十分ですよ……」

「ふん!そんなに死にたいのであれば!踏みつぶしてくれよう、死神よ!」

「世界の広さを知れ!若僧!」

互いに覇気を飛ばし、同時にゼペットの左腕と石田のトンファーが交錯し……爆ぜる。

「!?」

辺りに走る風圧は、刃となって冬月家の城を襲い、窓ガラスが弾け大破する。

たった一合打ち合っただけだというのに、その部屋は一瞬で廃墟と化した。

「止めるか……」

「その程度ですか?」

驚愕のゼペットと、余裕を見せる石田。

力は五分。

しかしそこには、圧倒的な経験の差が存在する。

「!!? GRUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

「っはあああああああああああああああああああ!」

交錯する打撃は弧と線。

まさに一歩も引かずに、お互い放つ打撃の雨で打ち合いを続ける。

針を飛ばすかのごとき鋭い打撃は正確にゼペットの急所を狙い、ゼペットはそれを迎撃する。

鋼と拳がぶつかり合う様はまさに小さな嵐。

一合ごとに大気は振動し、術式と鋼が摩擦を起こして火花を散らす。

「……ぬぅ!?」

速度は石田に分があった。繰り出される打撃の乱舞は線でありながら流動し、変則的にゼペットへと走る。

軌道は蛇のように蛇行し、ゼペットの拳の周りを這うようにして首元へと喰らいつく。

それをゼペットは、攻撃が体に触れる直前に拳ではじいていく。

文字通りの膠着状態が続く。

「ッシャア!」

「ぬっ!?」

不意に石田が仕掛ける。大きく振りかぶった右腕は、致命の一撃を繰り出すことを容易に想像させ、ゼペットもそれに渾身の力で拳を振りぬく。


 

「……固い拳ですねぇ、侮れません」

「主こそ、なかなかに重い一撃よ」

決め手の一撃を披露してもなお互角。 威力も重さも双方は互角のまま、空中で硬直をしたまま背後のシャンデリアが落ちる。

「……面妖な、主からは術式の痕跡が感じられん」

「……不必要ですね。そのようなもの」

「何?」

ゼペットの疑問に石田は笑みを零す

一瞬。

そのほんの一瞬だけ、ゼペットは隙を作った。

それが完全な失態だとも知らずに。

「お覚悟を」

「しまっ!?」

後悔など間に合うはずもなく、ゼペットはその腹部にトンファーの一撃を受ける。

走る衝撃は波となり、内部で行き場を失い破裂をする


「っぐ……」

まさに大砲。あの老体のどこにそんな力があるのかという疑問よりも早く、ゼペットはその身に受けた一撃により屋外へと弾き飛ばされた。

「まだ終わりませんよ」

しかし、石田はさらに追撃を仕掛ける。

が。

「GRUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

舞う雪塵の中、巨腕の掌が石田へと走る。

「!?っぐぅ!」

直線突進に対する正面からの反撃

それを石田は正面から受ける


「もらったぁ!」

何かが破裂する音が響き


「!!?石田ぁ!」

破壊された屋敷の壁から外に出た桜の叫び声がこだまする

「ふぅう!?」

人形のように血液を噴出しながら石田は宙を舞う。

「猶予は与えん!」

言葉の通り、落下を待たずにゼペットは石田を迎撃するために空中へと跳ね、

大振りの一撃を無防備な体へと叩き込む。



「……さらに上……」

「!?」

深紅の呟きと同時に、ゼペットの中の石田の姿が陽炎のように消え失せ、頭上から石田の一撃が振り下ろされる。

「!?」

「ネイザーレイン!!」

「っぐう!?」

雨の如き一撃が頭上から配達され、今度こそゼペットの頭蓋に打撃が入る。


が。

「む?」

ゼペットの周りの柵や木々をすべて倒壊させた一撃をその身に受けてなお、ゼペットは揺らぐことなくその場に立っていた。

額からは赤い血液を流してはいるものの、頭蓋が粉砕してしかるべき一撃を、その瞳はしかと石田を見据えている。

その身に大砲よりも重い一撃を受けながらも、ゼペットのその殺気は微塵も衰えていない。

「きかんなぁ」

「化物め」

一瞬だけの会話。

その石田の呟きに対しゼペットは拳を繰り出し、石田は為す術なくその一撃を受け入れる。

「ふんはっ!」

「ガッ!?」

紛れもない実態の感触と同時に石田は吐血をして、地面にたたきつけられる。

「!?まずい」

先ほどまで冷静だった深紅の表情が青ざめ、クローバーを引き抜くが。

「待ってください」

それを石田は何事もなかったかのように立ち上がり、制止をする。

「……大丈夫なのか?」

「もちろん」

口元についた血を拭い、襟を正す。

「……貴様こそ化物ではないか……いかにして回復した……」

確かに相手の臓器をゼペットはつぶした。

だというのに彼は立ち上がる。

「ふん……答える必要はありません」

石田はそう笑みを零すと、再びトンファーを構え直す。

「そうか。しかし、そんな程度の攻撃では我を殺すなど夢のまた夢ぞ?ましてや、全身に術式の一つもかけぬようではのぉ」

石田はゼペットのセリフを、まるで戯言を聞くかのように呆れた表情で聞き、苦笑を漏らす。

「フフ」

「何がおかしい?気でも触れたか?」

「いえ、ただ。あなたの弱点はその鈍さだと思いましてね」

「何?」

ゼペットはその言葉を聞き返すと同時に石田は爆ぜる。

「……速い……が」

石田さんの突進は直線。 ゼペットはその線に対し拳を振り上げ……。

「なっ!?」

その場に膝を落とす。

振り上げた拳は上げられたまま硬直し、ゼペットは石田の一撃をその身にモロに受け入れた。

「ガッハァ!?」

ゼペットの表情が苦悶により歪み、そのまま雪の上へと落ちる。


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