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第五章 喧嘩するほど仲がいい 相棒編

「いらっしゃーいってあら?どうしたの守護者さん、英雄さん……バンダム級王者にでも絡まれたかしら?それともお尻の蒙古斑が顔に浮かび上がる奇病にでもかかった?」

「あぁ……まぁそんなところだ」

「あらあら……で?どうしたのかしら?」

「暇で死にそうだ……助けてくれ」

「暇?……あはははははははは!まったく貴方たちは本当に面白いわね。でも残念……少し前までの私ならお相手できたのでしょうけど……今はこの通り」

ミコトの店 謝々は夜の七時開店の居酒屋であるが、どうやら食事には相当の気を使っているらしく、厨房からは料理の仕込をしているのであろう香りがやんわりと漂ってくる。

なるほど、どうりで大繁盛をしているわけだ。

それはそれでめでたい話なのだが、こちらとしてはあまりうれしくない。

暇と言う言葉が最もかけ離れたこの場所で、俺達が望む答えは得られる可能性はゼロに近い。

「だよねぇ。なんかいい暇つぶしはねえかいミコトちゃん?」

「そうねぇ、私のお店で少し楽しいお昼ご飯を食べるっていうのはどうかしら?」

「……」

「……」

『じゃあ、ミコト特性ラーメンで』

                 ■


「はい、お待ちどうさま」

「うほぅ!美味そう!」

「いただきます!」

思えば長山との腕相撲対決のせいで、朝から何も食べていないことに気づいた俺と長山は、醤油の香りが漂うそのラーメンをがっつくように食べる。


口の中で広がる豚骨でも鶏ガラでもないダシによる奥深いなんともいえない独特な味が口の中に広がり、さらに一つ咀嚼するたびに反発するようなコシのある麺が、食べ応えと満足感を刺激する。


美味い……。

この前食べた餡蜜もさることながら、ミコトはこのまま高級料理店でシェフとして働けるのではないだろうか?

「……まだまだ、たくさんあるからじゃんじゃん食べて良いわよ」

「よっしゃー!遠慮はしねーぜミコトちゃん!?」

「大丈夫よ、来ることはわかってたから、おなかを満足させられるだけの料理は用意しておいたわ」

「うひょー!未来視万歳!」

長山は幸せそうにはしゃぎながら餃子をトカゲのように口に放り込む。

「餃子うめー!」

「あっ!てめっ俺のも食いやがって!そっちのシュウマイをよこせ!」

「ああっ!二つもとりやがったな!深紅このやろー!」

食事は戦いである。戦場では、兵糧は時に命よりも重いものになる……ゆえに、戦場に生きるものにとって、食事は常に食うか食われるか……。

それが美味いもののためであるならなおさらである。

「貴様!北京ダックを渡してなるものか!」

「なんの!二年前にお前に食べられた焼きそばパンの恨みを今ここで返してもらうってもんよ!」


「まだたくさんあるから慌てないの……まったく、これじゃあ石田さんも毎日大変ね」

「そこは大丈夫だ。 俺と長山が食事の席を同じにすることはない」

「へぇ、どうしてかしら?」

「あぁ、全員そろって食事をしていては、見張りがいなくなってしまうだろ?」

「そうなの……ふふ、じゃあ久しぶりに一緒に食事が出来たから、そんなにうれしそうなのね?二人とも」

『うれしいわけないだろ!』

「そうなの?ごめんなさい」

「あ、深紅そこのからしとって」

「ん」

「…………やれやれね」

                  ■


「あー食った食った」

「……本当に遠慮なく食べたわね……いや、いいんだけど」

ラーメン三人前餃子五人前シュウマイ四人前を平らげた俺と長山は、あきれた表情を見せるミコトと共に食後のウーロン茶を楽しむ。

「ご馳走様でしたミコト」

「いえいえ、お粗末さまでした」

ミコトは笑顔で照れたようにハニカミ。

「こんな美味い料理が食べられるなんてミコトちゃんの旦那さんは幸せものだなぁ」

「だ、だんなさん!?そそ、そんなこと無いわよ」

「まぁ、あの部屋の汚さじゃ旦那は無理かな」

「うるさいわね守護者さん!」

「あははは」

談笑を交えながら、少し暇をつぶす俺とミコトと長山。

なんだかんだで、こうやって友人と会話をすることが、一番有意義なのかもしれない。

「……でも、驚いちゃったわ。一番暇って言葉に縁がなさそうな守護者さんが暇だから助けてだなんて。今日はお仕事は休みなのかしら?」

「ああ、実は桜の奴が今日は他の会社の社長と会合らしくてな」

「他の会社?」

「そうなんだよなー、いきなり来るんだもん困っちまうぜ。えーとどこの会社だっけ?」

「……ブケファラスカンパニーのギブソン プライムだ」

「ああそうそう、あのゴートシティの英雄だ」

「車を作ってる会社だったかしら?最近出来たばかりの」

「ああ、それでいて、カーレースと名のつくものなら全ての大会で賞を総なめにしてる……おかげでフェラーリがお冠って話だ」

「あららら……まぁ、覇王の愛馬の名を冠した会社だからかしらねえ、ブケファラスを乗りこなすものは世界を制するって神託は今でも有効なのかしらねぇ」


ミコトは一人なんとなしにそうつぶやき。


俺と長山は動きを止める。


「ミコト……今なんていった」

「……何って?ブケファラスといえば、覇王 イスカンダルが乗っていたとされる名馬よ? 人食い馬、暴れ馬と称されていたけど、実際はとっても臆病だったとか。ちなみにとてもとても素早く野を駆けた、力強く敵を圧倒したとされているわ」


「深紅!」

「長山行くぞ!」

「え?え?何か私変なこと言ったかしら?」

「わるいなミコト、仕事の時間だ」


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