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第五章 カザミネ黄金の左

取り合えず、暇な時間のすごし方を知らない俺と長山は、しばらく二人で無意味に腕相撲を開始し、344戦177勝177敗の時点で両者力尽き、腕の感覚が消失した状態で太陽が暑い雲の上に上ったことを知る。

「………なぁ……深紅」

「……何だ長山」

「これに一体何の意味が?」

「……あるわけ無いだろ」

「だよな……」

残ったものは倦怠感と筋肉疲労のみ。

これを本当に時間の無駄と呼ぶのだと、俺はその身をもって思い知った。

くそ、大体なんで腕相撲なんだよ……俺。


「あ、シンクンと龍人君だ! いってきまーす」

不意に下の玄関付近から声が響き、屋上から除いてみると、高級なストールを肩にかけた桜が石田さんと一緒に見える。

丁度出かける時間帯らしく、俺と長山が一緒にいるところを見つけた桜は、庭から俺たちに向かって手を振ってくる。

「気をつけてなー桜ちゃーーん!」

それに長山は元気に答えて手を振り、俺も少しだけ手を振って桜を見送る。

さて、これから本格的に俺と長山の休暇が始まるわけだが。

「長山、何をしようか」

とうぜん、俺にやることなどあるわけも無く。

「ゲームをしたいが、桜ちゃん部屋に鍵かけちゃったから取れねえよ」

長山も趣味を失ってしまい、俺と同じように手持ち無沙汰の様子。

こうなったらあれだ。

「……カザミネを探そう。 あいつなら暇そうだし」

もう一人の暇人のプロフェッショナルの力をお借りすることにしよう。

                   ■

「あーひまっさねー」

その淡い願いは一瞬にして打ち砕かれた。

「……いつもの無駄な元気はどうしたカザミネ……」

「もしかしてあれか?女の子の日なの……げふぁ」

うむ、暇だからといって元気じゃないわけではないらしく、長山は部屋の外まで裏拳で吹っ飛ぶ。

「……で、いつもあちこち走り回ってるお前が今日はやけにおとなしいじゃないか?何かあったのか?」

「何かあったのかって……全部君のせいじゃないかい!」

「え?」

はて、何かしただろうか?

「とぼけるんじゃないよい!あんたが森の中にところかまわず罠なんて張りまくるから!とうとうあそこの森に一匹も動物が寄り付かなくなったっさ!!もう森の中人間の匂いとシンクンの罠の猛獣の匂いだらけだよ!おかげでみんなヤクーツクのほうとかさらに北上されちゃったから、私達狩人の商売上がったりなんさよ!バカやロー!しかもその上さらに石田さんから村に禁猟区域まで指定されちゃって!?どうやって私達は生活していけばいいっさ!?本当にいい迷惑だよ!」

「あぁあぁ悪かったよ。けどな、こっちとしては村の人間がほいほい森に入って殺されるよりかは、少しばかり仕事を休業してもらったほうが余計な死人が増えなくて良いんだよ」

「だからって!あんたらが帰った後に動物達が帰ってこなきゃ私達全員飢え死にでしょうに!」

「ああわかったわかった。桜の護衛が終わったら全部撤去してやるから、それで良いだろ?」

噛み付くカザミネを俺は適当にいなし、やれやれとため息をつく。

「あああああひまっさひまっさひまっさひまっさひまっさひまっさ!」

「暴れるなってカザミネちゃん!?お前が暴れると部屋が壊れごぶほあ」

「どういう意味っさ赤い人!」

「そのままの意味だと思うぞ」

「うがああ!」

カザミネは熊をも殺せそうな勢いで殴りかかり、俺はそれを適当にいなしながら話を続ける。

「っていうかお前、暇なときは何しているんだ?いつも」

「暇つぶしに森で動物を狩るさね」

「お前はもう二度と狩人を語るんじゃない」

前回御高説いただいた狩人のあり方を数秒で瓦解させる人間がここにいた。

「うるさい!暇は吸血鬼をも殺すさね!生きるために狩る、つまり暇つぶしに狩るのも立派な狩人の仕事だよ!」

「必要なものを奪い、森と共存するのが狩人じゃねえのかよ!?」

「そんなこと、こんな大量生産大量消費の世界で言ってる場合かって話ですよ!?大体狩猟用の銃を買うだけで熊何匹狩ればいいと思ってんのさ!!」

「無駄に生々しいわ!」

「ぐ、ぐう。一連の拳捌きを見て思ったことが有るぜカザミネちゃん。お前はやはり狩人なんて辞めてボクサーになったほうがいい。 ミドル級は狙えるぜ」

「私はそんな重くないっさ!」

長山に、強力な右ストレートが炸裂する。

「おっと」

「なに!?」

「そう何度も同じ攻撃は喰らわないぜカザミネちゃん!なぜなら俺はた」


何か下らないきめ台詞を決めようとした長山に、回し蹴りが入り、バチンという音により長山が舌を嚙んだというどうでもいい事実を理解し、その直後にふらついた長山へカザミネは見事な三連打を追撃で仕掛ける。

すね蹴りからよろけたところへの顎フック。脳震盪を起こした長山に止めと言わんばかりのドロップキック……。これならさしもの長山も立ち上がれないだろう。

いや、死んだんじゃないだろうか?

「シンくん!そのアホンダラを捨ててくるっさ!焼却炉に!」

「自分で行けよ、チャンプ」

「うがああああ!」

先ほどまでとは比べ物にならない左ストレート。

あぁ、これ無理。


俺は長山と二人仲良く、カザミネの部屋から廊下へと吹き飛ばされ、絨毯の海に沈められるのであった。


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