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第五章 暇つぶし

12月13日


……朝。

桜をいつものようにボディーガードたちのところへと送りに行こうと、少し早起きをして準備をしていると。

「おはよー」

桜がいつものように扉を開けてやってくる。

「おう、おはよう……準備は出来ているぞ」

「あ、ごめんねシンクン。そのことなんだけど、今日はちょっと訓練は出来なさそうなの」

桜は申し訳なさそうにそういい、俺はそうかとだけつぶやいて準備していたものをアタッシュケースにしまう。

「ごめんね、急にお仕事が出来ちゃったの」

「仕事?」

「うん、急にブケラファスカンパニーの社長が、私に会いたいって昨日いきなり連絡が来て、会うことになっちゃったの」

「ブケラファスカンパニー? あのギブソンプライム?」

「そ、車の押し売りって言うなら断っていたんだけど、なんだかこの森の管理権とかなんとか言ってたから……話を受けたの」

「森の管理権?カーレースの神様がなんでまた……」

「さぁ?レース場でも作りたいんじゃないかな?」

「今度はスノーモービルの大会の賞状も集めたくなったのか?」

「まぁ、それならそれで良いんだけどね。あそこの廃墟、仮身をシンクンたちが排除したら用済みになっちゃうわけだし……それなら有効活用してもらおうかな」

「ははは……そりゃいい」

「それに、もし引き受けてくれるなら、私がいなくなった後もこの村の面倒も見てもらおうと思って」

「……」

桜は少しだけ複雑な表情を浮かべてそういい、俺はそれに一言そうだなとだけつぶやき、後は語らない。

「なんにせよ、仕事のようだな……」

「それも大丈夫。今回は石田を連れて行くわ」

「石田さんを?」

「うん、あちらのご指名なの」

「アポ無しで乗り込んでくるというのに随分と態度がでかいもんだな」

「あはは、でもまぁ。石田いるなら大丈夫でしょ?」

「ああ、まあな」

石田さんが自ら出張るなら、俺たちの出番は無いだろう。

それにしても、あちらとしては災難だな。

会合で銃をちらつかされるのを嫌ったせいで、世界で最も恐ろしい暗殺者と正面を切って対峙しなければいけないのだから。

「というわけで、今日はシンクンはお休みの日です! いつもがんばってお仕事してるから、今日はゆっくり休んでね?なんかあったら、来客用の宿泊施設にいるから」

桜はそれだけ言うと、似つかわしくないウインクを俺にして屋上の扉を閉めて階段を下りていく。

……休暇、か。

よくよく考えてみれば、俺は休暇とは無縁の人間だ。

戦い続けて、帰ってくればその日の便で次の戦場へと赴く。

ビジネスクラスでの移動時間が俺の休暇であり、つまり、休暇は全部いすに座っていることしかしていないということだ。そのため、おかしな話だが休暇中に何をすれば良いのか俺にはまったく検討もつかない。

「睡眠……は足りているしな」

……さてどうしたものか。

遊ぼうにも観光しようにもまったく興味が無い。

だといってもせっかくの休暇なのだから、何か休暇らしいこともしたいという衝動に駆られている。

「ふむ……」

とりあえず俺は少し考え込むが、やったこと無いことを考えても無駄であることに気がつき、方針を転換することにする。

教えてもらえばいいのだ。

休暇のすごし方が分からないなら、休暇を知る者にたずねればいいだけのこと


幸い、ここにはプロが三名ほどいる……。

休暇のだらけ方を知るプロが……。


「……長山をまずは探すとしよう」

とりあえず手始めに長山の奴に休日の過ごし方をご教授してもらい、その後カザミネとミコトにも参考がてら教えてもらおう。

それなら、その三人を探すという体で散歩も可能だ。


そう一人思案し、俺は三人が行動を開始する時間まで、見張りを続行することにし、スナイパーライフルのスコープを再度覗き込む。


代わり映えすることの無い平和な森は、一昨日までの粉雪から一転して吹雪へと変わった天候に振り回され、あきれるように身を右へ左へと揺らし、各々一本一本形は違えど、みながみな慣れた様子で風と雪をいなしていく。


本当に、この森は二週間眺めているが飽きさせない。

同じような形をしているのに、凝視するとまったく違う白のキャンバスに描かれた木々は、吹雪によりその情景をぼかされ、名匠の書き上げた水墨画のように俺の瞳に移る。


これを唯眺めているだけでもひょっとしたら一日を終えられるかもしれないが……さすがにそれは爺くさいので老後までの楽しみにとっておこうと心に決め、俺は村の様子を見る。


いつものように、村はこの時間帯は眼を覚ましておらず、閑散とした十字の大通りとそこから伸びていく細い路地を確認した後、一つ二つとともり始める家の明かりを一通り追いかけ、俺はその場にスナイパーライフルを立てかけて一息つく。

「異常なし」

平和な桃源郷は、依然変わりなくその美しい姿のまま雪の中に有り続け、俺はいつものように一日ごとに姿を少しづつ変えてゆく村の様子を遠目から眺めた後、銃の手入れを開始する。


これが、いまさらだが俺の最近のルーチンワークとなっている。

といっても、戦闘があまり無い最近……出来る手入れといったら小さな傷の修復と、磨くことくらい。

教えたら桜の奴は、銃の分解やら掃除やらも完全にマスターしてしまったため、四十五口径の手入れも必要なくなった。


「終わってしまった」

そうなると、日常的に行っていることも重なり、あっさりとルーチンワークは終了する。

その間約二分ちょっと……。

まぁ、最近使用していないハンドガン二丁とスナイパーライフル一丁の銃身を磨くだけの仕事で、日が昇るまでの時間つぶしが出来るとは考えていなかったが……。

気合を入れて自分の顔が反射するくらい磨けばもう少し時間が稼げるだろうか。

いや、それこそ時間の無駄だ……。


はてはて……本当にどうしたものか……。

「なにしてんだ?深紅?」

そう思いをはせていると、不意に背後から声が聞こえる。

振り返ると、珍しいことにこんな朝早くから長山が沸いて出てきていた。

「おい、今なんかすごい失礼なこと考えてただろ」

「え?何のことだ?」

「なんか人間扱いされてないような不思議な感覚に襲われたぜ」

「ははは、そんなことないよー」

「あっ!やっぱり考えてやがったな!? お前嘘つくと言葉遣いがおかしくなるんだよ!分かってんだよ!?」

「うるさい奴だ」

「俺が悪いのかよ!?都合悪くなるとクール装う癖止めろ!?」

「ったく、お前こそ勝手な妄想で一人で盛り上がるのは止めてくれ……。で?なんでお前がここにいるんだよ」

長山は威嚇する犬のような表情のまま俺をにらんだまま。

「別に、機嫌よく寝てたら桜ちゃんが出かけるから龍人君はお休みだよーとか言って部屋から追い出されたんだよ。ゲームは桜ちゃんの部屋だし、暇なのよー」

「くそ、使えないやつめ」

休日のすごし方を聞こうと思ってたのに……これじゃ意味ないじゃないか。

「え……なんで今俺は罵られたの?」

さて、こうなると後は休日の過ごし方を知っている人間はカザミネとミコトだけとなるが……。

「困ったな」

「なにかあったのか?敵襲か?」

「……」

「なにその深刻な顔!え?どこどこ!?どこにいるの敵!」

「なぁ長山」

「何?」

「腕相撲でもするか」

「は?」


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