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第五章 レッドランプオブデス


時刻は夕暮れ、射撃訓練を終えた桜を俺は迎えに行く。

「あ、シンクンだ!」

相変わらずボディーガードたちのアイドルを務めながら、射撃訓練を行う桜は、俺に気づくとパタパタと走りながら近づいてくる。

「今日の調子はどうだった?」

「うん!少し動く的を狙うのに挑戦したの!それでね、それでね!」

桜の途中経過を聞きながら、俺は桜と共に冬月の城へと戻る。

話を聞いている限りだと、桜の途中経過は上場のようで、この分だと本当に後数日で戦えるようになってしまうかもしれない……人としてだが。

「でね、でね!」

やれやれ、まぁ、護身術だと思えばいいか。


そんなことを考えながら、桜と共に冬月の城へと戻る。

いつもどおり、入り口の前で雪を払い、重い扉を開く。

「お帰りなさいませ」

これもいつもどおり……。

石田さんが俺と桜を出迎え、桜にかけられたストールを預かり、ついでにダージリンティーまで用意していた。

「……ありがとう石田、温まるわ……」

「恐縮です。今夜は冷えるようですので、お気をつけて」

「ええ、石田も体を大事にね。いざとなったらひとり使用人が増えたんだから、少しは休みを取りなさい」

「……ふふ、桜様にお気遣いいただけるだけで十分ですよ」

石田さんはにっこりと笑顔を向けて、そのまま仕事に戻っていく。

口にしたダージリンティーにより、俺の冷えた体はいつの間にかほてっていた。

「本当に大丈夫なのかな?」

「……まぁ、いざとなったら俺から何とかするように言っておく」

「うん、よろしくね」

「さて、お前を長山に任せて、俺は見張りに移ることになるが、何か用事はあるか?」

「むむっ、シンクンと一緒にゲームをしたかったんだけど、出来ないかー」

「長山の奴がおとなしく見張りを続けられるならやってもいい」

「残念、それは不可能だね。 龍人君の一番嫌いな言葉はフリーズだもんね」

桜は残念そうに口を尖らせ、俺は桜の頭を二三度軽く撫でる。

「ふえ!」

「悪いな桜、また今度だ」

「……うん。まぁ仕方ないね」

えへへ、と桜は少し笑みを浮かべながらそうため息をつき、部屋の扉を開ける。

と。

「あれ?」

てっきり、長山の奴がゲームをしていて電子音が流れ騒がしいと思われていた桜の部屋。

しかし、今日はその騒がしい電子音も、仕事をサボってテレビゲームに熱中する相棒の姿もそこには無く、あるのは見慣れた薄暗い部屋と、窓ガラスに映し出されたしんしんと降る雪の様子のみであった。

「……いないね」

「出かけてんのかな?」

一応、使っていない俺と長山の部屋をのぞいてみるが、そこは相変わらず、俺がここに来た当初と代わっていない。

「……ふむ、まあいい。長山がいないなら身辺警護は俺がやろう。多分外出だろうし……何かあれば気づくだろう」

「本当!じゃあゲームできるね!」

「ん……そうだな。何するんだ?」

「んー何がいい?一応有名どころから神ゲーはそろえてるんだけど」

ガラリ……と桜は戸棚を空けて、自分の持っているゲームの一覧を見せる。


「……一番お勧めはこれかなー」

おもむろに桜は一本のゲームを取り出し、俺に一つ渡してくる。


「……マッスル兄貴の大冒険 ~幻のプロテインを探せ~?」

とてつもなくひどいネーミングだ。

「なんだ、この夢に出てきそうなほどこゆい褐色肌のいい男は」

「マッスル兄貴だよ?」

「……いや、一目でこいつが兄貴だって事は分かるが……一体どんなストーリーなんだ」

「えっとね、筋肉虚弱ウイルス 通称Kウイルスによって、世界中の人たちが己の体を磨くことよりも、ネットによる仮想空間での生活を好むようになった世界。そして、その世界を救うために兄貴は幻のプロテインを使用することにより、世界中の人間を筋肉と筋肉による幸福な人々の社会復帰を計画するの。でも、Kウイルスを作り上げた会社 ウロボロスカンパニーは、兄貴の計画を阻止するためにさまざまな攻撃を仕掛けてくるわ……果たして兄貴は!幻のプロテインを見つけて、世界を救うことが出来るのかしら!」

熱の入った口調で桜はあらすじをすべて暗唱し、俺はその気迫に圧倒される。

「……本当に好きなんだな」

「当然です。 神ゲーですから」

……輝いてるなぁ……。

「ね、やろうやろう」

桜の輝く瞳はすさまじく、その瞳は入信者を募る教祖のようで、俺は結局その誘いを断りきれずに、悲しくも筋肉と筋肉の花園へ半ば強制的に足を踏み入れることとなってしまう。

「……これねリメイク作品なんだけど、プレイ ストリート2じゃ遊べなくて、ZBOX365じゃないと遊べないから、わざわざ 友達のゲイピルツにお願いして送ってもらったの」

ゲイピルツといえば、桜と同じ世界三大富豪の一人……コンピューター会社の超大物社長じゃないか……。

「そうなのか……」

カチャカチャと桜は黒い箱型のゲーム機を床にセットし、テレビの裏にコードをつなげていく。

そして、手馴れた動作でマッスル兄貴の大冒険とかかれたディスクを差込み、起動ボタンを押して俺の隣に座る。

「……」

「……」

テレビの黒い画面はまだしばらく沈黙を続けており、俺と桜は隣同士、肩が触れ合う距離で黙って座っている。

……なんだろう。 少しだけ緊張している自分がそこにはいた。

この沈黙も苦しい。

思えば、こうして桜と二人で肩を並べて座るなんてはじめてだ……。

不思議と……それを意識すると桜から視線がはなせられなくなる……。

綺麗な白い髪、白い肌……どれ一つとっても美しい少女。

……って、俺は何を考えてるんだ一体!?

「……ん?」

「え!」

やばっ、気づかれたか?

「つかないね」

「え?」

一瞬、俺がじろじろ見ていることに不満を漏らしたのかと思ったが。

ああ、なんだ。ゲームが起動しないって事か……。


そういうと、桜はひょこりと立ち上がり、ゲームの接続コードを抜いて息を吹きかけて埃を払い、再接続する。

「……」

しかし、以前画面は黒いままで沈黙しており、桜は少し不満そうに二三度ゲーム機を叩くも、当然反応は無い。

と、そこで俺はあることに気がつく。

「桜」

「ん?なあに?」

「そこ、なんか赤く点滅してるけど」

「ええっ!?」

指差した先、箱状のスイッチらしいところが、なぜか不自然に赤く点灯している。

それを見た桜は、一度とてつもなく大きな声をあげた後。

「……ああんんのやろおおおおお!」

………桜が激昂する姿をはじめてその眼に収める。

「ど、どうした?桜」

「最悪だよ最悪!むきー!レッドランプよ!時々オーバーヒートでこのランプがつくことがあるんだけどこうなるともう二度と正常に起動しなくなるのよ!!取り寄せたばっかりのはずなのにゲイピルツの奴よりにもよってあいつオーバーヒートした後のZBOX渡してくるなんてえええ!?あああああもうむかつく!どうしてくれんのよあいつ!こーなったら直接電話してやる!!」

「え……えーと」

「ごめんねシンクン!私少し用事が出来たから!ゲームはまた今度ね!」

「あ、ああ。俺はかまわない、がんばってくれ」

「うん。もうあったまきたから、新作片っ端から奪い取ってやるんだから!

石田ー!石田ーーー!」


……ばたん 

と扉が閉まり、俺は桜の部屋に取り残される。


残ったのは俺と、赤く点滅を続ける箱型のゲーム。

やることも無く、桜の後を追ってもなにやらとばっちりを食うだけになりそうなため、俺はそのまま屋上へ向かい、見張りを続けることにする。


……特段ゲームをやりたかったわけでもなければ、マッスル兄貴もやりたいとは思わない。


だけどなぜだろう、少しだけ残念がる自分がそこにはいた。


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