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第五章 新しい使用人


12月12日


歩いているのは、見覚えがあるようで……まったく記憶に存在しない町。

てくてくと、なれた歩調で道を歩く俺は、そのままいつもの公園へとたどり着く。

子供用の、ブランコや滑り台や砂場が申し訳程度にある、小さな子ども達を中心に賑わう公園。

今日は平日のため、自分ひとりで昨日作りかけた砂のお城を完成させる為、朝早起きして家を抜け出してきた。


朝は早く、誰もいないのを確認し、砂場へと走る。

「……」

なんということか、砂のお城は心無き誰かの手によってつぶされていた。

……まぁ、これくらいは予想の範囲内。

少しばかりくじけそうになった心を建て直し、手に持ったシャベルで土を掘り返す。

 

よしよし、大体この前と同じくらいの形には戻ったな。

自分の労働に自画自賛をし、一度汗を拭ってあたりを見回す。


……あれ?

早朝……いるのは自分だけだったこの公園に人がいる。

……しかも砂場の眼の前にあるベンチに、気がつけば一人女の子が座っていた。


眼の部分に赤い包帯を巻いたその女の子は、何をするでもなく……ただただそこにいた。

まるで世界から逃げるように。

まるで世界から隔離されるように。

「いつからいたの?」

その質問に……その少女はゆっくりとこちらを向き……。



あぁ、思い出した、俺はあの時初めて、あいつに会ったんだ。

               ■


昨日はひどい目にあった……。


そう朝から齢十五の少年がつぶやくには自分でも暗いと思う台詞をはきながら、俺こと不知火深紅はいつものように雪化粧をした森を見る。


結局、あのメイドは桜によってあそこの道案内役を継続させることとなり、今日新しい使用人に『特別功労賞』を与えると桜はいきまいていた。


「おっはよー」

朝一番から元気なことである。

「どうしたんだ桜?射撃訓練か?」

「ううん。昨日言った通りに、特別功労賞をあの子に上げるの」

「……ほう、で何をあげるんだ?金一封じゃ喜ばないぞ?」

「分かってるよー。だからね、ほらこれ」

桜は自信満々に後ろ手に隠していた布のようなものを広げ、俺の前にかざす。

それは。

「……メイド服?」

「うん、クローゼットあさってみたらあったの!あのこの服ぼろぼろだったから、これ喜ぶんじゃないかな!?」

「……確かにな」

しかし、桜とあのメイドではかなり体格に差が有るが……一体どこで見つけたんだ?そのメイド服は。

「とりあえず、行って見よう!」

「あーはいはい」

桜に引きずられながら俺は、そのメイド服の出所を聞くことなく、一回のあの部屋へと連れて行かれる。


一度入ると慣れてしまうもので、今まで感じていた悪寒や恐怖心はすでに無く、桜も平然とした顔でドアノブをあける。

「うわっ!?」

瞬間不気味な笑みを浮かべた仮面が眼前に現れる。

「あはは、もしかして昨日からずっとここで待ってたの?」

コクリとメイドがうなずき、桜はお疲れ様とねぎらいの言葉を一つだけ投げかけて、メイドを部屋へと上げる。

「……じゃあ、着替えてくるから、シンクン覗いちゃだめだよ!」

「ん……ああ、分かったよ。じゃあここで待ってるから」

「うん。さ、行こ!アカネ!」

いつの間にか名前を付けられたメイドは少し戸惑ったような表情のまま、桜は楽しそうに笑いながら、そそくさと衣裳部屋……らしき部屋へと向かっていき。


「おや、桜様おはようございます」

「おはよう石田。朝からご苦労様」

「恐縮です……では」

「ええ」

石田さんと桜はすれ違い、そのまま俺の方向へと向かってきて……。立ち止まり。

「……すいません今の方どちらさまですか」

あわてた様子で俺にそう尋ねてくる。

 まあそうなるわな。


とりあえず、俺は石田さんに昨日会ったことを説明すると、何か合点が言ったような表情をして。

「そうですか、まぁ使用人が増えることは大歓迎ですので……」

その一言だけを残して仕事へと戻って言った。


……俺だったら、あんな変なお面をした使用人は眉のひとつくらいひそめると思うが……石田さんはあまり気にしないらしい……これも年季のなせる業なのか……それとも石田さん自身が余りそういうのを気にしないたちなのか……それともデルタ部隊はさらに変人部隊だったのか。

まあ、分からないことをぐだぐだ詮索しても意味の無いことのため、俺は桜を衣裳部屋の前で待つことにする。


待つこと二十分。自分の着替えよりも数段はやい時間に桜は衣裳部屋の扉を開いて桜だけが顔を出す。


「もうびっくり、予想以上にぴったりなんだもん!えへへ、今からお披露目するけど、あんまり可愛いからって興奮しちゃだめだよ?シンクン」

誰がするか……。

「それじゃあお披露目!ぱんぱかぱーーん!」

がちゃりと扉が完全に開かれ、着替えを済ませたメイドの姿が俺の前へと飛び込んでくる。

「……おお」

桜の後ろに立つのは、誰がどう見ても恥ずかしくない使用人姿の少女。

ぼろぼろの衣服を身にまとっていたころとは想像が出来ないほど、清楚かつきれいな服に。

埃にまみれていた体はきれいに洗い流され、痛んでいた髪の毛は黒くつやのあるセミロングの動きやすくかつ、女らしさを失わせないいでたちとなっていた。

……そう、そのメイドは正真正銘の美人であり、一つ問題点を挙げるとするなら。

依然としてその仮面をとろうとしないところであった。

「お風呂入るときははずしたんだけどねー、恥ずかしがりやさんなのか、どうしても外そうとしないんだよこの仮面。せっかく美人だったのにもったいない」

そういいながらこっそり桜が仮面に手を伸ばすと、メイドはすごい勢いでバックジャンプをしてその手を回避する。

なるほど、これは相当な嫌がりようだ。

「まぁ、そこまで嫌がってるなら外さなくても良いだろう? あんまり美人だと長山が仕事できなくなるしな」

「っはは、私もそう思ってつけたままでいてもらうことにしたんだ」

「そうか……」

相変わらずの長山の扱いである。

「ところで、そのメイドはこれからどうするんだ?」

一応機械ではあるが、俺たちと同じ生活をすることも可能だが……。

「あの場所の道案内を引き続き頼むことにしたの。 ほら、昨日崩れちゃったでしょ?だからあそこの掃除もかねて、しっかりとあそこの空間を部屋として使用できるようにしちゃおうと思って……」

「一人じゃ辛そうだな」

「うん、だから頼んだのは礫の処理と床の修理。それが終わって、安全も確保できたら、私が査察に入ってあとはちゃんとした建築家の人たちに任せることにするよ。ね」

コクリとメイドは一つうなずいて、そのまま桜と共に今までいた部屋に戻っていく。

その姿はどこかやる気に満ち溢れているようにも見え……仮面で表情こそ見えないが、与えられた仕事に歓喜をしている……そんな感覚を俺に与えた。


ああそうか。

きっとこの機械は寂しかったんだ。

忘れられて、それでも命令を守り続けていた……この機械。

命令を守るために作られた彼女だからこそ……きっとこの与えられた新しい任務は、彼女の心を躍らせるに十分なものだったに違いない。


……物には魂が宿る。

そんな日本の昔の言葉を俺は思い出しながら、くだらない事ながら、このメイドにも、心というものがあるのではないか……。

そんなことを考えてしまうのであった。


                   ■


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