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第五章 ミコトの仕事2

12月10日


昨日に引き続き、天候穏やかな本日

「おっはよー!シンクン!」

桜は昨日と同じように俺のいる屋上までパタパタとやってきて、まるで散歩をせがむ犬のように私を射撃訓練場まで連れて行けとおねだりをし、俺は拒否することもなく快くエスコートをする。


「じゃあ、よろしく頼む……これ以上のことは、あんたらの方が上手く教えられるだろう?」

「分かりましたシンク。あなたが帰ってくるまでには、きっと桜様は百発百中にしてみせますよ!」

「そんなに本気でやらなくても……」

「いいえ、桜様があれほど熱中して精進してるのですから、こちらもそれに見合った教育をしなければ!」

「……そうか」

……かえって自信をつけて、危険なことに首を突っ込むようになるんじゃないかと不安でしょうがないが……しかし、桜の目も彼らの目も真剣そのものであり、とてもじゃないがそんなことは言えず、俺は仕方なく言葉を飲み込んでその場を後にする。


警戒は厳重にしてもらい、長山にもゴーレムの配置を城からここ中心に変更してもらったし……ボディーガードたちがいる分、城で寝ているよりも健康的だし安心だろう。


                  ■


桜のお守りから離れて、俺はしばらく町をぶらつくことにする。


雪がちらつく商店街。

時刻はまだ朝の五時ということもあり、どこもシャッターは閉まっており、道に積もった雪にはまだ俺の足跡しか残っていない。たいしたことではないはずなのに、前人未到の大地を踏みしめたかのような満足感が襲ってくる。

「……」

気が変わった。本当は散歩がてら村を通って城に帰ろうと思ったが、今日は少し本格的に散歩というものをしてみよう。


長山ではないが勝手にそう俺は自分に言い聞かせ、目に留まった細路地に足を運ぶ。

当然何も無い。

あるのは、眠ったように音も立てず唯そこに立ち並ぶ民家だけ。

中には、煙突から煙を出し、ごそごそと中で活動を開始する人の音が小さく漏れ出しているが、いつものようなにぎやかさはまだ無い。


……外は、ただまっすぐ道が伸びていくだけの白の世界が続いており、俺はそれを楽しみながら、何も考えず適当に道なりに進んでいく。


と。

「……む?」


俺は気がつくと、もう一つ大きな通りに出る。


村の入り口と森と城をつないでいる本道ではなく、本道と十字に交差した森と森をつなぐ大きな通り、村人達は神聖の森と中立の森をつなぐ森道と呼んでおり、俺もたまに利用しているが、こうして誰もいない状態でゆっくりと見るのは初めてだ……。


どうやら、出てきた場所は道の西側の際奥だったらしく、俺は仕方なく本道へ向かって歩き出す。

見上げると、あたりには看板が立てかけられており、銭湯や宿泊施設の看板が見渡せる。

多分ここは、村人が利用するための本道とは違い、外からやってくる人たちのために作られたのだろう。

本道には二三個しか見当たらなかった自動販売機が、百メートルおきくらいに転々と存在しており、駐車場やら土産屋まである。

……なんだか、普通の外と隔離された村みたいに思っていたが、しっかりと観光名所としてもやっていけそうだ。

一応、当主としての仕事はやっているのだなと俺は桜を改めて心の中で賞賛し……。

「ん?」

一つ、建築中の建物を発見する。


雪がかからないようにビニールシートがかけられたその建築物は、頬を撫でるような風に揺られ、ばさばさと音を立ててその存在を知らしめている。

作りは一階建ての木造建築……。

そのことから、俺は一つのことを思い出し。

「ふふ、早いのね、守護者さん」

やれやれとため息をつきながら俺は声の主のほうへ振り返る。

「……どうりで散歩なんてしたくなるわけだよ。これがお前の店か、ミコト」

後ろにいたのは、いつものように胡散臭げな表情をしておれに不敵な笑みをこぼすミコトだった。

「あら、おはようの一言も無いなんてつれないわね、守護者さん。こんな場所でめぐり合うのもまた一つの運命だというのに……」

「お前の場合はいかさまの運命だろ?」

「いかさまとは失礼ね……せめて導きの読み手とくらい呼んで欲しいわ」

「はいはい……で? どうしてこんな早くに俺に会おう何て思ったんだ?」

「そうね、たいしたことでは無いのだけれども今日は約束を取り付けにきたのよ……」

「約束?」

「ええ、知ってると思うけど、この前桜様が私に進言してくれた居酒屋の件。

割と順調に進んだから、このままさっさと始めることにしたのよ……」

「早いな……決まってからまだ一日しか経過していないのに……で、いつ開店するんだ?」

「そうね、12日の夜にはもう」

「……」

企画から実行までの四日で居酒屋を開始できるとは……いかに未来が見えるとしても早すぎだろ。

「まあ、というわけでね、12日の夜に、あなたに来て欲しいのよ」

「……12日か……分かったいいだろう」

「あら?随分とあっさりいいって言うのね?てっきり仕事が何だって渋られると思ったのに」

「……どうせ、俺が来ることは確定しているんだろ?だったら抗うだけ無駄という奴だ」

「そう……懸命な判断ね」

「で?それだけなのか……」

「え?」

「それだけなら伝言を誰かに頼めばいいだろう? わざわざここまで来て直接伝える意味はない……ということは、なんか他にも用事があるんだろ?」

「ふふ、朴念仁の癖してこういうところは預言者なみなんだから」

「悪かったな、で何かあるんだな?」

「ええ、お礼を言いにきたのよ」

「お礼?」

ミコトはそういうと、俺に一歩近づき、にっこりと笑みを向けてくる。

どうやら今日は酔っ払っていないらしい。

そういえば、いつも腰にぶら下がっているひょうたんが消えている。

「……酒はどうした?いつもなら朝酒とか言って飲んでいるころだろうに?」

「それはもう必要ないわ」

「そうなのか?」

「ええ、あなたが守ってくれるんでしょう?だったら私はもう夜におびえる心配は無い……あなたのおかげで、お酒なんて無くたって眠れるんだもの、そしたらもうお酒は必要ないでしょ?」

「……あれ、眠るために飲んでたのか」

「夜が怖かったのよ……なんだか目を閉じたらもうさめないんじゃないかって思って」

「…………そうか。物騒だったからな。すまなかった」

「いいえ、気にしないで。 あなたのおかげで最近は本当ぐっすり眠れるのよ……だから、そのことについてお礼を言いにきたの……このままだと私、きっとあなたの優しさに甘えてうやむやにしちゃいそうだから」

「……別に、たいしたことはしていないし、気にすることは」

「ありがとう守護者さん。助かったわ」

「むぅ」

ミコトはそういうと、すぐに俺に背を向け、何も言わずに森の方角へと帰っていく。

その歩みは少し速く、その動作から恥ずかしがっていることは朴念仁の俺でもはっきりと伺えた……。

どういたしまして。

そう、去り行くミコトに大声で伝えようかとも迷ったが結局はのど元でとまり、飲み込む……動き始めた村人達の活動する音が、その言葉をとめたからであった。

                   ■


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