第五章 長山との出会い
夜、いつもなら見回りに行く時間であるが、俺はそれを中止することにする。
理由はこいつのせいだ。
「うええええ……きもちわりー」
……桜に散々痛めつけられたらしく、苦手な主観視点のゲームをやらされ続けたことにより、ひどく衰弱している……さすがにこいつを残して見回りに行くのは危険と判断し……俺は桜が寝静まるのを待って、二人で見張りをすることにした。
「まだ収まらないのか?」
「むり……あれやるとしばらく飯ものどを通らないって知ってんだろ?」
恨めしげに長山は俺にそういい、俺はそれを無視して銃の手入れを始めようと手を伸ばすが。
「……やめてくれ深紅……銃見ると光景フラッシュバックしちまう」
長山はその手をつかんで泣きそうな瞳でそう訴えてくる。
とことん面倒くさいやつだなこいつは……。
だが、ここで吐かれても面倒だし、仕方ない明日朝早くやるとしよう。
雪がちらつく雪月花の森……。最近は落ち着いた気候が続いており、雪が溶けることはないが比較的暖かく過ごしやすい……。
天候と同じく、敵の来る様子は無い。
森は至って平和であり、スコープ越しに見る町や森は、動くことも無く静かにねむっている。
起きているのは俺と長山の二人だけ……まるで、この世界に二人だけ取り残されたかのような感覚がして……少しだけ気が緩む。
「なぁ」
「んー?珍しいな、お前からはなしかけてくるなんて」
「いや……少し……な。たまにはいいだろう、二人で見張りをしているんだ。無駄話の一つや二つくらいあっても」
「……まぁ、俺も暇だったからいいんだけどよ、で、何だ?」
「……あぁ。そういえばお前と」
「ちょっと待てよ、スコープ覗きっぱなし?お前今話そうって言ったんだよな?友達と、二人で、腹を割って。せめて顔つき合わせて話そうぜー、それともなぁに?自分の顔にでっかいにきびでも出来て見られるのが恥ずかしいのかい?」
「やれやれ……お前の減らず口に鉛でも打ち込めば少しは静かになるかな」
あきれながら俺はそういい、しかし長山の言うことも一理あるため、スコープから目を離し、長山の方向に向き直る。
「きれいな顔してんじゃん。気にすることは無いぜ?」
長山はそう冗談をはき、俺はそんな対応にため息を付いて座り込む。
「で?ほれほれ、話したいことって何だ?」
「……そこまでたいしたことではないが」
「大したことじゃなくたっていいんだよ。お前だって久しぶりに俺と話したいから、珍しく声なんてかけたんだろ?ほらほらー」
……まるでかまって欲しいと尻尾を振る子犬のように、長山は目を輝かせて俺に絡んでくる。
やれやれ、もう少し可愛げがあればめでる気持ちも生まれるのだが、両生類に甘えられても正直どうすればいいか分からない。
「ったく。お前と初めて会ったときのこと覚えてるかって聞こうとしただけだ」
そう、気がついたらこいつは俺と一緒に行動をしていた。
いつもべたべたしつこく俺に付きまとい、変なことをしては俺に迷惑をかけてきた……。
友達というにはあまりにもうざったく、ライバルというにはまったく緊張感が無く。
そして、無関係というには……あまりにもともに時間をすごしすぎた。
「あー。最初の小隊割り振り訓練のときの初期メンバーじゃなかったか?俺とお前、弓先とラン……それで知り合ったんじゃなかったっけ?」
「やっぱり覚えてねーか」
確かに、部隊での知り合いたちとの出会いはその訓練のときであったが……しかしこいつだけは異なっている。
俺が対大量破壊兵器専門部隊に引き取られる前……。
まだ俺に、何の力も無かったころ……俺は、初めて友達が出来た。
「なんだよ、違ったか?」
「ああ。違うもっと前に俺とお前は出会ってた」
「なんか含みのある言い方だな……んなこと言われても覚えてねーよ」
「……本当か?」
「あぁ」
「……鎖骨骨折」
「……鎖骨……ってああ!?」
どうやら思い出したようで、長山は冷や汗をかきながら、あれお前だったのかーなんて苦笑をもらしている。
やれやれ……。
それは、俺が親父を失い、ジューダスに拾われてすぐのことだった。
「長山龍人、先日孤児院で見つけてつれてきた。お前と同じく、父も母も失った子どもだ、お互い仲良くするように……いいな」
「……はい」
「おーけー!仲良くだな!」
あの時、何もかもが大きく見えていた……部屋も、ジューダスも……そして天も。
「なあなあ、俺は長山龍人!どこから来たんだ?どこにいたんだ?」
「なあなあなあ?」
「どうしたんだ?おなかでも痛いのか?」
「おーい、聞いてる?聞いてますかー?」
父親は天国にいると信じて疑わず……そのくせ、もう他の誰も信じず疑ってかかっていた。心を閉ざして、何も取り入れない。
あるのは父の死を目前に、何も出来ず打ち震えていた自分への怒り。ひたすらに人を殺し続けた……感情無き兵器への怒り……。
初めて俺は、無力をのろっていた。
ジューダスは言った、ここにくれば、すべてを与えると。失った家族も、友人も与えるといった。
だが、興味など無かった……死人はいきかえらない。
だからジューダスが与えてくれるのは力のみであり、それが分かっていながら俺はこの道を受け入れた。
欲しいのは力だけ……だから……。
友人など、唯の面倒くさいつながりでしかない。
人には必ず別れが訪れる。
親しければ親しいほど、別れが辛くなる……だからもう、誰とも親しくなりたくない。
そう考えて、俺はしつこく話しかけてくるこの男を無視し続ける。
きっと、何も反応を示さなければこいつだって俺に興味をなくすだろう……嫌われるかもしれないが、それでいい……もう二度と……大切な人間を失うのは嫌だから……。
「なぁ……むむぅ、なんだお前?我慢比べでもしてるのか?そうか、我慢比べか……だったらおれだって負けないぜー!」
……ん?
瞬間、先ほどの肩たたきとは比較にならないほどの打撃が、おれの肩に加えられる……しかも一度ではない……何度も。
「なあなあなあなあなあなあなあなあなあなあなあなあなあなあなあなあなあなあなあなあなあ!」
悲鳴を上げなかったのはすでに自分の心が死んでいたからか……それとも苦悶の声も漏れないほどの激痛だったのかは覚えていないが、その後発見されたおれは鎖骨と肩甲骨の骨折意識不明の状態で発見され、病院のベッドへと逆戻りするハメになった。
「……痛かった」
「ちょ……ままま、まさか。それずっと根に持ってたの!?俺に厳しいのってまさか、その恨みが原点!?いやいやいやいや、お互い子どもだったからしょうがないじゃんってか、いつまでうらみ引きずってんの!怖いわ!?」
「別に恨んでなんかいない……ただ、それが俺とお前の初めての出会いだって言っただけだ……だが、痛かった」
「やっぱり根に持ってるじゃないですかー!?ってなんでクローバー取り出してるの?え?マジで?え?悪かったって!謝るよ、謝るからもう許して!?」
「ふっ……冗談だよ、馬鹿山」
クローバーをしまい、おれは苦笑をして長山の顔を見る。
本気で安堵したのか、長山は助かったなんてぼやきながら額にかいた汗をコートの袖でぬぐっている……。
馬鹿でふざけた相棒だが、正直であえてよかったとも思っている。
きっとこいつは、どんなことがあっても俺の前から消えることは無いから。
「あってめ!?またばかって言いやがったな根暗野郎が!?」
子どもの様に売り言葉に買い言葉で暴言を吐く長山に、いつもなら鉄拳制裁を加えるところだが、俺は変わりに一つだけため息を吐いて。
「まったく、本当にお前と一緒にいると飽きないよ……相棒」
そう一言つぶやいて、俺はまたスコープへと視線を戻す。
長山はそれに、何か二三度ぶつぶつ文句を垂れていたが……気がつけばその声は、いびきへと変わっていた。




