第五章 ミコトの仕事
「し……死ぬかと思った。少しは手加減しろよお前は」
「別に俺はお前が死のうがかまわない」
「久しぶりに聞いたなその台詞!?」
軽口をたたきあいながら、俺と長山は赤い廊下を二人で歩き、特に何も考えずにいつものように談話室へと足を運ぶ……と。
「お?」
「あら?」
そこには、珍しい客人が顔を見せていた。
「ミコト、どうしたんだ?こんな時間に」
「守護者さん、それに英雄さん。ふふ、当然ここにくるのは分かってたわ。私は星の導きをつかさどる占い……むぎゅ」
詐欺と自白された前口上を何度も聞くのは趣味ではないので、俺はミコトの口をふさいで。
「どうしてこんな時間にここにいる?」
「ふふふ、最近物騒でしょ?あそこの森もなんだか昨日爆発が続いてて物騒だったのよ」
「なに?」
「へ……へー!そーだったんだ!?大変だったねーミコトちゃん!?」
「?」
「くすくす……。それで、少しばかり村に非難することにしたのよ。当主さんにお願いしてね」
「……そうなのか」
「おまたせーーー!あれ?シンクンだ!」
そう言うや否や、談話室の扉が勢い良く開き桜が入ってくる……。
どうやらカザミネは一緒じゃないらしく、俺はふと桜に問いかける。
「桜……カザミネはどうした」
「え?なんか森に狩りに行くっていってたけど」
「またか……」
危険だから何度もいくなって言ってるのに……
死んでも知らないぞまったく。
「はぁ」
「最近、深紅様はため息が増えましたねえ」
「ほっといてくれ」
「ところで桜ちゃん、それなんだ?」
「ふえ?これ?」
そういって差し出されたのは大量の本と紙束……しかも桜一人では持つには少々量が多いようにも見える。
「ん?これ、ミコトの店を作るために建築学の本を持ってきたの」
「建築?」
「そうよ、言ったでしょ、村に一時非難するって……それでね、当主さんに相談したら、店を開くよう頼まれちゃって」
まぁ、そうなることが分かってたから桜に頼んだんだろうが……。
「なるほどねぇ、ところでミコトちゃん、何の店を建てるんだ?」
「ミコトにはね、居酒屋を経営してもらおうと思ってるの」
「居酒屋?」
なるほど、しっくりくるな。
「最近思ってたのよ、この村住みやすいんだけど少々みんな真面目すぎて娯楽施設みたいなところが無いの。 居酒屋も酒屋も無いのよ? だから、この村の中央に大きな空き家があるでしょ? そこに居酒屋を建てようと前々から思ってたんだけど、いかんせん人がいなくて……そしたらちょうどミコトがやってくれるっていったから」
「ふふ、建築から何から何までお世話してもらえるって言うからつい引き受けちゃったわ」
れっきとした公共事業だからね! なんて桜は親指を立ててにこやかに笑い、ミコトと一緒にどのような店にするか、建物のデザインはどうかなどという話を始める。
「……しかし桜、後二週間程度で任務は完遂するんだぞ? そんな今から作っていたら出来上がるころには任務が終わってしまうんじゃないか?」
「あぁ、そこのところは大丈夫。あそこの空き家はもともと食事処で、改装するだけで立派なお店になるから、遅くても三日後には開店できるよ。
村の人に頼めば大工は総出でやってくれるし」
いくら何でも早すぎだろう……。この村の労働基準法はどうなってるんだ?
大工さん過労死してしまうぞそんなことしたら。
「ふふふ、いきなりの大役だけど、案外料理とかは上手だからきっと期待にこたえることが出来ると思うわ……」
「ええ、期待してるわミコト」
桜とミコトはすっかり意気投合してしまったらしく、桜は当主らしく設計やら経営方面などの支持を事細かにミコトに語り、ミコトはそれをただただ笑顔で頷くだけだった。
すでに桜は他人が視界に移らなくなっており、俺と長山は肩をすくめて見張りへと戻ることにする。
「桜ちゃん、楽しそうだったな」
廊下を歩きながら、長山はそんな感想を漏らし。
「仕事好きだからな……あいつは」
それに俺も、そんなどうでもいい感想を漏らすのだった。




