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第五章 相棒と浴場にて

「ったく、ひどい目にあった」

「まったくだ」

大浴場にて、おれは珍しく長山と一緒に風呂に入る。

桜とカザミネは料理の成功に大いに喜び、現在後片付けをしており、石田さんは暇になったからと屋上で休息をしている。


時刻はただいま夜十時……どたばたと騒がしく殺伐とした時間であったにもかかわらず、死人もけが人も出なかったことはまぁ幸いだっただろう。

「……ふあー」

「ふいー」

大きく息を吐き出すと、隣の相棒も真似をするように息を大きく吐き出す。


そういえば、長山は仮身と戦うのは初めてだったな。

カレーのこともそうだが、心なしかその顔からは疲労が見て取れる

「……長山」

「んー?なんだ深紅?」

話しかけてみるところ、特にいつもと変わった様子はないが、やはり目に力が入っていない。

いや、どちらかと言うと俺にうらみがあるような視線だな……気のせいか?

「初めての仮身との戦闘、どうだった?」

「珍しいな、お前がそういうの聞くの」

「別にいいだろ?こうやってゆっくり話すのも久しぶりだ……」

「まぁそうだけどよ、つっても、特に感想はねーよ。訓練で何度か戦ってたから、倒し方に苦労したわけでもねえし……ただ」

「ただ?」

「……今まで人間と戦ってきたからよ、あんなに冷たい殺気は初めて感じたな。

あれに殺されるのだけはごめんだね、どんな殺され方だとしてもきっと人間としては死ねなさそうだ。人間ってのは本当おろかだよ」

ため息混じりに、ついでに人類への苦言も重ねて、長山はそうぶーたれる。

「だが、その兵器のおかげで俺たちは飯にありつけている」

「皮肉な話だねえ」

「何を言ってる。俺たちのこの部隊そのものがもはや皮肉だろう……」

「……人が作った兵器を破壊する部隊、調律師。確かになぁ。壊すぐらいなら作らなきゃいいって話なのに」

「それが出来ないから、俺たちがいる。お前の言うとおり人はおろかだ……進化と称しながら、自らの手に余るものを作り上げ……結果、破滅する」

「始めは原子爆弾に始まり……ICBM そして、仮身」

「悲しきかな、人を無差別に破壊する兵器を生み出すのも人間ならば、それを壊すのも人間になっちまった……これじゃ意味ねーよな……」

「そうだな」

現在の世界は矛盾している。




大量破壊兵器を有する常任理事国……

核抑止の原理と同じように、各国は仮身を手元に握らせておくことで、相手への牽制としている……。

核兵器を使えば、同じように核兵器による報復がくる。

その恐怖心が、互いを平和へと向かわせている


しかし、結局そうなればアメリカが有利だった。

資力に圧倒的な差を見せ付けるアメリカは、大量生産で仮身保有量が世界でも郡を抜いている。

圧倒的兵力差……それにより、世界の覇権を永久に保持し続けようと考えたのだろう。

そしてそれが、アメリカを世界最弱の国へと落とした原因でもある。

「……ウイルコットの逆転劇か」

歴史の授業で習ったそんな皮肉な話を思い出し、俺は苦笑をすると。

「あぁ、それ覚えてるぜ。アメリカが現在お守り国家って言われるようになった事件だろ?」

「よく覚えているな……」

「まぁな」

2005年。

アメリカで仮身によるテロが発生した。使用したのは二名のテロリスト。

十体の仮身がアメリカのウイルコット州北部に放たれ、その村は壊滅した。



 仮身に対し、軍では対抗は出来ない。

そのためアメリカは、当然のように兵器には兵器で対抗した。

投入したのは仮身二十体、それによりアメリカはテロリストと仮身ついでに村人も全滅させた。



仮身は大量破壊兵器だ……無差別に敵を殺すだけの兵器……。

形は人のそれに近いが、性能は原子爆弾に近い。

アメリカ人とテロリストの区別などつくはずもなく、村人テロリスト仮身すべてを殲滅し……被害は二千を超えた……。


アメリカは自分が放った兵器の抑え方を知らなかった。


被害は広がり、アメリカ軍も手をこまねくしかなかった……。


そのときに現れたのが……ジューダス キアリー。後に大量破壊兵器専門部隊の祖ともいわれる……俺たちの現在のボスだ。


彼が率いた部隊は、一瞬のうちに仮身を殲滅せしめ、同時に術式使いによる部隊、

大量破壊兵器専門部隊の提唱をした。


当時、その提唱を飲んだのは中国 ロシア そして日本。 現在列強といわれている国々だ。

アメリカは半ば強制的にその提唱を受け入れさせられたが、仮身の投入実験による村人の大量虐殺に継ぎ、ウイルコット州への責任にから、アメリカの軍部には信用も権利もなくなっていた。

結果その全てをジューダスキアリーにより掌握されることになった。

当時の大統領の英断だ。



そのため、現在アメリカの大量破壊兵器専門部隊は、日本の調律師から派遣されているもので構成されており、現在ゆっくりとその量を増やしている。

すべてジューダスの息のかかった部隊だ。


結果……皮肉なことに世界最高の軍事力を持つ国は、日本の部隊にいるジューダスがいなければ指一つ動かすこともままならなくなってしまった。

当然、世界には公表されていない話ではあるが。

「傑作だよな、あれだけの軍事力を持っていながら、仮身に対抗できる部隊を一つも持たないなんてよ」

「もともと予期していなかったんだろう、自分たちが攻撃されるなんてことはな……」

「にゃるほどね」

長山は納得したように笑みをこぼし、お湯の中でのんびりし始める。

その姿はとても軍人には見えないほど子どもじみていて、緊張感がない。

……俺はそれが少しだけうらやましい。

「……なあ長山」

「んん?なあに?」

「……いや、なんでもない」

「どうしたんだよ」

「別に、お前にも信念ってもんがあるのかと思って聞いてみようと思ったが、お前にそんなもんある分けなかったなと思って」

「ひどっ!?なんかそれ酷くないか!?俺だってなぁ……」

「ん?」

「あ……」

「あるのか?なんか?」

「いや……えと……」

「?」

「やっぱねえや……俺は楽しけりゃそれで良いやって感じだからな」

「だろうと思ったよ」

「うっせーわりーか。俺の人生俺のことだけで精一杯だっつーの!他人のことに気なんて使うよりも、自分の幸せ模索したほうがぜーんぜん楽しいし有意義だろーに。他人のために人生ささげてるお前のほうがおかしいんだよーだ」

長山は何か悔しそうな表情をしながらそう俺に悪態をつく。

何を気にしているのかは知らないが……。

「お前はそのままで十分だ……恥じることも引け目に感じることもない」

考えてみれば、こいつは常に己の騎士道に従って行動している。

俺のように気を抜けばぶれてしまう様なそんなものではなく……呼吸をするのと同じくらい自然に、己の信念を貫けるのだ。


それが、俺はうらやましい……。

普段ふざけているのに、何も考えないで生活しているのに。

こいつは自分のルールを曲げることはないしぶれることはなく……悩むこともない。

自分が正しいと心の中で思えていて、それは疑う余地もなく当然なのだ。

「……やれやれ」

だからこそこいつは強い。

きっと、俺より。

「ああっ!またお前俺のこと馬鹿にしたな!?そうですよ!どうせ俺は何も考えてませんよ!?」

「うるさい黙れ、沈めるぞ」

「あぼっぼおぼぼおぼぼ!?おぼれる!?おぼれちゃう!?」

やれやれこいつは……本当に頼もしい奴だよ。

                   ■


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