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第五章 セカンドベスト

「仮身工場?」

疲れた表情を浮かべて、長山は談話室でそう俺の言葉を復唱する。

「あぁ……先日新宿で見つかったのと同じタイプだろう。恐らくあの村の地下に、相当でかい工場がある筈だ……」

「……なんでそこにあるって分かるの?」

「あの術式は多分。外からの侵入を防ぐためのものではなくて、中のものを外に出さないための術式だ。 そう考えれば全部合点が行く」

「どういうことですかな?」

「桜の父親が保有していた仮身工場だろう……商業用じゃなくて、恐らく私的に所有していたものだ」

「え?」

口に出して少し後悔をする。桜がいるのを忘れていた。

案の定桜は驚いたような表情の後に表情を曇らせ、俺もその次の言葉を出すのを少しためらう。

「……ふむ、ありえない話じゃねぇなぁ。こんだけちっこい村を守るには、時には金だけじゃ守れないこともある。そう言いたいんだろ?深紅」

「ん……あ……まぁ……な」

長山の推測には賛成だが、俺は少し言葉を濁す。

「シンくん。私は大丈夫だから」

どうやら気を使っているのがバレバレだったようだ……やれやれ、こういうところは長山を見習った方がいいらしい。

「工場って……シンくん比喩がおかしいよ。あれはどう見たって人間だったさ、それが量産されるなんて悪い冗談さ」

「……あのタイプは人の形をしているだけだ。確かに、体を動かす構造は人と似通ってはいるが、あくまで兵器用に簡略化されている」

「簡略化?」

「あぁ、少し長くなるぞ」

隣で座っている桜に視線を向けると。

「……あ~!また私をバカにして!!科学的なものだったら私だって理解できるよ!君達みたいに現実から離れた世界で生きてる人とは違うんです~!」

「……そ……そうか」

「そうさねシンくん。あんまり桜ちゃんをバカにしちゃいけないっさ」

「そうだぜ深紅?お前は見たことねえかもしんねぇけどよ、あんまり桜ちゃんをバカにすると、必殺の右ストレートがとんで」

「来ないよ!」

あははと石田を含めた全員が笑う。

今の会話を唯の冗談とみんなは受け取ったのだろうが、俺には桜の明るい表情の裏に、少しだけ辛そうな感情が見えていた。

明るく振る舞ってはいるが、本当は父親の事で頭がいっぱいで、すぐにでも耳を塞ぎたいと心の中では思っている……だけど、弱音がはけないからこうやって笑ってごまかしている。

そんな桜の姿が痛々しくて……俺は言葉を止めたのだが……。

「もう、シンくん!さっさとギアの説明して!」

彼女は自ら続きを促した。

きっと俺の考えていることなど御見通しなのだろう。 

俺が彼女のほうに視線を送ると、凛々しい表情を作って一度だけ頷く。

覚悟は決まっているようだ……それならばもうこれ以上気を使うのは失礼だろう。

そう判断し、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「さて、さっき少し説明したが、ギアの体の構造は単純でな、体内にある臓器は心臓のみだ」

「心臓しかないの?ご飯は?」

「あくまでコンセプトは機械だ。人は確かに高度な生物だが、性能がいいもんは壊れやすいし、人間は戦うには少しばかり無駄が多い。だから食事や感情……戦うために必要ない期間を排斥し、代わりに人を殺すことに最も適した構造に作り替えた存在、それが仮身だ」

「最適な構造って……腕に生えてる刃物の事かい?」

「それだけじゃない。……お前ら仮身の姿は見たか?」

「うん、なんかすごい鎧みたいなもの着てた」

「あれは鎧じゃない、仮身の骨だ」

「ほねぇ!?」

桜とカザミネは二人同時にそう素っ頓狂な声を上げる。

「戦闘に置いて、昆虫の構造は最も適していると判断されたんだろう。内側を守るために奴らは全身を特殊合金性の骨で覆われている。まぁ、内側にも一応骨格に近しいものがあるから……もしかしたら皮膚なのかもしれないが」

「どっちにしろ甲殻類の仲間ってことには違いないね」

「うえ~。あれで触覚があったらまんまゴキブリっさ」

「どっちかっていうとカマキリだと思うよカザミネ」

「どっちにしろカサカサしててぎょろぎょろ~の虫に変わりはないさ!」

意外にもどうやらカザミネは虫が駄目らしい。

……狩人にとっては致命的な弱点の気もするが。

「この森はとても寒いから無視なんていないっさ」

うお……心よまれた。

「話を戻してもよろしいでしょうか?」

コホンと一つ石田さんは咳払いをして、まだ自分の想像力と格闘をしているカザミネ以外は口を閉じて石田さんを見る。

「どうぞ」

「……仮身工場と言うと、それはやはり一心様のものということでしょうか?」

「そういうことになるな」

「……」

隣で座っていた桜の喉が少しなり、左手の拳が少し強く握られる。

当然か。強がっているとはいえ、桜は父親がしていたことを間近で見てしまったのだ。

「桜様……」

「大丈夫。続けて」

石田の心配そうな表情に桜は気丈に振る舞ってみせてはいるが……みんなに見えないところで、俺のコートの裾が雪が積もったくらいの力で握られる。

「確証はないが、あれは商業用の商品ではなく、ごくごく私的なラボの警備員と言った所か」

「警備員?」

「あぁ、しかも俺達みたいな人間が来ることを考慮してある」

「え?なんで」

「仮身を警備員に使うのなら、十体いれば十分だ。それをあれだけの数を動員して侵入者を排除しているということは……」

「確かになぁ、心配性にしてはやりすぎだなぁ」

長山はふむぅと口元を抑えてそう一言つぶやく。

「というと……どういうことでしょうか?」

「おそらく、ファントムはあの工場で作られたものだ」

「!?」

「え?」

「な~るほど」

長山だけは理解したような反応を見せるが、残りの人間(カザミネ以外)は驚いた顔をこちらに向ける。

「……なんでそんな事分かるの?か……仮身の製造権はもう石島さんのところだし、それに仮身はもうどの国でも作れるって」

「あぁ、だが。先ほどの仮身工場はこの村の人間さえも知らない完全に隔離された場所……あくまで推測だが……確かお前の父親は、一年前に石島商会に仮身の製造権を売り払い、そして三か月前に行方不明になった」

「うん」

「それは何故だ?」

「え?」

俺の不意に投げかけた質問に、桜は困ったような表情を浮かべて考え始める。

流石は世界有数の資産家……考えている最中に口から洩れる言葉の端々には経済用語だろうか?……理解不能のものが聞こえてくる。

まぁ、何を呟いているのかは分からないが、残念ながら見当はずれなんだが……。

「と、とりあえずは、売り払う理由があったって言いたいわけだね!」

「必死に考えた割には当たり前のことをいうな、桜ちゃん」

「うるさい!!」

珍しいことに、桜は長山の腹部に肘鉄を鋭角に叩き込む……誰に教わったんだろう。

「まぁ、桜の言う通りだ。俺が言いたかったのは、冬月一心が石島紹介に殆どの権利を売り渡したのは、もしかしたらファントムを作り上げるためだったのかもしれない」

「どういうことでしょうか?」

「仮身とは本来、核兵器よりもクリーンかつ人間を殺すことのみに特化した兵器と言うことで作られ、核兵器に変わる抑止力としての機能を果たしている。仮身が抑止力であり続けられるのは、仮身の力が平等だからだ」

「……あ~にゃるほど」

長山は俺の言わんとしていることがわかったようで、両手を打つ。

「え?どういうこと龍人君?」

桜は頭に疑問符を浮かべながら長山に向き直る。

それに気分を良くしたのか?長山は得意げな顔をして語り始める。

「つまり、仮身の力はみんな平等になるように作られいるからこそ、抑止力として機能するって事。

もし、仮身よりも強い仮身が作られるようになっちまったら、世界の均衡なんてもんはぶっこわちまう。まるで天秤の片方のさらに鉄の塊を乗せたみたいにな」

「ふむ……そういうことでございますか」

「ふえええええ!?」

今度は石田さんも理解したという顔をして頷き、桜は面白い表情をして慌て始める。

「ちょっと!?まだ分かんないよ!というか君たちの住んでる世界が良くわからない!?か……カザミネ!ちょっとカザミネ助けて」

「ゴッキゴッキ……ふふ、角の生えた新種のゴキブリに効く殺虫剤はなんですか?……それはニトロです」

カザミネはどうやら引き返せない程の精神汚染を味わっているらしく、桜はしばらくこう着した後にカザミネを床にそっと置く。

「で、どういうことか分からないよ龍人君!」

どうやらカザミネの事はなかったことにしたようだ。

「……つまりさ。桜ちゃんの親父さんは、仮身を超える兵器を作っていた……そしてそれが恐らくファントムっていうこと」

「……え」

一瞬、その場の空気が凍りつく……先ほどまでの明るい雰囲気は、今の一言で消え去り桜は少しだけ目を閉じて、そのあとなるほどとうなずく。

「世界相手に商売をしていたということは、逆に世界から監視をされているということ……仮身よりも危険なものを作れば、すぐに他国から圧力がかかる。そうなればまた核兵器時代前の兵器開発時代が訪れる……それを防ぐために石島商会に仮身の製造権を売り、自分は地下で新型の兵器を黙々で作ってた……ってことね?」

「あくまで推測だ……。判断基準にするのは少しばかりまだ弱いが、そう考えると合点が行く」

冷めた表情で、桜は辺りを見回す。まるで父親が作ったこの家を通して、父親を侮蔑しているかのように……。

その顔はとても寂しそうで、だけど不思議と怒りは感じ取れなかった。

「お金には困らないもんね……」

「……確かに、あのファントムが仮身の代わりになったらぞっとしないな」

長山は完治した肩の傷を一度だけなで、やれやれとため息を漏らす

「……さらに上のものを作る。科学者としてのさがって奴ね、行方不明になったのもきっとそれが原因だね、自業自得だよ……本当に」

口では父親を罵りながらも、ゆっくりと寂しそうな表情の色が濃くなっていく……。

本当は誰よりも父親を信じたくて……誰よりも愛したいのに。

しかし、真実を知れば知るほど、父親は自分を愛していなかったという現実が付きつけられていく……だから彼女は父親を少しでも悪い人間だと思いたくてそんな言葉が口を突いて出るが……自分の心を偽りきれるほど……桜は嘘が得意じゃない。

だから、彼女のそんな姿は……とても痛々しくて、俺は一度口を閉ざし、話題を変えることにした。

「まぁ、仮身の事はこれぐらいにして、問題はこれからどうするか……だ」

「あ~?今度は俺とお前の二人で乗り込んでって、あの工場ぶっ壊すに決まってんじゃん!?」

本当にあのさわやかなどや顔はいつみても殺意がわく。

くそ、指定した人間の顔に終始モザイクがかかる術式かなんか誰か開発してくれないだろうか?


相手をするのも面倒だ……放っておこう。

「石田さんはどう思う?」

「おい!俺の事は無視かよ!」

無視だ無視

「そうですね、村の付近に兵器工場があるという時点でいずれは排除が必要でしょうが、今すぐと行かなくてもいいでしょうなぁ」

「やはりそう思うか」

「なんでだよ!?さきにファントムをやっつけてやろうって言ったのお前じゃないか!?」

無視された腹いせか、まくしたてるように抗議する長山……。

「うるさい」

その顔に裏拳をかまして黙らせる。

「あだだ!?ちょ!マジ洒落になんねぇ!?」

「手負いのファントム一体だけならまだしも、ギアの起動したギアプラントを丸ごと一つ相手にすれば、俺達だって無事じゃすまない。そうなりゃゼペット達にこの場所をすぐに叩かれるだろう?」

「そんなの!やっていなきゃ分からねえじゃねえか」

駄々をこねるガキのように長山は俺に語るが、それはゼペットを甘く見ているとしか言いようがない。

「ゼペットを甘く見るな、奴の力は本物だ。それに、奴の部下、謝鈴も戦う場所が悪ければ俺も敗北する。万全の状態でも勝敗は五分……リスクが少しでもかかるなら、その作戦は捨てるのが無難だ」

「なんだよ偉そ~に、桜ちゃんを戦場に連れてくのはじゃあリスクはなかったのかよ~」

「……」

それを持ち出されると弱いな。

確かに、ジェルバニスとの戦いの際、氷狼結界を破るためとはいえ、桜を戦場に連れて行った時点で今のは説得力に欠けるな。

「ならば、多数決とまいりましょう……私と不知火様は保留に一票ずつ……桜様はいかがなさいますか?」

「私もシンくんに一票かな~」

「カザミネ様?」

「う~ん……むし~」

まだやってたのかあいつは。

「は、ノーカウントでよろしいようですね」

「三対一だ、あきらめろ」

「うなああああ!数の暴力だあああ!われわれ長山龍人連合人民解放戦線は!決して数による弾圧には屈しない!本日吉日今日この日!我々は少数派の尊重を宣言してみせるぜ!」

「三対一じゃ諦めるしかないよ、龍人君」

「だってよ、もしあの黒い仮身があそこの仮身連れて来たらどうすんのよ!?」

「その点については心配ない。仮身はあの村から外には出れない」

「なんでそんなことが分かるんだよ」

顔をむくれさせる長山は、まるで百面相を失敗したような崩れた顔をして俺を睨んでくる。

こいつの顔の筋肉はもしかしたらゴムでできているのではないだろうか。

「あの廃墟の周りに張ってあった術式は、仮身の行動を完全に停止される温度に調整されている」

「なんでわかったんだよだから!」

「帰りにちょっと桜に視てもらった」

「えへへ、なんて書いてあるかぐらいは分かるんだよ!だいたいあそこの温度はマイナス六十度……寒いわけだね」

「そりゃいいや、シャーベット食い放題」

「ガッチガチに固まってておいしくなさそう」

そういう問題ではない気がするが……。


寒いものをイメージしたからか、桜は石田に緑茶を注文し、それに続くように長山は紅茶を注文する……。

これで俺がウーロン茶でも頼めば三兄弟が完成するわけだが……まぁ、同茶葉三兄弟なんて事やって楽しい年でもないため、俺は何も注文せずに話を続ける。

「まぁつまり、あの術式は外からの侵入者を排除するもんじゃなくて、内側のものを外に出さないために作られた術式だ。つまり、ファントム以外はあの村からは外には出られない」

「むぅ」

「長山。時にはセカンドベストで手を打たなければいけない時もある」

「わーってるよ」

どこか釈然としない顔をしている長山は、すねた子供の様にふてくされて用意された紅茶にジャムを入れまくる。

ちなみに、ロシア人は紅茶にジャム……というイメージが定着しているかもしれないが、そんなことをするロシア人はいない。 もちろんのことカフェで紅茶を頼んだとしても、ジャムが入ってるわけもない。完全に日本人が作り上げたイメージなわけで。

「龍人君……甘党なんだね」

「へ?」

いい加減な知識で郷に入ればなんとやらを実践した奴は現地の人にこういう目で見られてしまう。

「熱ってかアマ!!?」

そしてあまりおいしくもない。

あれだけジャムを紅茶の中に放り込んだのだ、もはやあれは液体ではないゲル状のものとなっていることだろう。 

そんな味の想像と、むせ返り悶える長山の姿を見て、俺は身を震わせる。

「今日は踏んだり蹴ったりだね、龍人君」

「あぁ、このままいくとマジで今日中に死ぬかもしれない……」

仮身工場と言い多数決といい、今日の長山はやけに墓穴を掘る……。まぁ、あれだけいい加減で今まで墓穴を掘らなかったほうが異常なわけで、これが本来の姿と言えば姿なのだろうが……。

「ふむ、それはいけませんね……あぁ、昔こんなことを聞いた覚えがありますよ?効くかどうかはわかりませんが、まぁ試してみてください」

「なんだ?」

顎をカウンターに乗せながら長山は視線だけを送ると、石田はおもむろに長山の手を取る。

「不幸が訪れた際、私がこうやって龍人さまの手に触れると、不幸を半分請け負うことが出来るそうです。私が子供のころ親に教わったものなのですが……不思議と、心が温かくなるんですよ?これ」

……差し出された掌は、長い年月を刻み込んだかのようにしわがれており、どこか拒否が出来ないその威圧ではない温かさに、長山はあっさりと自分の右手を差出す。

その手を石田さんは小動物を扱うかのように丁寧な手つきで長山の手を両手で包むように覆い……そっと目を閉じる。

「……」

「……」

「………………はい。これで長山様の不幸は、半分私が請け負いました」

何かが起こったようにも、何も起こらなかったようにも思える数秒間の間の後、石田さんはゆっくりと瞼を開けて長山に微笑みかける。

微笑みかけた長山も、どこか毒気が抜けたような呆けた面になっていた。

「……石田さん……あんたいい人だなぁ」

天使を初めて見た人間は、きっとこんな感じに呆けて、あんなニュアンスの言葉を吐くのだろうなんて下らない考えが脳裏の端っこを掠める。

「はっはっは、龍人さまはまだまだ甘えんぼさんですねぇ」

石田は孫に話しかけるようににこやかな笑顔でそう笑うと、ゆっくりと長山の手を離す。

「……これで少しは元気が出ましたかな?」

「あぁ……多分。親ってこういうもんなんだなぁ」

長山は嬉しそうな顔をしてそう呟き、ふらふらと立ち上がって石田さんが入れ直してくれた紅茶を大人しく飲む。

「さて、これでまとまったようですね」

「ん?」

「これからの事ですよ」

「あぁ」

いきなり本題に戻るため、俺は一瞬何のことか分からずに変な声を上げてしまい、咳払いをして話の続きを始める。

「これからしばらくは、膠着状態が続く」

「シンくん、それじゃああの廃墟はどうするつもり?」

「ゼペットとの戦いが終わったら、日本支部の部隊をひきつれて殲滅する」

「……わざわざ?」

「あぁ、ロシア支部のトップを殺したのは俺だ。責任は取る」

「そうですか」

石田さんは申し訳なさそうな顔をするが、謝りはしなかった。

自分たちに突き合わせたのだから、せめて最後まで迷いがないところを見せようとしているのだろう。

確かに、ここで謝られるよりは、自分たちが正しいのだとくどくない程度に誇示してくれた方が、俺としては気が楽だ。

「ん~と……村は人形師さんたちが襲ってくるまで放っておくということは……人形師さんが襲ってくるまではみんなと一緒に過ごせるってことだよね!?」

突然、桜は閃いたかのように人差し指を立てて、そんなことを聞いてくる。

あ、こいつ何かたくらんでる。

最近気が付いたことだが、桜が満面の笑みを浮かべて耳をぴくぴくさせるときは、大抵何か自分にとってだけ楽しいことを思いついている時なのだ。

「まぁ、そういうことになるな」

しかし、そうとわかっていても嘘をつけないのが俺であるわけであり、その先には進んではいけないと言われているにも関わらず崖へと向かって更新する愚かな兵士のように、俺は桜の言葉を肯定してしまった……。

「じゃあ!」

大きく振り上げられた左手と、それにつられてふわりと舞い上がる着物のそで、それを視ながら俺はこの後……自分の発言を後悔することになる。


                      ◆


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