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第五章 大群

冬月桜を狙った六閃の斬撃は、不知火深紅のコートの裾を掠めて朽ち果てた建物を叩く。


斬撃の破壊は強大。 

朽ちた居住区跡は雪を煙のように巻き上げ視界を奪い、積もっていた雪と倒壊した建物の材木やコンクリートやらを辺り一面に散布させる。

それは雪崩に近い光景であり、私はその光景を見て驚愕のあまりに息をのむ。

もしシンくんがとっさに逃げなかったら……。

この雪の代わりに恐らく赤い雨が降っていただろう……。

そんなイメージを脳裏によぎらせ、音を立てて私の顔から音をさせて血の気が引いていく。

【ガカァ………】

音を立てて舞い上がる雪の音に混じって、金属がこすれ合うような音が響く。


それは、水中で金属を擦り合わせているような鈍く濁った音。


その音が響くと同時に私を抱く守護者の顔はゆがみ、奥歯を噛みしめるような音が耳元で聞こえる。

「あれが……仮身?」

理解しているはずなのに、私は彼に確認を取る……。

信じたくなかった……あんなものが仮身だなんて……自分の父親が、あんなものを作っていたなんて、できれば嘘であってほしかった。

「あぁ」

しかし、まぎれもなくあれは仮身だった。

その顔には目はなく、鼻もなく、耳もなければ口もない。

腕の先には手はなく、代わりに巨大な刃物が肘のつけ根あたりから伸びている。

正真正銘の化け物。

それ以外に形容しようがないほど、その存在は不自然で奇怪で……おぞましい。

自分の父親はあんなものを作り、そして彼の父親を殺したのだ……。

理解をしているつもりだったけど、再認識をして私は気分が悪くなる。

「……長山。 手筈通りに行くぞ」

こちらの様子をうかがっている仮身に対して、表情をゆがめながらも彼は戸惑うこともせず、隣の龍人君に合図を送る。

「頼むからフレンドリーファイアだけは勘弁してくれよ?」

その合図に龍人君も軽く答え、周りに剣を召喚して、臨戦態勢を取る。

「……桜を頼む」

「あぁ……任されたよ」

彼の言葉に龍人君は剣を一本引き抜きながらそう答え、同時に彼のぬくもりが私から離れていき、振り返ると彼は森の中へと姿を消していた。

「……赤い人……」

「二人とも、すこ~し下がってて~」

心配そうに声をかけるカザミネを龍人君は制止し、引き抜いた剣を回しながら笑みを零す。

その姿はどことなく楽しそうで、一瞬だけ彼の周りに……大勢の人がいるような錯覚を起こす。

「……さ~てと……。俺としてみりゃ、仮身と戦うのは初めてなんだよな~。これぞまさしく初体験ってやつ?」

仮身から放たれる殺気は獲物を狙う獣のように重く、一歩一歩近づく龍人君に向けられるも。

彼は笑顔のままそれを受け流してさらに仮身との間合いを気軽に詰めていく。

構えることも、警戒をすることもなく。

道を歩くように、抑えることもなく。ごくごく自然に敵へと向かっていく。

【が……がぎゃ!?】

仮身の一体それに対し迷うことなく長山 龍人の命を絶たせるために刃を振り上げて跳躍する。

狙いは首……戦車さえも両断するその巨大な鎌状の刃を振り上げて、上空から龍人君の首目がけてその刃を走らせ。

その刃が空中で止まる。

「……あらら、その程度なの?念のために三本でガードしてみたけど。とんだ期待外れだな」

いや、止まったわけじゃない。

首に向かって振り下ろされた仮身の一閃は、宙に浮いた剣によって防がれていたのだ。

「け……剣が浮いてるっさ?」

「浮いてるわけじゃないさ……ただ、再現してるだけだよ。この剣の主人をな」

龍人君はそう軽く笑みを零して笑い、手に持っていた刃を仮身に向かって投擲する。

「爆ぜろ!!グラム!!」

突き刺さった刃は、仮身を貫き、文字通り破裂する。

【がきゃあぁ!?】

「ふむふむ……内側から手榴弾破裂させた程度で壊れんのか。硬さもそれほどでもないっと。こんなガキに壊せちまうようじゃ、大したことねぇんだな?」

分析をするように龍人君は仮身の残骸に視線を落とし、ぶつぶつと呟きながら次の武器を引き抜く。

彼の周りには、絶えず剣が文字通り召喚されていき、地面に突き刺さる。

それはまるで剣の生える雪原。

龍人君の背後には無数の武器が刺さり、彼が歩くたびに剣が召喚されていく。

その一本一本が異なる形状を持ち、その一本一本が目が痛くなるほどの術式が掘り込まれている。

「……これが、万物」

武器を消耗品と見立てた、幾千の武器を一度に扱う戦闘スタイル。

「うし、検証終わり……遊ぼうぜ?お人形さんよ」

彼はそう笑顔を零し、また一振り剣を抜く。

【が……かかかかか!】

仮身は異常な駆動音を上げて五体同時に構えを変える。

どうやら目前の人間を、獲物ではなく敵と認識したらしい。

さらに鋭くなった殺気が彼を貫き、漏れた殺気に息が詰まる。

生物らしさの感じられない鋼鉄の殺気は……心ではなく全身を舐めまわすような違和感に近い。

【ガ……ガガガガガガガガ!】

異常なまでの駆動音をかき鳴らして、仮身は目前の英雄へ向かい走る。

一体は首をはね、一体は右腕を飛ばし、一体は足を両断し、一体は心臓を穿ち、一体は残った肉塊を切り刻む……。

五体ほぼ同時の突進は回避不可能な五か所への斬撃になり、重なるように彼へと走る。

回避も防御も不可能な連携による一撃。


しかし、そのすべてを英雄は防ぎきる。

「学習しないね、どうも」

彼は立ち尽くしたまま苦笑を漏らす。

まただ、今度は五本の剣が彼を守るように敵の攻撃を防いでいる。

まるで剣一本一本に意志があるかのように……。

「……行くぜおい!!」

自分を鼓舞するかのような怒号とともに、彼は手近にあった剣を引き抜いてそのまま目前の一体に剣を突き立て、地面へと叩きつける。

「っとぉ次々ぃ!」

悲痛な叫び声と、赤い色の潤滑油をまき散らす仮身をよそに、彼は敵を地面に縫い付けたまま、叩きつけた仮身の攻撃を防いでいた刃を引き抜く。

「すごいっさね……武器を持ち帰る度に、型も変わってるっさ……」

「どういうこと?」

「ほら、剣術っていうのは流派ってものがあって、剣が変わっても大体同じ形をしてたら戦い方ってもんは変わらないっしょ?」

「う……うん」

実際に剣術を見たことがあるわけではないが、なんとなく言おうとしていることは理解できた。

「だけど赤い人の場合、ほとんど同じ形状をした武器を持っても、戦い方がまるで別人になってるさ」

「……そうなの?」

戦っている彼に視線を戻す。

彼は今度は、少し剣幅が狭い長剣を引き抜いて、四本の刃を防いでいる。

その動きは女性のように流動し、敵の攻撃をいなしながら可憐にギリギリのラインで攻撃をすべて回避している。

「……あ」

隙を見て彼は一体の仮身の腕を切り落とし、同時に首にその剣を突き立てて次の武器を持つ。

形状は先ほどの剣と似たロングソード。

しかし。

「どぅおりゃああああ!」

今度はその剣を力の限りに振るい、仮身の刃を三本へし折った。

その戦いは全くの別人……。

まるで次々に英雄たちの魂を憑依させているかのごとく、長山 龍人は剣に合わせて戦い方を変更している。

「……すべての武器を扱いこなせるんじゃなくて、すべての武器の主人になる」

それは術式でもなんでもない、彼自身の特殊能力。

彼は英雄を完璧に模倣することが出来るのだ。

だから万物。 全てのものに所有者と言うものがいるように……その武器にあった最適の所有者を完璧に模倣することで、常に剣の力を百パーセント引き出すことが出来る。

「おっしまい!」

最後に引き抜いた槍で仮身の心臓を貫き、龍人君は右手を振る。

「……」

今までの剣の雪原が嘘のように、一斉に剣が塵のように消える。

「……お怪我はないですか?お嬢さん方?」

「す……すごいんさね赤い人!見直したっさ!」

「あっははは、これぐらいもう楽勝だぜ。たとえ何匹出てこようが問題ないない♪」

あれだけの兵器を相手にして、龍人君は息一つ乱さずにこちらに来て笑いかけてくる。

が……。

「龍人君……それが冗談じゃないとありがたいんだけど……」

「え?」

背後に立ち並ぶ無数の影……いったいどこから現れたのかは分からないけど……その仮身達は、まるで軍隊の行進のようにこちらへと走る。

数えることなどできそうにもない……。数は百を優に超え、次第にこちらへと押し寄せてくる。

「っつ……こりゃ少しきついかも」

龍人君はそう呟いて私たちの方を見る。

あれだけの数を相手にしながら私たちを守るのは……確かにきつい。

かといって逃げることはもはや不可能

龍人君はともかく、私たちを連れて逃げることは出来ない。

「あれ全部壊すのか……」

龍人君は顔をひきつらせてそう笑い、もう一度剣を召喚する。

【ガカカ……】

「桜ちゃん、カザミネちゃん!伏せてろよ!」

走りよる仮身は飛び上がり、上空と地上から龍人君を狙う……数は先ほどの倍……

そして後続にはさらに倍の数が走ってくる。

明らかに剣は足りない……。

「おっらああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

しかし、赤い英雄はあきらめることなく敵を迎撃する。

が。

「……え?」




龍人君が敵を迎撃するよりも早く、仮身が龍人君を捉えるよりも早く、私たちのすぐ横をすり抜けた閃光が六体の仮身を打ち抜き粉砕する。

「え!?」

一体どこから射撃をしたのだろうか。

背後の森を視認してみても、当然のように暗殺者の姿を捉えることは出来ず、私やカザミネを横切って寸分の狂いなく敵の身を穿つ。


次々に降り注ぐ銃弾はまさに雨。

時雨に近く、拭うこともない弾幕は、押し寄せる仮身の行進を文字通り停止させる。

「いったいどこから……」

眼を開き、閃光が走る元をたどる。


居た。

距離にして約三キロ……構えているのは少しだけ長いJという文字が入ったスナイパーライフル。

孤独に影に徹し、機械のように引き金を引き敵を撃つ。

その姿はまさに暗殺者……。

木々生い茂る森の中、寸分の狂いなく敵を打ち抜いていくその姿に、私は顔のない英雄を思い出す。

「ったく、遅ぇんだよあのスカシ野郎」

シモヘイヘのつもりかと龍人君は苦笑をして、武器をしまう。

「赤い人?」

「悪いが桜ちゃん。撤退だ……二人でこいつらを相手にするんじゃ、人を守りながらだときつすぎるあいつもそんなに弾は持ってきてなかったし」

紅い英雄はため息交じりにそう笑い、私の肩を叩いて森の中に戻る。

「……うん。分かった」

シンくんが仮身を食い止めてる最中、私は一度だけ背後の仮身を振り返る。

……父が作ったおぞましい兵器。

その罪をしっかりと目に焼き付け、私たちは村を後にした。



                  

                     ◆


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