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第五章 お嬢様はミリタリーがお好き

「……と言うわけで、カザミネの情報から、この放浪の森の北のはずれに、ファントムがいると判明した」

「放浪の森の北ですか……」

「なるほどねぇ、ここよりも北になるとツンドラ地帯になっちゃうからね。そのせいで気づかなかったんだろうね」

「っかしいなぁ、一応北の森も調べたはずなんだけどなぁ」

驚きの声が談話室に集まったみんなからこぼれ、カザミネはそれに対して調子よくかしずく。

「……まぁ、結構入り組んだところにあるから、気づかなくても当然だねぇ。私だってあそこ見つけたの数年前だもん」

カザミネは自慢げに鼻高々と胸を張るが、俺はそれを無視して話を続ける。

「さて、敵の居場所が分かれば後は攻め入るだけだ。

相手の木津はもう半分ほど癒えているだろうが、万全の状態で攻め入られるよりかはまだましだ」

「危険承知で乗り込むわけね」

「あぁ、何が起こるか分からない。だが今ここでファントムを葬れれば、残りの二週間、ゼペットを退けることのみに集中できる」

「ひゅう。燃えるじゃねえか」

「恐らくあそこは敵の本拠地だ……罠が張ってあるかもしれない。乗り込む前に、俺は物理トラップを、桜には術式によるトラップ解除に専念する。安全を確認したら、長山。

お前が潜入してファントムを叩け」

「ん?俺?」

どうやら自分があてられるとは思っていなかったらしく、椅子に座ったまま長山は背伸びをしてこちらを見る。

「俺はまだ万全じゃないし、奴のスタイルは格闘なんだろ?なら、お前がひきつけているところを俺が援護射撃する。お前が叩け。決行は今夜だ」

「珍しいな、お前が俺を頼るなんてよ」

「そうか?」

べつにあくまで成功率を上げるための作戦なのだが、まぁあいつも嬉しそうだから放っておこう。

「……タヨリニシテルヨ」

「なんで片言なんだよ!?」

「くっ……あはは……あはははは」

「桜様……」

「全部!」

もうおなじみのこのフレーズに、俺は一度ため息をつき、カウンターに置いてあったグラスを取って口に含む。

「楽しそうだね、君たちは」

「見てる分にはな……」

                      ◆










「シンくん」

援護射撃用のYが少し長いスナイパーライフルの手入れをしていると、ふと桜が

屋上に現れ、声をかける。

「何かようか?桜」

「うん……ちょっとね」

とことこと寒い中を歩きながら、桜は悩んだような表情を浮かべて俺の前にくると。

「お話があるの」

改まってそんなことを言ってくる。

「どうした?」

「……私のこと」

「?」

「私の寿命の話」

「! どうした?いきなり」

今まで、できるだけ触れてこなかった、桜の寿命の話を、桜本人が語ったことに少しばかり驚きを覚えながら聞き返すと、桜は一度うなずいて……。

「私って、本当に死んじゃうのかな?」

そんなことを言ってきた。

「…………よく分からないが、石田さんによるとそうらしい」

「そっか。分からないか、そうだよね、私もわかんないもん。ぜんぜん体の具合も悪くないし、それなのに二週間後に死んじゃうことだけは分かってて……変な感じ」

「……桜」

俺は、先日長山と話した会話の内容を脳裏によぎらせるが、すんでのところで飲み込む。推測だけで桜に変なことを吹き込むことはよくない。

「もしかしたら、生きていられるかもって、時々思っちゃうの。 でも、そう思うと、いつも後悔する。現実はそんなに甘くないって事は……本当は知ってるから」

「……死ぬのが怖いのか?」

「ううん……って言ったら嘘になるかな……未練はできるだけ無いようにしてるんだけど……やっぱり君や龍人君と離れるのは辛いな……だめだよね私、いまだに受け入れられないんだもん」

苦笑する桜の表情はいつもの明るい笑顔ではなく、かげりのある悲しい顔。

「そんなことはない」

そんな顔に、俺はつい反射的に反論をしてしまった。

「え?」

「誰だって死ぬのは怖い。それを恐れないことは命を軽視することだ……一寸の虫にも五分の魂というように……命に貴賎は無い……死を恐れることは当然のことだ、それだけの価値が……誰の命にもある」

「シンクン……」

「だから、せめてお前が満足していけるように……少しでも怖くないようにここにいよう。そして少しでも助かる可能性があるなら……最後まであきらめずに戦おう……俺の任務は、お前の最後を看取ることだからな」

「……えへへ。ありがとう」

桜はうれしそうにそう笑い、隣に座る。

「寒いぞ?」

「いいの。私もお手伝いするね」

言うと、桜はこなれた手つきでマガジンに弾をこめ始める。

「誰かに教わったのか?」

「うん、小さいころ、ボディーガードの人が教えてくれたの……といっても、私が無理やり教えさせたんだけどね」

てへ。なんてはにかみながら、桜は長山とは比べ物にならない速度でマガジンを完成させる。

「……早いな」

「単純作業だからだよ」

その言葉、長山に聞かせてやりたいくらいだ。

「他にはどれくらい銃の扱いには長けてるんだ?」

「えーと……銃の扱いについてはこの前の雪合戦のときに分かってると思うけど……昔はよくたまの入ってない銃をおもちゃにしてたから……難しくないものなら分解くらいはできるかと……。

「……ふむ」

俺はふと気になり、クローバーをマガジンを取り除いて渡してみる。

これ、扱えるか?

「……え? ま……まぁ」

桜は二三度クローバーを見回し、かちゃかちゃと丁寧な手つきでクローバーをいじり、二分ほどで分解……そして一分で組み立てを完成させた。

「……すごいな」

「本当?」

クローバーはその構造上組み立てるのにある程度の訓練を要する。

それをたやすく扱うとは……思っていたよりも桜はミリタリー方面に興味があるようだ。

ということは、ヘッドショットをしようとする癖を直してエイムを覚えれば立派な狙撃主が生まれるということか。

まぁ、相手が調律師の時点で一般の銃の狙撃は無意味であり、俺は持っていたクローバーを返却してもらい、ちょっとしたその案件を無効にする。

しかし。

「なぁ桜」

「なぁに?」

「……そんなに銃が好きなら、射撃の練習に付き合ってもいいぞ?」

「え?」

今までは危なっかしくて渡してなかったが、十分扱えそうだ……だから、ファントムたちと戦えるような射撃は教えないが、まぁ、遊び程度なら喜んで教えよう。

「シンクン…… うん!!」


桜は楽しそうに笑い、マガジンを放り投げて俺の肩に後ろから顎を乗せてSVDの分解を興味深く見ている。

すっかり見入ってしまって気づいていないようだが、見ようによっては後ろから抱き着いている様にも見えなくもなく、俺はそれを教えようか教えまいかを跳ね上がる心拍数を抑えながら考え、できるだけ平静を保ちながらルーチンワークにいそしむ。

「……ねぇシンくん」

「何だ?桜」

「……どうしてスナイパーライフルって銃身が長いの?」

「何だって? お前そんなことも知らないのか?」

「うん。だって見せてはくれるけど誰も丁寧には教えてくれないんだもん。武器の本も買い占めようかと思ったけど石田がだめだって言うし」

……そうして大喧嘩をしている桜と石田の様子がはっきりと見て取れて、俺はやれやれとため息をつく。

「いいか、銃ってのは……」

目を輝かせる桜を相手に、俺は銃の知識をひけらかすわけではないが教える。

一つ教えるたびに、じゃあこれは?他には?と促してくる桜はまるで、父親に甘える子どものようで……どこか、寂しいものを感じさせる。

本当はこんな風に父親に甘えたかったのだろうな……そう感じて、俺はできる限り長く続くように話をゆっくり、絵本を朗読するかのように桜に伝える。

結局、桜の好奇心を満たすよりも先に遠征の準備は整ってしまい。

それだというのに桜の質問攻めは終わる気配は感じられず。

日が暮長山から呼び出しがかかるまで俺は桜に銃の取り扱い方を教える羽目になったのだった。


                   ■


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