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第五章 森に潜むもの

「さて、ファントムを探すと言ったものの、どこを探すか」

俺は雪月花村の市場で、長山に頼まれた雑誌を購入しながら低く唸る。

「あんちゃん?何をそんなに悩んでるんだい?」

どうやら俺の様子が相当深く悩んでいるように見えたらしく、店のおじさんは心配そうに釣銭を渡しながら問う。

「ん~……あぁ、別に悩んでいるわけじゃないが……おっさん。この近辺で隠れられそうなところがあるか?」

「あ~、あんさん桜様とかくれんぼしてたのか。そうさなぁ、古い教会なら知ってるんだが」

「いや、そこにはいなかった」

「ん~、さぁなあ俺村からあんまりでねーからなぁ。すまんアンちゃん。分からんわ」

「そうか、すまない。変なことを聞いて」

俺は財布に小銭をしまい、部屋を後にする。

「……村の人間も知らないか」

こうなると虱潰しに探すしかないのかもしれないが……しかしそれだと時間がかかりすぎる。

この森は広大だ……さらに北に進み過ぎるとツンドラの地域になってしまう。

「はぁ……とりあえず森を探してみよう」

俺はコートの内ポケットに雑誌をしまい、大通りを抜けて森の入口までやってくる。

相変わらず威厳を放つ入口の大木。

ここに建つとどうしても見上げてしまう。

それだけこの日本の木は言葉で表現しづらい迫力があった。

「さて、探すか」

村近辺じゃ多分もう見つからないだろうから、今日は中立の森の奥を探索しよう。

そう決心し、俺は森の中へ足を一歩踏み入れると。

「シ~~ンく~~ん♪」

背後からいきなり飛びかかる気配を感じ、とっさに回避行動をとる。

「ってあれええ!?」

飛びかかってきたそれは回避されるとは思わなかったのだろう。 素っ頓狂な声を上げて。

「わぶうう!?」

綺麗に顔面から雪に突っ込んだ。

「……か、カザミネ?」

「ピンポ~ン♪大正解!」

長い緑髪を雪だらけにしながら、カザミネは楽しそうにそう答える。

雪に顔面から突っ込んで何型のいいのか。カザミネは頭の上の雪をはらいながら俺に寄ってくる。

「呼ばれて飛び出てカザミネっさ!」

「呼んでないが……どうしたんだ一体?」

「どうしたって?君の姿が見えたから挨拶をしよとしたのさ!変な話さよね、同じ家に住んでるのに、あんまり顔も合わせることもないんだから」

こんなあいさつを毎回人にやってるんなら、ここに住む人間の体は鋼鉄でできてるんだろうな。

「おい……鼻」

「鼻?」

「雪がまだ取れてないぞ?」

「ありゃりゃ?ありがとうっさ、シンくん」

カザミネは鼻についた雪を払い、犬のように身震いをして雪を辺りに飛ばす。

「ふっか~つ!」

本当に変な奴だよ。

「怪我は?」

「ん~、一応擦り傷が一つ二つ。まぁ、これくらいつば付けとけばなおるっさ」

「……まったく、自分から突っ込んで怪我するなんて、本当にお前らしいな。

ほら、見せてみろ」

「わっ!?ちょっ!いいってば!」

「クーラ」

簡単な治癒術式を、俺はカザミネの腕に触れて発動する。

本来は大きな傷を一時的に隠す術式だが、この程度の怪我ならすぐに治る。

「ほら、終わったぞ」

「あ、うん。ありがとう」

カザミネは珍しそうに自分の腕を眺めている。

まぁ、術式を知らない人間には魔法のように見えるのも当然か。

「まったく…何か用事があるんだろ?カザミネ」

「あ~うん。少し困ったことがあってね、君に相談しようと思ってたんだよ。本当は昨日言うはずだったんだけどね、君に追い出されちゃったから」

誰のせいだ。

「ったく……で?その困ったことってなんだ?」

「放浪の森の近くに、動物たちが寄り付かなくなったっさ……多分、エサが足りなくて南下してきた肉食動物が、奥にある廃墟に住み着いちゃったせいだと思うんさけど、私だけじゃ多分おっつかないから、力を貸してくんないかな?」

「なんで肉食動物だってわかったんだ?」

「え~、だって森全体に嗅いだことのない獣の臭いがするから」

「お前の嗅覚は犬並みか?」

最終的には足で頭を掻き始めそうだ。

「ふっふ~ん、私は狩人だよ?それぐらい分からなきゃやってられないさ!」

偉そうに胸を張るカザミネだったが、その嗅覚は今回は外れのようだ。

「悪いが、その臭いは俺が張った罠に染み込ませておいた狼の臭いだ」

「なんですと!?」

「多分森の動物たちが近づかなくなったのは、そのせいなんじゃないか?」

「なんてことしてくれたさ!?そんなことされたら、私の商売あがったりっさ!」

「それはすまないと思っている。だが、石田さんから森に近づかないようにって言われてるはずだが?」

「しらないさ、私村のはずれに住んでるからね!それにそんなの聞いてたまるかい!」

予想外だった。村人は言語で、動物は天敵の臭いで森に近づかなくできたが、カザミネと言う珍種の生物の事までは考慮に入れるのを忘れていた。

「……今何か君すご~い失礼なこと考えなかったかい?」

「別に」

「別に私だって、嫌がらせとか自分勝手で森に入ってるわけじゃないさ!私は森に生きてるの。だから森に入れないと死んじゃうんさよ!そう、例えるならば森の妖精! ほら、こうしている間にも森が、私を呼んでいるううう!」

「そーかい。だったらそのまま獅子神にでもなっていろ」

やれやれと首を振り……俺はカザミネのセリフをもう一度思い出す。

「ん?……カザミネ。放浪の森に、廃墟なんてあるのか?」

「まぁね~。最近あそこらへんが一番動物達が警戒してるからね~。あそこになんかが住みついてんのかと思ったけどなんか外れみたいだね~」

石田さんや桜や、村人よりも森に詳しい人間。

「カザミネ……その場所の事を詳しく教えてくれないか?」

                  ◆


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