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第五章 ただし十ドルである


12月7日

「……なぁ深紅。桜ちゃんと何かあったのか?」

「な!?」

先日、戦いがあったなどということが嘘のように明るく活気のある雪月花村の中を歩いている最中。長山は唐突にそんなことを口に出した。

「何の話だ?」

「いや~、何と言うか、桜ちゃんのお前を見る目が……友達以上っつーか。

なんか変わったんだよな?」

「いつ?」

「今朝だよ。朝食の時!いつもならお前がいると、桜ちゃんお前にめっちゃ話しかけてお前がそれをことごとく無視してたのに、今日は一切話しかけてこなかっただろ?」

「具合でも悪かったんだろ?」

「いんや違うね。どことなくいつもより顔の表情を緩めてお前を見て……それでも直視したくなさそうだった!」

……何やら支離滅裂で矛盾していることを言っているが。

まぁ、その理由は大体わかる。

いくら何もできなかったからとはいえ……今朝の俺はどうかしていた。

「……心当たりあんの?深紅」

「ない。 そんな事より、お前は怪我とかしてないのか?昨日の戦いで」

「なんかさぁ、相性良かったみたいで、腕の腱を伸ばした程度で終わったよ。お前こそボロボロみてぇだけど……そんなんで後二週間持つのかい?」

「余計なお世話だ」

長山の心配に俺はぶっきらぼうにそう答え、目的の場所へと向かう。

雪月花の中でも他の町から取り寄せた商品を扱う店が並ぶ、東の商店街。

とりあえず俺は、石田さんに頼まれた買い出しのメモをポケットから取り出して開く。

「何々……豚肉五百グラムに、キャベツ。人参……そして……コーラ五ダース……」

「桜ちゃんのコーラの一日の摂取量って……」

長山もさすがに引いたらしい。

五ダースって……しかもこれ買いだめではなく二週間で桜が全部飲むのだ。

「あいつ、血液の代わりにコーラが血管流れてるんじゃないか?」

「ははっ……笑えないっすよ、深紅」

顔に斜線を入れて、俺と長山がメモ帳とにらめっこをしていると。

「おや?不知火さん、長山さん?奇遇ですねぇ」

骨董品と書かれた店の中から、ジハードが手を振りながら現れた。

「あれー?ジーさんじゃん。なんかお前と会うの久しぶりじゃね?」

「こんなところで何してたんだ?」

「気になりますか?」

聞くと、ジハードは嬉しそうに満面の笑みをこちらに向けて。

「じゃじゃーん!」

変な壺みたいなものを袋から取り出して見せる。

「なんだこれ?」

形も歪なら色も醜悪、しかも裏に値段まで書いてある……。

俺だったら絶対に買わないな。

「なんとこれ!ナポレオンが愛用していた壺みたいでですね!なんと、ドル換算でたったの千ドルで売ってくれたんです!!」

それは変だな、壺の裏に書いてある数字どう見ても十ドルにしか見えないが。

「へ~そうか!確かにこの湾曲具合で容量がほとんど無いところとか見てみると、まさに本末転倒だ!」

使い方間違ってる……いや、間違ってはないけど会話の流れ的には間違ってる。

「そうですか!やっぱりそう思います!?」

「おうともさ、天上天下を支配できそうな勢いがひしひしと伝わってくるよな~」

しかし十ドルである。

「ですよね~!長山さん!骨董品を見る目あるんじゃないですか?」

「あったりまえだろ!?俺を誰だと思ってやがる!世界中全時代の武器の事なら何でもござれな考古学者だぜ!?」

しかし、十ドルである。

「へ~、じゃあこの壺の名前とかも分かるんですか!」

「あぁ、これはゴンザレスって種類のツボでな、創作方法が特殊で、形を形成する際に思いっきり上空から叩きおとすんだ。まさに竜巻みたいにな!」

要するに作ってる最中に落としたということだな。

「た……竜巻!?」

「そう、そんでもって、その方法を編み出した人物がゴンザレスって奴だから、ゴンザレスって名前が壺にもつけられた……だけどな、このゴンザレス。この湾曲具合を作り出すのにかなり苦労したみたいで、ゴンザレス以外の人間が作ることは出来ないんだ」

「まじでか!?」

おい、ゴンザレスってお前がこの前やってたゲームのキャラの名前じゃねえか

「そう、いままで作られたゴンザレスは初号機から四号機までの四つのみ」

おい、いつからその壺は大戦兵器になった。

「じゃ……じゃあこの壺は!?」

「そう、それは二号機だ」

「うっひゃああああああああああああああああ!すごい掘り出しもんじゃないですか!?

ししし、失礼ですが、値段の方はどれくらいになるんでしょうか?」

「聞いて驚くな? いまなら恐らく、二億ドルはくだらない!」

ただし十ドルである。

「にににんいににん!?二億ドルううう!?」

しかし、十ドルである。

「あぁ、だから今すぐに安全な場所に保管しておかないといけないと思うぞ」

「そおそそ!そうですね、あ、ありがとうございました長山さん!」

「あぁ、気をつけろよ~」

まるで繋がれていた犬が解き放たれたかのようにジハードは走りだし、長山はその影が見えなくなると同時に腹を抱えて笑い始めた。

「お前、ゴンザレスってこの前やってたゲームのキャラの名前じゃないか」

「あれ?ばれたぁ?」

やはりからかっていたのか……。

「……お前、最低だな」

                   ◆


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