第四章 守る理由
「……う~」
桜はベッドの上でまだうなっている。
「……頼むから寿命が縮まるなんてことはやめてくれよ?」
「多分……それは大丈夫」
「はぁ」
俺は桜の隣に用意した椅子に腰を掛け、背もたれに体重を預けて足を組む。
「シンくん……」
「なんだ?」
「……一つだけ……聞いていいかな?」
「さっきの長山の説明の解説なら不可能だぞ?」
「ううん……そうじゃなくて、私が聞きたいのは、シンくんが私を守ってくれる理由。まだ聞いてなかったから、あれだけ守ることは悪だっていってたのに、守ってくれるようになったのには何か理由があるんでしょ?」
仰向けの体を半分こちらに向けて、桜は少し微笑んでそう聞いてくる。
「……言う必要があるのか?」
「うん。あるよ」
「むっ……」
「クライアントとしては、君のお腹の内を知っておかないと、安心して護衛を任せられないしね」
「むむ………」
こいつ、知恵熱出して少し頭が良くなったんじゃないのか?
「さ、教えて教えて」
先ほどまでうなっていたのが嘘のように、桜は興味津々でこちらに迫ってくる。
どうやら覚悟を決めなければいけないらしく。
「……お前を死なせたくない」
一息おいて桜に伝える。
「え?」
桜は驚いたような顔をして、こちらを見ている。
だけど、残念ながらそれ以上の理由は持ち合わせていない。
「特に理由なんてない。それについさっき考えをまとめたばかりだ。よくわからないが、お前だって友達を助けるのに理由なんてないだろ?それと同じだ」
そう、俺とこいつは友達で、友人を守ることに理由はいらない。
それにこいつの命はもう、こいつ一人の物ではなく、こいつが死ぬことによって、この村だけではなく戦争の引き金になるかも知れないのだ……。守ることになんのおかしなところもない
「ふ~ん。だったら、私もシンくんを守ってもいいってことだよね?」
「……どういうことだ?」
「明日の戦い。私も戦う」
「!桜」
「私の為に友達が戦ってるのに!自分一人だけ安全な場所に隠れているなんてできない!命を懸けてあなた達が私を友人として守ってくれるなら!私にできることは!君たちの戦いを見届けることだけなの!」
「しかし……」
「私にはこの眼がある!シンくんの役に立ちたいの!」
「……」
俺は桜の眼を見る……。 その眼は、覚悟を決めた瞳。
余命一ヶ月でありながらも、最後の一瞬まで当主であり続けることを望んだ少女にとって、この村と運命を共にすること……それが彼女が選んだ道なのだ。
それだけの覚悟を前にして俺は……。
「足手まといにはならないよ!だから」
「……一つだけ条件がある」
「え?」
「絶対に死ぬな。たとえ俺が死んでもだ」
「……………!はい!」
桜は満面の笑みを浮かべて、ベッドに横になる。
「ありがとう。シンくん」
まったく、戦場に連れて行かれるのにありがとうとは……本当に桜は変な奴だ。
「あぁ……早く寝ろ」
「うん。お休み」
桜はそういうと、まるでスイッチをオフにしたかのように早く目を閉じて、寝息を立て始める。
「……さて」
俺も少し寝てしまおう。 熟睡とはいかなくても、体を横にして仮眠をとらないと、ジェルバニスとの戦いに支障が生まれてしまう。
「……部屋に戻るか」
桜を起こさないように立ち上がり、そっと部屋のドアを開けて外に出て、今まで一度も使ったことのない隣の部屋にはいり、ゆっくりとそのドアを閉めた。
銀狼との決戦。
吹き荒れる雪月花の森。
弱きものの盾となるべき男と、決して救われぬ正義の味方。
互いに守る者は正しく、それは相容れることのない悲しき正しさであり、それを知ることも理解することもなく物語は歯車をかみ合わせ……シナリオ通りに進んでいく。




