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第四章 狙撃と迎撃

「!!!!」

全身に走る悪寒。


同時に桜の手を反射的に引き寄せる。

「え?」

「俺から離れるな!」

戸惑う桜をよそに、俺はクローバーを引き抜き身構える。


「がk;あjmvdげ」

文字通り世界が湾曲をはじめる。 

広場の風景はそのままに、周りの世界がまるで飴細工のように伸縮していく。

それはまるで、この広場以外がすべて幻だったかのように。

「いや違う」

逆だ。 この広場が、俺達を食っているんだ。

世界が伸縮しているのではなく世界が侵蝕されているのだ。

発生は足元から。

足元から広がる空間が俺達の周りの空間を侵蝕していき、包み込むように俺達を現実から隔絶していく。

そして、床にばら撒かれた水が凍結するかのように、音を立てて侵蝕されていく町の上から色調の反転した町が上書きされていき、ものの一分で色調の反転した世界に俺達は隔離された。

「なに……これ」

桜の表情が一瞬で凍りつく。

初めて見る大魔導レベルの術式に、この反応だけで済むというのは術式の説明をしておいたのは正解だった。

「太極図の術式か」

その空間に入った対象物を、他空間に隔離する設置型術式。術式を敷いた場所は、現実空間の中でありながら最大半径二キロにわたって他空間を映し出すことができ、そこに足を踏み入れたものをそのうつしだされた空間ごと異空間へと転送する捕縛用結界。

まさか敵がここまでの大魔導術式を用意していたとは……認識が甘かった。

「不覚」

十二時の鐘がならなかったときに、すぐに気が付くべきだった。

っくそ。護衛のくせに気が抜けていた……。

「シンくん。これ、すこしまずいんじゃない?」

桜もここの異常さを肌で感じていたらしく、冷や汗を垂らしながらこちらを見る。

「そうだな……」

自分の愚かさを呪いながら、俺は身構える。

俺達をこの開けた場所で隔離したのなら……次に相手が切るカードは……。

「!」

狙撃しかない!

「っ!」

後頭部を狙い走る銃弾を視認する。

紫色に光る其は球体の弾。 銃弾よりも早く、ライフルよりも正確に狙いを定めたそれは、まるで獲物を狙うジャッカルのごとき速度で空を走る。



弾丸ではなく限定術式。 実態のない呪いに似たその力は恐らくクローバーも、術式による対物障壁も貫通する。

ならば。

それを回避するならばこちらはその限定術式を上回る神秘で、其を一つ一つ迎撃するしかない。

つまり、クローバーでは回避も迎撃も不可能であった。

                   ◆

走る魔弾は視認することなどかなわない程の速力で、私の頭部を狙い走る。

直感でわかる。 これは防ぎようがない一撃だと。

紫色に光る直線は点。 心臓が止まったように感じ、私は死を覚悟する。

しかし。


「安心しろ……お前は、俺が守る」


彼は……黒き守護者は、その魔弾を直視して迎撃態勢を取る。

その手には一振りの刃。 空間を裂いて現れたその銀色に輝く刃は、見間違えることの無き片刃の沿った刀身に、美しさを超えて芸術に近い波紋を有し、思わず呼吸を忘れる。

そう、この世に存在する刃物の中で、最も優れていると謳われる武器がそこにはあった。

「っはあああああああああああああああああああああああああ!」

怒号とともに守護者は刃を振りぬく。


音を立てて金属音が響き、空気を振動させながら魔弾を彼は迎撃した。

鞘から引き抜いた太刀による、下段から渾身の力を込めて放つ切り上げ。

速度はほぼ互角。 

激突した両者は互いに意味の剥奪を開始し、双方の射撃と斬撃は、鋭さで勝る斬撃に軍配が上がる。


魔弾はそれてセピア色の住宅街が倒壊する。あの小さな質量に、どれだけの威力が込められているのか……私は想像しただけで身震いをする。

「シンくん!」

「話は後だ!伏せろ!」


次弾は側面からの一撃。 速度は増され、彼はそれに即座に反応してもう一度それを打ち上げる。

「っち」

再び響く轟音はさらに破壊力をまし、術式で構成された町を次々に倒壊させていく。

私でも理解できた。 今の一撃は、先の一撃をはるかに超える破壊力。

「はぁ……はぁ……はぁ」

彼の息は上がっている。 

触れても、近くに弾き返しても死は免れない。

それほどあの一撃は重い。

彼の迎撃可能回数はあと何回だろうか?

いや、いくらもったにしても。狙撃位置が毎度違う視認できない敵を、

見つけることはいかに彼でも不可能だ。

「……桜。 ここの町で一番見晴らしが良くて、狙撃にうってつけの場所はどこだ……」

そんな絶望感を抱いていると、不意にシンくんはそう私に問いかける

「え?なんで?」

「空間隔離系の術式を展開する際には、術者も必ず異空間に身を置かなければならない。

つまり、俺達を隔離している魔弾の射手は、この町のどこかにいるはずだ」

そこまで言って、彼は一閃を放つ。

三度目の射撃は私の後頭部。

迎撃した刃と魔弾が放つ振動は今までの比ではなく、爆発にも似た衝撃で、時計台が倒れ、

広場に積もった雪が粉塵のように空を舞う。

「……っくぁ!?」

苦悶の表情を浮かべる彼。

見るとその腕からは血が滴っている。

「シンくん!?」

「気にするな……それよりもどこかないのか?」

ここにきて私はようやく理解する。

これは、そういう戦いだ。 こちらが発見するのが早いか、こちらの限界が来るほうが早いか……。

恐らく次弾で決着がつく。 

「……」

振るえと焦りを抑え、私は全神経を思考に集中させ……。

………閃く。

「……センタービル」

どこよりも高く、この町を一望できる場所……。

「!それだ!」

彼はその言葉に目を見開き、 センタービルの方向に銃を構える。

一秒……二秒……三秒。

「………捉えた!」

距離にして八キロは離れた距離、しかし、その死神の瞳は、たやすく目標を視認する。

その一言に勝利を確信する。 敵の銃弾が魔弾なら、彼の銃弾は鬼弾。

外れることは無き彼の腕と銃弾の速度は、確実に襲撃者の命を絶つ。



そう思考した瞬間。

「え?」

わたしは侵食した世界に空いた黒い穴から延びる手に……引きずり込まれていく。

「ひ!?きゃぁ!?」

「!?桜!」

伸ばされた手を取ろうとするが間に合わず、指先だけ触れて私は完全に手にのまれ、



同時に私はいきなり宙に投げ出される。

「っきゃあ!?」

車にはねられたかのような衝撃を受けながら、私は地面に背中から落ちる。

幸い、雪が多く積もっていたために大した痛みはなかったが、雪の冷たさに手の感覚が一瞬にして消える。

「ったたた……ここは、外?」

「ほう……まさかこんな所に現れるとは予想外だったが。まぁいい。好都合だ」

背筋が凍る。 聞いたことのある声、その低く透き通った声と、ナイフのように尖った殺気に振り返る。

「っ!?」

黒髪の挑発にヒスイ色の瞳……。

そこには、ジェルバニス ラスプーチンが立っていた。

手には銀色に光るナイフを持ち、肩には先日負った傷が生々しく残っている。

そうか、さっきのは全部彼の仕業だったのだ。

「……あなたの仕業だったのね」

「さぁな」

冷淡な声。 氷の世界を凍てつかせるほどの冷たさと殺気が町を覆う。

全身が告げる。 

逃げなきゃ。 立ち上がって逃げなきゃ。

立ち上がって走らなきゃ殺される。

「あれ?」

だけど動かない。すくむとか腰が抜けるとかそういう次元ではない。

元から、そんな行為を記録していなかったかのように、脳に異常をきたしている。

「やだ……なんで?動いてよ……」

それはまさに、蛇に睨まれたカエル。

どれだけあがいても、どれだけ自分の足を叩いても、脳が動くことを忘れている。

心では行きたくても、頭は既に活動を停止している。

「……恨みはない。だが、未来を守るためだ」

ジェルバニスはそう言ってナイフを構え。

「死ね!」

「シンくん!!」

振り下ろす。

                     ◆


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