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プロローグ4 

東京の闇の中を走りながら、私は主の下へと急ぐ。

本来ならばこれだけ乗り捨てられた車が道路に放置されている道で走ることは普通の人間ならば数秒でクラッシュしてしまうデスコースだが、なに、先ほどは三倍の速度でここを通ったのだ、別段障害物に気をとられること無く道路を走る。

ここまでやってきた私だが、先ほどのSAT以外に私を追跡する人間はおらず、検問を強いていた部隊と鉢合わせることも無かった。

ロストポジションから離れるために迂回したのもあるのだろうが、恐らく東京から脱出した私が再度東京に向かっているとは誰も思わなかったのだろう。

そのため、辺りに響くのはこの車の音のみ。

それだけでも十分奇妙だと言うのに、完全に機能を停止した東京は、上空に星まで出ている。

その空間はまさに異界であった。

「しかし悪くない。終わったら少し主と散歩でもしようか」

暗闇で二人、星を見ながら……ドライブ。

「!??これはもしかしてもしかしなくても最高のシチュエーションなのではないか!?」

車を走らせながら、私はにやけながら夜の道を走る。

もちろん、主を心配するなんてことはない。

普段はいい加減にふらっかふらっかしている主だが、相手が仮身ならば負けることも傷をつけることも不可能だ。

何故なら主は、私達を統べる王なのだから。

だから心配など必要ないのだが、なぜか私の胸のうちにあるもやもやした感覚は取り除かれることは無かった。

「……ついたみたいだな」

目を凝らすと、闇の先に大きな穴が見える。主が空けた大穴だ。

改めてみると本当にデカイ……コレを修復するのに一体どれだけの術式が必要なのか知っているのだろうか?


知らないだろうなぁ……。

「ん?」

ため息をつきながら大穴に近づくにつれて、私は違和感を覚える。

仮身が外に漏れないように配置していた部下達が……。

我が主が率いる組織、ROD 『リベリオン オブ ドールズ』の殲滅部隊の姿がない。

「……まさか」

不安がよぎる……有り得ないと分かっていながら、私は胸の内の塊の重さが重量をさらに増す感触を覚え。

「っ」

アクセルを全開にし、大穴の入り口へと愛車を走らせる。

闇の所為でぼけている大穴が開けても、やはり部隊の姿は見当たらない。

部隊の人間達が主の命令に背くということは万が一にも有り得ず、

そんな彼女達の姿が無いということは……つまり仮身が外に漏れ出したということ。

「まさか……」

気が焦り、バイクのハンドルを握る手に汗が滲み、バイクのライトが大穴の入り口のコンクリートを照らす。

「なっ!?」

殲滅部隊の少女達は、全員アスファルトに倒れていた。

どの少女も全員が全員、争った形跡もなく地に倒れて全滅している。

しかも、その部隊には刃物によりつけられた外傷が見当たらない。

仮身はそんな殺し方はしない。

仮身なら、生存確率を0にするために殺した人間はバラバラに解体する。

ということはつまり……この少女達は、人間にやられたのだ。

「バカな……そんな……」

RODの殲滅部隊は、対戦闘用仮身用 に編成された特殊武装部隊……。

仮身の部隊にだって遅れをとりはしない部隊が今、唯の人間に成す術なく全滅している。

有り得ない。

だが、今目前にその事実が転がっている。

「っつ!何を呆けているんだ私は」

呆けた間抜けな頭を叱責して再起動させ、私は倒れている隊員の心音を確認する。

まだ誰か生き残っている人間がいるかもしれない……。

………………………………………

            「………生きてる」

意識は深く抉り取られピクリとも動かないが、少女の心臓は何の異常も無しに動いている。

他の隊員を調べてみても全員異常なし……。

「良かった……」

安心して私は肩の力を抜き、少女達を寝かす。

「ん?」

一人の少女を介抱している最中、

謝鈴は首筋にあざができていることに気がついた

確認してみると、全員が全員首の後ろに痣が出来ている……。

つまり彼女達は、背後から一撃でおとされたのだ。

殲滅部隊全十六人を、一人一人、誰一人にも気付かれずに……。

ぞくり……と黒い塊が競り上がる。

こんなことが出来る人間は限られる……。

「っ!?奴らが動いたのか!?」

まさか、テロ程度で行動を起こすとは予想外だが、それしか考えられない。

「くっそ!?」

輸送部隊に救援要請信号を送り、私は大穴へと飛び込む。

「へクス……」

地下のアスファルトに足をつく感覚と共に術式が起動し、全力で疾駆する。

今の主では、奴らと仮身を相手にするのは分が悪い。

だから私が、ここで食い止めなければ。

主から連絡がないということは、少なくともまだであってはいないはず。

「ぐっ」

強い血の臭いは先へ進むほどに強くなり、意識を刈り取ろうと私の感覚器官を犯していく。

その異常な鉄の臭いと赤い色に全身は立ち止まれと命令を下すが、その命令を力任せに押さえつけて全力でその場を疾走する。

主の背中を守ることこそが、右腕である私の役目だから。

「あっ……」

居た……。

まだ視界にはいないが、それでも分かる。

ここに何かが居ると……。

むせ返るような血の臭いに混ざった。


血よりも濃い……死を彷彿させる香り……。

「あれ?」

私はいつの間に背に負った大刀の柄を握ったのだろうか?

しかも、その握った大刀からは金属が擦れ合うような高い音が小刻みに聞こえてくる。


震えている……

力ずくで直感を押さえつけながらも、私はこの先に待ち受ける存在の死のイメージに恐怖を覚えているのだ。


その臭いは嗅覚を通して脳に伝達される情報ではなく。

直接脳内に叩き込まれる圧倒的なまでの死の感触。

その感触が、私の全身を這いながらその香りを強めていく。

恐怖している……。

この先にいるのは、人ではない。 仮身でもない。

 そこにいたのは、死神だった。

                  ◇

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