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第三章 酔っ払い

夜、俺は見張りを長山と変わってもらい、森の見回りを開始する。

敵の居場所の探索もかねて捜索範囲を広げてみたが、やはり森は広く探索は徒労に終わり、時間だけが多くかかってしまった。

時刻は気づけば深夜二時を回っており、急いで戻ろうとする帰り道。

ふと、俺の脚はある場所へと向かった。


「あら、また来てくれたのね」

気が付くとおれは、ミコトの家にいた。

「知っていただろ?今日来るって」

「そうね、でも忘れてたわ」

「相変わらず胡散臭い奴だ」

俺の言葉にミコトはそうねと苦笑をして、ヒョウタンに口をつける。

「よくそれだけ飲んで体を壊さないな」

昼間に来たことはないが、なんだか朝から晩まで酒浸りでもおかしくはなさそうだ。

「お酒は百薬の長と言うでしょ?それに、壊していたとしてもどうせ分からないわ」

それはどういう意味だ?と聞こうとすると、ミコトはそれよりもはやく私医者じゃないしという言葉を繋げた。

「まったく、なんでお前はいつもそうおれをからかうんだ?」

「ふふ、貴方が慌てふためく姿が楽しいからよ?」

「結果が見えてるのに?」

「その未来を見るのが楽しいのよ」

……なるほど、と納得してしまった。

「やれやれ、なんか変わったことはないか」

「そうね、最近眠れていないわ」

大げさにあくびのような仕草をして、ミコトはなぜか恨めしそうに俺を睨む。

「なぜ?」

「当然でしょ?家の近くで爆発音やら銃声やらが響いていたら、安心して眠れないわ」

「……なんでだ?未来が見えるなら」

怖くはないだろうと言いかけて口を閉じる。そういえば自分に降りかかる未来は予知できないのだった。

「……」

「……」

一人暮らしの女性。周りに人気はなく、もちろん身を守るすべもない。

そんなところにあれだけの戦闘の音が響き渡ればそれは恐怖だろう。

「……すまない」

「……いいのよ、お仕事だもの。それに、今日貴方が来てくれたから」

ミコトはそういうと、静かに席を立ち、酒瓶を一本取り出し、グラスに注ぐ。

「……誰か護衛に回そうか?」

「気にしないで、この場所は村の人も知らないし、普通の人には見つけられない……それに」

「……それに?」

「信用できないわ」

「?」

「私これでも人見知りなの。いきなり家に見知らぬ人が来て、貴方を守りますって言われて信用できる?」

まぁ確かに言われてみればそうかもしれないが……しかし。

「未来を見れるなら問題は無いんじゃ」

「バカ」

む……と顔をしかめたミコトは、グラスを俺に突き出す……のではなく、グラスを持っていた手で俺を指さす。

「未来が見えようが見えまいが信頼は別なのよ!というよりも仮にその人が私を殺すなんて未来が見えちゃったときはどうすればいいの?その人の罪状は何?未来殺人罪?そんな条文あるかこらー」

「……」

なんだ?いきなり口調がオッサン臭くなったぞ。

「オーこらー!!バカ守護者ー!返事が聞こえねーぞー!お前の命なんて御いくら万円ゲイツポイントじゃー!……あ……あひゃあああ………あひゅあひゃひゃひゃ」

……酔ってる。完全に酔ってる。

「あははははーねーねー守護者さん~。私星とかと言ってるけどねー実はぜーんぜんわっかりまーせーん!」

「そうか……」

そしてうざい。

「なによー、反応薄いわよー。あ、そーだ!てーい」

「わっ!?わわっ!?何やって!?」

酔った勢いか、ミコトは酒の棚の布を一斉に引き、ガラガラと瓶が雪崩れる。

「割ったら弁償ねー」

「なにぃ!」

まさに傍若無人極まりない発言。だがしかし、反論とか文句とか以前に。

この瓶の量をかぶったら……死ぬ!?

「ふ……ふおぉおおおおお!」

身体強化の術式と、己が持つ直感をフルに使い、片っ端から降り注ぐ酒瓶を割らないように床に並べていく。

「はぁ……はぁ……はぁ」

厄日だ。

「あっはっはっは、すごいすごーい」

ぱちぱちと呑気に手を叩くミコトは、もう一杯とばかりにまたストレートでグラスの中の酒を飲み干そうとする。

「お前!一体どんな酒を飲んでいる!?」

其れをすかさず取り上げ、ついで酒瓶の名をチェックする。


「す……スピりタス?」

アルコール90%。安酒の中でも最高級に相手を殺しにかかっているウオッカ。

というかこれはそもそもストレートで飲むものでは無い!?

「いやー返してー私の命~」

「ふっざけるな!?お前、なんていうものをジュース感覚で飲んでやがる!?

ってかここに並んでる酒、どれもこれもストレートで飲むようなもんじゃねーぞ!?メチルアルコールがぶ飲--みしているようなもんじゃね―か!?」

「おさーけーがわたしーをよんでいるーのー」

「酒じゃなくて冥府のいざないだからな!?」

「おはなーばたけーにお酒がつれてーってくれるーの」

「何度お前は臨死体験してるんだよ!?変な奴だと思ってたが、相当ぶっ飛んでるなお前も!!ってか酒臭ぇ!?」


バタバタと暴れ、カラオケ大会やらストリップショーを阻止すること三時間。

森の見回りの仕事はどこへやら。

「はぁ……はぁ……はぁったく」

隣にはだらしなく涎を垂らしながら気持ち良さそうに眠る少女が一人。

あれにあれた部屋は酒瓶が割れなかったのが奇跡だ。

特に片付ける義務はないが、ここまで付き合ったのだ、最後まで面倒を見てやろうと半ば諦めの心情で俺は片付けを始める。


もとから整頓されていない部屋の物をすべて種類別に分けてまとめて行き、酒瓶を棚にもどす。

それだけで汚い部屋は趣のある姿を思いだし、とても広い部屋なのだと俺も気が付く。

「ふぅ」

これ以上やると、色々と危ないものとプライベートの物を掘り当ててしまうため、手を止め最後となった本を積み上げていく。……と。

「ん?」

本の間から、はらりと、一枚の写真が落ちる。

「なんだ?」

其れを拾い上げ見てみると、そこには小さいころのミコトらしき少女と

「……」

幸せそうに娘に頬を寄せる父と母が写っている。

「……」

呆れ半分に俺はその写真を机の上に置き、寝ているアホに布団をかけて部屋を出る。

熟睡も熟睡。

何をしても起きそうにないその少女の寝顔は、とても幸せそうな表情で死んだように寝息をたてている。


……まったく、この調子で人見知りって……本当に胡散臭い奴だよ」

そうひとりボヤキ、俺はミコトを起こさないように外に出て、まだ暗い雪月花の森を抜け、冬月の城へと戻って行った。


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