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第三章 ボンキュッボン = 爆殺 絞殺 爆殺



豪華な宮殿にしかれた赤い廊下。

「しかし大浴場と言うのはなかなか慣れないな……全身を伸ばせるのはよいが、どうにも落ち着かない」

その上をそんな独り言をつぶやいて、俺は一人桜の部屋へと向かう。

全身はまだ熱っぽく、ほんのりとした使い慣れない洗剤の香りが鼻をくすぐり、まるでコートから煙が上がっているかのように湯気が立ち上る。

「しかしそれでも、風呂は幾分か肩が軽くなるな」

戦場では風呂なんてあまり望めないため、こう毎日ゆっくりと入ることは初めてだ。

そのせいか体が軽い……。それだけ疲れていたのかもしれない。

「よっぽど人間からかけ離れてたんだな、俺」

そんなことを思いながら、俺は桜の部屋をノックする。

「桜。入るぞ」

高いハーイという声が扉越しにい越え、俺はそれを確認して中へと入る。

昨日のようなことはごめんだ。

「いらっしゃい」

中に入ると、てっきりベッドの上にいるのかと思いきや、桜は机の上でメガネをかけて書類を読んでいた。その姿を見て、やっと俺は桜がこの村の頭首であることを思い出す。

「ん?仕事中だったか?」

「うん、でももう寝ようと思ってたところ」

そう言って桜はメガネを外し、机のランプを消して、ベッドに入る。

「……忙しいのか?」

ふと気になって、そう聞くと、桜ははにかんで前はねと笑う。

「そうだね~、君たちが来るまでは、一日かけて書類に忙殺されてたけど、命狙われるようになったら、仕事がすごい減って、最近は夜中にちょちょいとやれば終わるようになったよ」

「ふ~ん」

その説明に大方納得し、俺は桜の部屋を見渡す。

生活感のない部屋。桜は一体ここで何を思いながら生きていたのだろう。

「……」

そんな余計な考えを振り払い、俺は桜のベッドの隣に置いてある椅子に座る。

長山がここに座って話し相手になっていたのだろう。椅子の背もたれには赤いコートがかかっている。

「……」

本当にただ話していただけらしく、部屋には侵入防止の術式も、窓ガラスには防弾の術式も張られていない。せめて、脱出用の術式ぐらいは張ってほしかったが……まぁ、あいつ術式のテストは苦手だったからな、本当に使えないだけかもしれない。

「ねぇ、シンくん」

そう桜の部屋を観察していると、不意に桜から声をかけられて振り向く。

「ん?」

「つまんない」

部屋の事ばかり見ている俺に耐えかねたのか?桜はとてもかわいらしく、しかし早く対処しないと後々面倒くさいことになる……そんなことを直感が告げるむくれ顔をしていた。

「確かに、長山に比べれば俺はつまらない人間だろうが……あいにく、俺は娯楽とは無縁でね、血なまぐさい話しかできない人間だ。まぁ、雇った人間がはずれだったと諦めてくれ」

「むぅ……だったら質問するから答えて」

「それならいいが、前みたくお見合いになるのはかんべんな」

「わ……分かってるよ。そだね、じゃあシンくんの戦う理由でも聞こうかな」

「……」

思ったよりもまともな質問が来たため、俺は拍子抜けをしてしまい、少しばかりきょとんとする。

「どうしたの?」

「いや、真面目な質問もできるんだなって」

「失礼な!いいから話してよ!嫌なの?」

「まぁ……いいが、いい話じゃないぞ?」

そういって俺は、自分のことを語る。思えば初めての事だったが、不思議と簡単に言葉にできた。

「俺の親父は、正義の味方だった」

「正義の味方?」

「ああ、戦場を転々として、人々を救っていた。正確には、戦争の被害者を最小にしていたが正しいな、俺は餓鬼だったが、今でも覚えてる。死にかけた人たちを助けだして、この銃を使って、何人もの被害者を敵味方問わず、例外なく確実に救って戦争を終わらせていた」

「すごいんだね!シンくんのお父さん」

「ああ、だから俺も、正義の味方になった。親父は好きに生きろと言ったが、俺も誰かを助けるのが趣味と言う変わり者だ。

気が付けば父親の後を追っていた」

結果として何千人もの人間を殺すことになったが、それでも自分の行いが正義だと言えるのは、あの背中があるからだ。

「へ~、シンくんって正義の味方なんだ」

「ああ……それでも戦場にいるのだから、何人もの人間を殺した。命乞いをするものも、少年兵も……何人も殺して、その何倍も救ってきた。その事に後悔はない……けど、何だろうな。お前を見てると、自分にまとわりついた血の臭いが気になってしまう」

なんでこんなことを俺は話しているのだろうか?今まで血の臭いなんて気にしたこともなかった。戦場で生まれて、戦場に生きて……。

血の臭いなんて当たり前で、俺はどうして、そんな当たり前のことが気になって、それをこの少女のせいにしているのだろうか?

「……そっか」

「あ……すまん別にお前のせいだと言ってるわけじゃなくて」

「大丈夫!私にはわかるよ!」

そんな俺の悪態にも近い呟きを気にするそぶりもなく。

「きっと君は、誰よりも正義の味方で、誰よりも優しいんだよ!」

なんでもないように、まるで子供の用に桜は簡単に答えを出す。

「なっ……そんなわけないだろ!優しい人間なら、人を殺すなんて……」

「うん、だからシンくんはこんなにも辛そうな顔をしてるんだよね?」

そういって桜は俺の手を取る。その手は温かくて、俺の冷たい手にぬくもりが伝わってくる。

「人を助けるなんてことは、決して楽じゃない。だからひとは、自分では行えないから~同情~をするかわいそうと相手を思いやって、助けようとしたという言い訳を作る」

それが普通の人間で、それが普通の正義だと彼女は笑う

道徳は、正義の美しい部分だけを切り取った写真だ。その言葉から、俺は忘れていた父親の言葉を思い出す。

「だからきみは、とっても真っ直ぐな人。誰も正しすぎることは自分が汚れるからできない。それを君は分かっていながら実行して、救った人間からの感謝の言葉に酔うんじゃなくて、救われた人のために犠牲になった人の不幸に心を痛めてる。それはきっと、誰よりも優しくて、強い人じゃなきゃできないことだよ」

桜の瞳に曇りはない。この少女はどうやら、本気で俺を優しいと思っているらしい。

「……お前、血の臭いを気にしないのか?怖くないのか」

だからそんな彼女がまぶしくて、ついそんな疑問が口を衝いて出た。

「前にも言ったでしょ?そんなのは幻だよ、シンくん。血は流せば落ちる。そして、恐れることは何一つない。だって君は、正義の味方なんだもん」

俺の手が、彼女と同じ体温になった……と同時に桜は手をはなし、いつもと同じ何の曇りもない笑顔を俺に見せる。

「ね?」

「……そう……かもな」

あぁそうか。血の臭いが気になったのも、汚したくないと思ったのも、ただ単に俺が桜を美しいと思っていたからなんだ。

「……さて、戦う理由はこんなところだ。他に聞きたいことは?」

そう思うとなんだか俺は心が軽くなり、桜に次の質問を促す。

「そうだね~。じゃあ、今度は私の事を教えてあげる。何か聞きたいことある?」

「そうか……だったら……お前の父親、冬月一心について知りたいんだが」

「お父さん?……さぁ、お父さんは三年前に行方不明だし、お母さんは私を生むのと同時に死んじゃったって」

「そうか……」

「でも別に悲しいとかそういう感じは……しないかな。それに、お父さんは小さいころから私の事に興味がないみたいで、いっつも石田に世話されてたな~。お父さんの顔ももう思い出せないし、最後にあったのは八年前に十分くらいだけ。だから行方不明なんて言われても、実感は全然わかない」

桜は強がりでもなくそう笑い、しかしやはりさみしそうな顔をする。

「……それでもやはり、胸に穴は開いているのか」

「え?」

「そんな顔をしている。やはり実感はわかなくても、父親が好きだったんだろう?」

桜は目を丸くして、何かを考えるような素振りを見せる。どうやらそんな感情を抱いていたことに自分でも気づいていなかったようだ。

「……そう……かなぁ。でも、確かになんとなくだけど覚えてる。雪の森の中で、私を肩に乗せながら散歩をするお父さん。うん。実感はわかなくてもやっぱり……悲しいかも」

彼女の反応は少しおかしかった。俺には気付かなかったのではなく、初めて自分の感情を知った。そんな感じがした。

「どうしたのシンくん?難しい顔をして」

「いや、別に」

「そう……ごめんね、なんか暗くなっちゃったかな?他には何かある?」

「そうだな」

そういえば、桜の病気とは一体何なのだろうか?余命一ヶ月にしてはいささか元気すぎる気もしないでもないし……。だがしかし、この問題は結構デリケートな質問でもある。

桜は寿命の事を知らないと石田さんは言っていたし、下手に聞いて寿命のことを悟られるわけにもいかない……。

ふむ、まぁしかし。うまくやれば問題はないか。

「じゃあ桜。お前がなんていう病気にかかっているかを教えてくれ」

「?なんで?」

よし、反応は期待していたものよりも数度ずれてはいたが、とりあえず聞いても良さそうだ。

「いや、さっきも言ったが、俺は一人でも多くの人間を救うことが仕事だ。お前が病気にかかっているなら、良い医者を知っているんだが」

桜が死んでも死ななくても、この戦いは一か月後に強制的に終わる。ならば桜を助ける方法を考えてもいいはずだ。今のロシアの技術力で治療できなくても、術式による治療ならばもしかしたら治せるかもしれないし、幸い名医が知り合いにいる。

「……」

桜は何も言わずベッドでしばし呆然とする。

「桜?」

「……別に、病気を治す必要はないよ?」

そんな変なことを言った。

「何言ってんだ? 確かに今は元気かもしれないが、石田さんの話ではだんだん重くなっていく恐れがあるって……」

「ううん、そういう意味じゃないよシンくん。たとえ私が死んじゃうとしても、別に私は死んじゃってもいい人間だから、どうでもいいよってこと」

そんな彼女のセリフは、さも当然のように放たれ……俺は耳を疑った。

「なに?」

「十六の誕生日に私はいらない存在になる。私はお父さんのつなぎに過ぎないってずっと言われてたから、どっちにしろあと一ヶ月生きれば役目を終える。 だから病気を治しても治さなくても、一ヶ月生きられるならどっちでもいいの」

その言葉は軽く……一か月後に死んでしまう彼女は、一ヶ月以上生きる意味はないと断言する。

自分は父親の遺産を守るためだけに生まれ、役目を終えたら消えることがさも当たり前のことのようにそう感情なく笑う。

「それに、私はあんまり生きていたいとは思わないから。石田がいれば村は大丈夫だし、遺産が私に渡ったら、私が生きる理由はそこで終わっちゃう。だからシンくんが」

「ふざけるな」

「え……」

気が付けば、俺は桜に向かってそう呟いていた。自分でもおかしいと思うほど感情的に……だけど、感情がここまで高ぶってしまうほど。

自分でもおかしくなってると分かっていても我慢できない程、その言葉は悲しかった。

「人は何かをするために生まれてきたとか、生きることに意味があるなんて綺麗ごとを俺は言うつもりはない……だけどな、何度も死を見続けたからこそ、俺はその言葉を聞き逃せない」

たくさんの死があった。いくつもの死で埋め尽くされたその砂漠の場所で、助けを求めながら死んでった人々は……今のセリフを聞いたら何を思うだろう。

「シンくん?」

怯えた顔をする桜を、俺は気が付けば睨みつけていた。

「……たとえ一か月後に役目が終わるとしても、決して生きることを投げ出すな。生きる意味など、いくらでも探し出せる」

自分でも今の発言がどれだけ矛盾していて、残酷だということは分かっていた。

余命一ヶ月の人間に、俺は生きる意志を投げ出すなと説教をしたのだ。

お門違いもいいところだ。

自分で自分を戒める。これほど間抜けな道化はいない。

そう……それほど俺は……彼女に死んでほしくないと思ってしまっていた。

「ごめんなさい」

桜はしおれた顔をする。

「わかればいいさ」

そんな彼女に俺は少し罪悪感を覚え、そっと頭をなでる。

「わふ」

子犬のような声を上げる桜はどこか可愛らしく。

「ふっ」

「あぁ!!」

「!?なっなんだ?」

「今笑ったでしょシンくん!シンくんの笑ったところ初めて見た!」

「笑ってない」

「笑ったよ♪この目で見たもん」

「じゃあその眼がおかしいんだ、眼科に行くことをお勧めする」

「なんだとぅー!?シンくん!私はこう見えても視力両目合わせて2.0なんだよ!」

「うわっ!?スゴッ……って思ったけど普通じゃねえか!俺の握力は左右で六十超えるぜ!とか言ってる小学生か!?」

「ふふふっやっぱりシンクンはこうやってお話してるほうが楽しそうだね……他には何かある?」

やれやれ、そうだな。                 

「……じゃあとりあえずスリーサイズかにゃ?」

…………気が付くと、いつの間にそこにいたのか黒いうに頭がご丁寧にメモ帳にペン持参で興味津々に隣に座っていた。

「リュートクン?」

「ささ!恥ずかしがらずにババーンとYOU!言っちゃいなY……」

「ババーーン!」

「げばふおあ!?」

とりあえず龍人の顔面を壁にめりこませておいた。

「何してんだ?お前」

「っぷは!?いや、だってホラ、何でも聞いていいっていうから。まずは身体的インフォメーションから?ね?深紅だって正直知りたいだろ?桜ちゃんの、その着物の奥に隠された、ボン キュッ ボーン!」

「……何を言っているか分からないが、とりあえず爆殺 絞殺  爆殺でいいのか?」

「NOOOOO!?ちょっと何その殺害三拍子!?それスリーサイズじゃなくてスリーコンボだよ!しかも爆殺かぶってるし!?」

「その点については安心しろ……石田さん」

「こちらに」

「ちょ……こちらにって何これ?すでに打ち合わせ済みっすか」

「説明しよー!不知火深紅は、こんなこともあろうかと、龍人君が私に手を出そうとしたときの処刑に必要な兵器の手配を石田に頼んでおいたのであったー」

「うおーい!そんな手配いらねーよ!!そしてなんで桜ちゃんのスリーサイズ聞いただけで!一個小隊を全滅させられるだけの武装があるんだよ!お宅どっかの球と勘違いしてない?そんな夢も希望もないもの七つ集めたって、 願い事はかなわないよ!?」

「さて、最初のボンは」

「聞けよ!無視スンナよ!いや、すいません聞いてください!お願いしますうぅ!」

「こちらの手榴弾、体の中に押し込めば、中を丁度良く焼き払うように火薬の量を調整しており、程よく死にかける苦痛を味あわせます。お次の有刺鉄線ワイヤーは、枯れた呼吸を念入りに止め、首を切り取らないように適度に肉を裂きます。そして、さいごに控えますは、みんな大好きRPG~7~にてございます。これならば塵も残りません。掃除いらずの優れものです」

「うん、流石石田さん。いい仕事だ」

「恐縮です」

「おおおおい!?やる気まんまんまん?桜ちゃん止めて!?お願い!最後のモラルポリスうううううううううううううううう!」

「面白そうだね、龍人君ボン キュ ボーンって」

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああ」


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