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第三章 ペンギン油

「やれやれ」

なんとなく思い浮かんだ言葉を口にだし、俺はゆっくりと屋上の扉を開け、けだるそうに見張りのような行為をしているウニ頭に声をかける。


「お、お帰り深紅。お前にしては随分とゆっくりな飯だったじゃねえか」

「そうか?」

「あぁ、早飯は戦場の基本じゃなかったのか?」

「ここは戦場じゃない、唯の村だ。」

「……まだな」

「だから飯をゆっくり食べていても問題はない」

「じゃあ見張りだって」

「それとこれとは別の話だ」

「だと思ったよ……」

「しかも食事に時間を割いていたわけじゃない。桜と少し話をしていただけだ」

「桜ちゃんと?珍しいな」

「あぁ、病が直ったら好きな国に連れて行ってやるっていう話から、世界中を旅したときの体験を話していた」

「それ、ほとんど戦場じゃねーか!」

「何か問題でもあったか?」

「ありまくりだっつの!?あるかないかだったらぶっちぎりでむしろあるだろ!!いいか深紅、お前が話した話題はどう考えても女の子に振る話題じゃねー!?」

「そうか?」

「そうだよ!!どうしてお前はそう女心ってもんがわかんねーんだよ!!女の子はお前みたいに拳銃だけがお友達な奴とは違うんだよ!」

「……意外と桜は楽しそうだったのだが」

「んなわけねーだろ!?人殺す道具を見せつけられてドヤガオしてる不気味な真っ黒クロスケ見て!サクちゃんが楽しめるわけねーだろ!」

「言い過ぎだ……」

だが、長山のいう事に反論ができない。


桜に世界の美しさを語ろうとしても、何分戦場と言う汚い部分に身を置き続けてきた人間の為、当然話せることは戦場でのことのみであり……結局外の世界の憧れを消してしまったのではないだろうか。

俺の眼には、桜は楽しそうに笑っているように映っていたが、もしかしたら語る俺に気を使って愛想笑いをしていただけという事も考えられる。


「やっぱ、まずかったか」

「ったくよぉ、いいか深紅。女の子っていうのはな、男とは違うんだよ」

「というと?」

「そうだな、女性っていうのはやわらかで、どこか大人しくて優しくてやわらかで…………男なんかとは根本的に違うんだよ」

「確かに、体の構造は……」

「そういうことを言いたいんじゃないわああぁ!!この朴念仁スーパーデラックス!」

スーパーデラックスって……。

「お前の言葉じゃ抽象的すぎて分からないぞ」

「どぅうあかあぁらああお前はスーパー朴念仁アルティメットバーストマーク2 アーケードエディションなんだよ!」

なんか、ゲームのタイトルみたいだな。

「じゃあ聞くが、男性と女性の体の構造以外で違う場所とはどこなんだ?」

「決まってんだろぉ!慈愛の精神だよ! 女の子っていうのはなぁ、毛だらけで暑苦しい男なんかとは違うの!お花とかきれいなものとかが大好きで、男みたいに騒ぎ立てるよりも、静かに窓際でお花を見ながら読書をしたり、小鳥や兎みたいな可愛い小動物と戯れている方が好きなんだよ!」

「……なるほど」

「ふぅ、ようやく分かったか」

「お前が馬鹿だってことは良くわかった」

「何をどう読み解いたらその回答に行きつくんだ?」

「趣味なんて人それぞれだろ。つまり、お前の今の発言は、女性への勝手な妄想。あてにならない」

「ぬぬぬぬぬ!?よおおおぉし、そこまで言うなら俺の見事なトークで、桜ちゃんを落としてみさらせますぜ!!ほえ面かかせたるわ!深紅ぅ!!」

いつものようにうるさく吠える長山は、そう一言吠えると、いきなり俺の腕を掴み引っ張る。

「お……おい!?見張り……」

「案山子でもおいてろぉ!!」

どうやらムキになっているらしく、俺はなす術もなく長山と共に、再度桜の元へと向かうことになった。

本当、こいつはこのいい加減な性格でよく回るものだ


赤い廊下を抜け、桜の部屋の前に立つと、長山はぴたりと足を止め。

「いいか?桜ちゃんに気を使われたら元も子もないから、お前はここできちんと待って聞いてるんだぞ?桜ちゃんが俺の見事なトークに酔いしれる光景をな」

「逆に引くような結果が目に見えるんだが」

「いやぁ、もしかしたら俺のかっこよさに、桜ちゃんにいきなり告白されたりしてぇ……どぅふふふふ♪」

……絶縁状を叩きつけられても文句は言えないな。

「いいか!ここで聞いてろよ!?絶対中に入ってくんなよ?絶対だぞ!?」

「あぁ、分かったよ」


バタン……。

扉が閉まる音がし、長山のトークを俺は扉越しに聞く。



「いやぁ桜ちゃんさっきは深紅の馬鹿が悪かったねぇ、戦争や銃の話ばっかりで退屈だったでしょ?」

「え?私銃とか好きだからすっごい楽しかったよ!」

「気を遣わなくていいからいいから。深紅の奴、あんまり友達がいねぇからさ。楽しい話なんてできるわけないんだ。だから、俺ともっと知的で有意義で楽しい話をしようぜ」

「お話?本当! 聞きたい聞きたい♪」

「そうだね、まずは身近な話から話そう……ロシアは寒くてもまだ木とか燃料がかろうじてあるから暖は取れるけど、これが何もない南極とかだと探検隊の人はどうしてるとおもう?」

「?どうしてるの?」

「ペンギンを使うんだよ」

「あ!わかった、ペンギンをたくさん集めておしくらまんじゅうでもするのかな?」

「あっはっは、かわいい発想だね桜ちゃん。 でもね、違うんだな~?」

「ふえ?じゃあどうするの?」

「簡単だよ、ペンギンを窯の中で殺して、ペンギンの脂肪を搾り取って食料と燃料にしていたんだ……」


「……」

「他にも、アザラシを殺してその内臓を取り除いて、代わりに魚を中に詰めて発酵させる缶詰っていうのもあ……」


何やら鈍器のようなもので殴られるような音が響き渡り、長山の豆知識講座は強制終了され。

代わりに

「龍人君のばあかああああああああ!!」

半泣き状態の桜の叫び声と。


見事な連続攻撃の音が響き渡る。

「ぎゃああ!?な……なんでこうなるのおおおお!?だ……誰か助けてえええ!?」

助けを求める龍人の声が部屋の中から聞こえるが……俺は巻き添えを喰らって死ぬのもごめんの為、最初に長山がした命令を忠実に守ることにし。

「地獄に落ちろ」

一度合唱をしてから、見張りへと戻ろうとする。 

と。

「深紅様」

「ん?」

ふと後ろを振り返ると、そこには石田がおり、両手で空になった一升瓶を持っていた。

「すみませんが、お醤油を切らしているのを忘れていました……買ってきていただけないでしょうか?」

「む……」

一瞬、見張りはどうする……と零しそうになったが、森の探知の術式に加え、長山のゴーレムを撒いた今あの見張り台に張り付いている意味は本当はあまりない。

あくまで万が一……と言う可能性を考えてこの眼で直接見張りをしているわけだが、まぁ昼間に多少目を離したとしてもあまり問題はないか。


だからこそ、長山につれられることも良しとしたわけだし。

「……分かった。ついでに見回りもしてくるが、構わないか?」

「えぇ、醤油は夕飯に使用しますので、構いませんよ」

石田は一升瓶と金を手渡し、屋敷の階段を下りていく。

「さて……じゃあ行くとするか」

俺もそれを見送って踵を返し、屋上から外へと降り、村へと向かうことにした。


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