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第二章 冬月 桜 14

同日 アメリカ


二時三十四分……    対大量破壊兵器専門部隊本部所有要塞~オハン~

「侵入者だ!第二ゲートを封鎖して閉じ込め……」

館内に響き渡る入り口付近からの緊急報告。

戦々恐々とした警告と同時に響く金切り声が、その要塞の名前の通り響き渡り要塞内に侵入者が現れたことを告げる。


鉄の要塞と名高いその白は、対仮身戦争用に作られた世界最硬を誇るアメリカ、いや世界一の盾であり、最硬の篭城兵器でもある。

もとより軍隊を相手に戦えるように作られた仮身を殲滅するための要塞。

浸入を阻むセキュリティーはもちろん、中に配備されたハンター。日本支部で言う隊長達が待ち構えている。

最新式の甲火力銃器はC級仮身をも貫くアサルトライフル。

それを武器に部隊総勢1000名が侵入者を蜂の巣にし、改良型ジャベリン

の一斉掃射により、目標は歯車一つ残さずに完全に沈黙する。

……はずだったが、現状は悲惨であった。

最強の部隊、最強の要塞であるこの場所は、たった今一人の人間により落とされかけていた。

駆け巡る血の香り、灰色で覆われていた壁は多くの隊員の粘着性のある赤で彩られ、

的に隠れる場所を与えないように設計された通路が裏目に現れ、さらにイタズラに被害を増やしていた。

逃げることも許されずに乱射される銃弾の音は虚しく、その音が消えると同時に響く叫び声が一秒ごとにゆっくりと、しかし確実に最深部へと近づいていく。

「な!?な……ああ。何だ何なんだよぉ!?一体なんだお前はなんなんだなんなんだなんなんだなんなんだなん……ああああああああああああああああああああああ!!グェギュ!?」

あるものは立ち向かい、あるものは背を向けて逃げ出し、あるものは笑いながらその頭蓋を自ら打ち抜く。

もはやそこは戦場なんて言葉さえも似つかわしくない。

一方的な殺戮空間と化し、赤い水を噴出する噴水が、そのモノが一歩踏み出すごとに数を増やしていく。

「ファイア!」

しかし、オハンの兵士達の行動は迅速かつ的確であり、ひるむことが無かった。

広い空間に現れたそれに見舞われるのは、正義の鉄槌という名の一斉掃射。

死んだ仲間達の仇討ちを望む者たちの怒りを含んだ兵器が、目標に寸分の狂いも無く襲い掛かる。

重なる爆音が心地よくその空間を埋め尽くし、その場を一瞬で焦がしつくす。

しかし、そんな破壊の後であっても、この要塞の損傷は皆無であった。

やはり我々は最強だ、誰もがその時そう思い、一人の隊員が死んでいった仲間の為に祈りを捧げた。

                瞬間。

「ヒャグ!?」

祈りを捧げた男の顔が煙の中から現れた手により、文字通り剥がされる。

「アアアアアアアアアアアアアアア!」

悲痛な叫び声が木霊し、それを契機に兵士はその男ごともう一度一斉掃射を試みる。

コレくらいのことで動揺するほど、彼らは弱くない。

そう、彼らが弱いわけではない。ただその相手の存在が強大すぎたのだ。


放たれた弾頭は先と同じ起動を描き、目標を破壊すべく煙を唸り巻き上げながら一直線に牙をむく。

その起動は点。

常人、いや例え超人であってもその全てを見切ることなど出来ない。

そう、だからそれは……人外だったのだ。

「RAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

体に触れるジャベリンミサイルの弾頭。中の火薬が炸裂し、仮身であろうとその身を抉り取られ絶命する。

しかし、その黒いボロボロのマントをまとったその男の体には、やはり依然として傷がつくことは無かった。

身じろぎも、ぐらつきもせず、何かをした様子も無い。

その時彼らは気付き絶望する。


簡単な話だ。それはただ、とてつもなく硬いだけだ。

「!?」

最後に放たれた弾頭を、それは容易く片手で掴み取り、大きく振りかぶって投げ返す。

その速度は三倍。兵士の視界の点は、一瞬にして眼前を多いつくし、世界最強を誇る要塞は、たった一人の人間によって全滅を喫した。

「あ……あぁ」

一人、爆風から運よく重傷で住んだ男が目前にたたずむ黒い影を見据える。

流れる血は致死量。助かることは出来ない。娘の誕生日に帰れなかった。

頭の中で色々な思考が繰り返し流れるが、そんなものがどうでもよくなるほど、それはおぞましく人間らしい部位が見つからない。

感情は愚か、眼耳鼻口さえも無い。遠目からは気付かなかったが、自分はこんなものを殺そうとしていたのかと自嘲に近い苦笑を漏らす。

「……お前は、何だ?」

冥土の土産に教えてくれと言わんばかりに、その男は手に持っていたものを投げ捨ててそれに聞く。

眼を離すことが出来ない。

その体も異常だ、暗くてよく分からなかったが、この存在は黒い服を着ているのではなく、

肌自体が真っ黒なのだ。

もちろん黒人とかそういうレベルじゃない。

漆を塗りたくったような光沢を含んだ黒色なのだ。

「SAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

口の部分と思われる場所が振動し、おぞましい音が響く。

「そうかい」

それだけで充分だ……と男は静かに眼を閉じる。相手が化け物ならば俺達は殺されるだけなのだと。

布石はもう打った。

後はこれからヒーローがこいつを殺してくれる。アメリカとはそういう国だ。


喉を貫かれる瞬間まで男はアメリカを称え、誇りを胸に息絶えた。


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