表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/181

第二章 冬月 桜 13

早朝の見回りを終えた俺は、森の間からさす光から、朝日が昇り始めたことを悟り時計を見る。 

時刻は既に7時を回っており、先ほどまで見回っていた神の森を抜け、俺は足早に村へと引き返す。

相も変わらず村の様子は穏やかなモノであり、その中は常に笑いが絶えない。


雪月花村の資料では、ロシア政府もこの村の圧倒的な経済力の前には安易に口を出すことは出来ないらしく、密かに独立国とまで歌われるほどの力を有している。


ただ国として認められない理由は政府が無いためである……などと一文も文書にはあったが、俺はそれが無いのではなくいらないのだということを村の様子を見ながら思っていた。

「……俺の望む世界」

だからこそジューダスは、この村に俺を連れてきたのかもしれない。

人を殺し、ただ合理的に人の助かる数字だけを見てきた俺に。

目的を見失いかけて、理想が血に埋もれかけていた俺に具体的な目標を植え付けるために。

もし、世界中の人間が……。

「何を寝ぼけたことを」

言葉を飲み込み、俺は甘い考えをため息と同時に吐き出す。

恒久的世界平和なんて、生命が根絶やしにならなきゃ有り得ない。

それに平和な村を見たところで、世界のいたるところで人の血が流れているのは事実。

こんなところで一ヶ月もうだうだしている間に……俺は一体何人の人間を救えるか。

「っ……俺は何をしているんだ」

そのことを忘れかけた自分を戒め、俺は城へ続く森を抜けて、一人洋館の戸をあけた。


「よ、お疲れ」

屋敷に戻ると、なにやら頭にユニークなモノを巻きつけた長山が俺を出迎えた。

「何をしてる?」

「え?お手玉♪」

冬月は楽しそうに着物の袖を揺らしながらはしゃいでいる。

よく見ると長山の両手には何本ものナイフが握られており、長山はそれをジャグリングのように投げて遊んでいた。

「うはー!?スゴイスゴイ!!」

…………………………………。

まぁ、冬月も楽しそうだし。二人の仲も良好のようだからいいだろう。

「程々にな」

「なんだよ?お前も見せてやれよ早撃ち!」

「やるか……。俺はすぐに仕事に戻……」

「It is a show time!」

「聞けよ!!?」

そう言って長山は、七本のナイフを同時に俺へと投げつける。

速度は本気であり、回転しながら緩やかに落ちて一直線に俺へと向かう。

目標は弧を描く線。 避けようにも七本もあるため紙一重で回避するのは不可能。

こいつ、マジで殺す気だ!?

 「ちいっ」

瞬時にクローバーを抜き、目標を定める。

ナイフとの距離は既に三十センチを切っており、ほぼ同時に打ち落とさなければ串刺しの出来上がりだ。その為、本気で銃を七発放つ。              

一発の銃声と同時に、七本の剣を地面へと突き刺し。銃をしまわずにそのままあいた左手で俺はすかさず。

                殴る。

「あだぁ!?」

「お前、今本気で殺すつもりだったろ?」

「えへへ?べ……別に俺は、お前が死んでもかまわ……」

「いい度胸だ」

「あだっだだだだだ!!?おかしくない?いつもお深紅俺に同じこと行ってるよね?!?折れる折れる!?この天才ジャグラー長山様の腕があだだ!」

「っくす……あっはははは!ははは!!」

そんな俺と長山のやり取りを見て、冬月はいきなり大爆笑を始める。

「ごめんなさい!……でも、二人とも面白くって、あははははは、はははははは」

「……ったく」

結局は乗せられてしまった自分に呆れながら、俺は西側廊下へと脚を運ぶ。

まったく、本当に俺は何をしているんだ……そんなことを再度思いながら。                  ◇

西側廊下の書庫、桜の余命のことを知ったこの場所で立ち止まり扉を開ける。

古びたドアは老体を余り動かすなと苦言を呈すようにうめき声を上げ、埃の臭いと共に中の暗闇へと俺をいざなう。

「どうだった?石田さん」

暗闇の先にいる先客にそう一言声を告げると。

「ええ、全て吐いたそうです」

そう老人の声が反響をする。

「そうか、意外と早かったな」

「どうやら部隊の人間でもないただの探偵だったらしく、不知火様がお預けになったボディーガードの尋問であっさり吐いたそうなので、脅しをかけて村から追い払いました」

構いませんよね?という目配せに俺は静かに頷き、椅子に腰をかける。

「で?どこの人間だった?」

「はい、恐らくはラスプーチン家の手先と考えてよいでしょう」

予想通りの答えのため、俺はなにも言わずにそうかとだけ呟く。

「お粗末ではあるが、偵察が来たってことはあっちもそろそろやってくるってことか」

「ええ、恐らく」

あまりにものどかな生活を見てしまったせいか、俺はその台詞に少しばかりの寒気を覚える。

どうやら俺は甘いことに、このまま何もなく一ヶ月が過ぎてくれるかも知れないなんて淡い願望を抱いていたらしい。

本当にこの村は何もかもが真っ白で……正義も悪も存在しなくて。

世界が全部こうなればいいのになんて夢に、縋ってしまいそうになる。

「不知火様?どうかなされました?」

「……いや、なんでもない」

石田の声に俺は我に帰り、静かに目を閉じて覚悟を決める。

俺は、ただ正義を実行するのみだ。

「石田さん、俺が出した条件を覚えているか?」

「はい、桜様の存在が雪月花の村人二百二十六名以上の人間の命を脅かすことになったら、桜様を殺して正義を実行する……でしたね?」

「俺はあの条件を曲げるつもりはない。たとえそれが兵士だとしても、犯罪者だとしても、何の罪も無い一般人だろうと、俺は一人でも多くの人間を救う」

「はい……心得ております。ですのでその際は私の手で葬って差し上げます故、ご安心して正義を実行なさってください。その銃口が桜様に向いていない間は、私も協力は惜しみません」

淡々と石田さんは瞳を閉じてお辞儀をする。なんともいびつな協力関係ではあるが、それくらいのほうが俺にとってはやりやすい。

互いに了承した上で殺し合いになるのなら、どちらも気兼ねなく刃を交えられる。

石田さんはそんな俺の感情を汲み取って、自由に動いて構わないと言ってくれているのだ。

「そうか、だったら村人に続いてで悪いが石田さん、ボディーガードの人間を早急に退避させてくれ」

「はて?見張りを少なくしては不利ではないですか?」

「敵は俺達の同業者だ。あの程度じゃ全員殺されるのが眼に見えている、無駄に死人を増やすわけにはいかないだろう?それに、森全体に罠と同時に敵探知の術式を張る。

もうボディーガードに村の周りを張り込ませる必要はない。これからは桜近辺の護衛に回してくれ」

「ふむ、しかしいかに術式とは言え既存のものであるならば対抗策は生まれているはず。

敵はロシア軍の事実上の頂点に立つ男です。なんの対策もしないで来るとは思えませんが?」

「……確かに、石田さんの言い分にも一理あるな。……石田さん、術式についてどれだけ知っている?」

「はぁ、私は魔術の類はそう詳しくないので……、基本的な術式を扱える程度で優劣関係などの細かい関係までは……」

「そうか……俺も基本的なことしか学んでいないのだが、術式の相互関係自身は単純で。いかにその術式の効果設定を綿密にするかで優劣が決まる。

例えばB5用紙一杯に書いた火炎放射器並みの炎も、A4用紙一杯に書かれた水鉄砲並みの水にかき消されてしまう。もちろんこれはたとえ話であり、さらに複雑な要素はあるのだが、俺はあいにく術式に詳しくないため、細かなところまでは説明できない。

また、術式の効果によって生み出された炎と水のみの結果であり、術式の炎と物理的な水鉄砲では結果は異なる」

「ふむ……となると相手がこちらの~探知~の術式よりもランクの高い~迷彩~の術式をかけられたら、その時点で探知の術式は効果を発動しなくなる、と言う事ですね?」


「ああ、それが術式なら対策は打たれてしまうが。それが見えない監視カメラだった場合はどうだ?」

そう、だがそれはあくまで術式で探知を行う場合の話だ。

「監視カメラ?」

石田さんは狐につままれたような顔をし、俺はその顔の前に一匹の小鳥を懐から取り出す。

「コレと似たような動物を、森の中に百匹以上ばら撒く」

「……これは?」

生きているように動くその鳥は手のひらの上で毛づくろいをしているが

「止まれ」

という合図と同時に死んだように動かなくなり、ただの石となる。

「古代の術式の一つ、擬似生命。ゴーレムと呼ばれる代物の長山流のレプリカだ。命令された行動を一つだけ繰り返し、見聞きした情報と状態は術者と常に通じ合う」

物珍しそうに小鳥の石をつつく石田さんの前で 「フライ」と呟く。

「ほぅ」

同時に小鳥はまた動き始め、宙を舞い、暗い部屋の中をものにぶつかることなく円を描いて頭上を飛び回る。

「石の人形の中に術式を埋め込んだ単純なものだが、視認では動物、術式探知でもこの程度の単純な術式は害無しとして石として判断される」

おまけに魔術やルーンのような魔術要素も無いため、魔力探知にも引っかからない優れ物。

「なるほど、服の中に仕込まれている間、全く気づけませんでした……これならば、ボディーガードよりも効率がいいかもしれませんね?」

「あぁ、だからボディーガードの人間たちは村人の保護を優先させてくれ」

「かしこまりました、他に報告することはありますか?」

「いや、引き止めて済まなかった。俺も仕事に戻る」

「お気をつけて。私はこの紅茶を飲み終わってから出ますので」

「ああ……」

石田さんは注いだ紅茶を口に含み、ゴーレムを指でなぞりながら物珍しそうにその造形を見ている。

始めてみる人工生物に興味を持っている……と言うだけの眼ではないなあれは……恐らくなんか企んでいるだろう……。

しかし、その思考の内容を読むことは到底不可能であり、考えるだけ無駄の為

石田さんに背を向けて、ほの暗い闇の中のドアを開けた。


                     ■

「不知火くん♪お話終わりました?」

「……待ち伏せしていたのか」

外に出ると、まぶしさと同時に冬月が俺の前に突如として現れる。

先ほどまでの殺伐とした雰囲気の後に、このほのぼのとした顔を見せ付けられると、どうにも毒気を抜かれてしまう。

「待ち伏せなんて言い方酷いよ!?」

「……そうか?」

「そうだよ!崖から落ちそうな人の指を一本ずつ離させて行くのと同じくらい酷い」

果たしてそこまでだろうか?

「まぁいいが、それはそうと長山はどうした?」

さっきまで意気揚々と遊んでいたアホの声は既に無く、一瞬護衛を放って遊びに言ったのではないかと不安になる。

「え?あぁ、少し村の方にお買い物頼んだの。数十分で帰ってくるよ?」

「なるほど、それでヒマになったから長山が帰ってくる間、代わりに俺と遊ぼうということか?」

「代わり……て言うわけじゃないよ?さっきは石田に話があるから不知火君何処か行っちゃったけど、もう話が終わったなら一緒に遊べるよね?あそぼ♪」

ご機嫌に手を引き俺をロビーへとつれて行こうと桜はするのを俺は払い。

「断る……冬月、何度も言うようだが俺達は遊びで来ているわけじゃ」

と逃げる口実を並べてみるが。

「じゃ……じゃぁ、ここでお話は?」

「む……」

ここで話すのを拒む理由は無く、俺は出来るだけ早く彼女から離れる口実を探しながらも、

見つからず

「……それならいいが」

と自分の語彙能力の無さをのろいながら短く返事を返してしまった

「じゃぁ、私不知火君に聞きたいことがあったんだ」

「なんだ?」

明らかにここから立ち去りたいという気持ちが伝わったのだろう、彼女のどこか表情を硬く質問をしてくる。

「たいしたことじゃないんだけど、不知火君って、長山君と仲いいよね?」

恐る恐るの上目遣いで、冬月はそんなことを聞いてくる。

「……どうだろうな?友人と呼べる奴はあいつくらいだからな。仲がいいのか悪いのか比較できる奴がいないし、そんな事を聞けるやつもいない」

他の知り合いは皆敵か死人ばかり。しかし別段気にせずにいられたのは、やはりあの馬鹿のお陰なのだろうか?

「とっても仲がいいよ!二人は」

いきなり力説するようにガッツポーズのようなものを取る冬月に気おされ。

「そうなのか?」

おれはそう頷くしかなかった。

「……私にも友人がいるの。村にいる三つ子の女の子達で、ソランとクラリスとシエリスって言うんだけど。最近会えなくて心配だな」

先ほどまではしゃいでいたのに、すぐに犬が耳を垂れさせたようにシュンとする冬月。

このテンションの上下はいったい何なのだろうと疑問に思いながらも、俺はもう一つの疑問を口にする。

「ソランやクラリスという名前は外国人のものだが、この村はハーフもいるのか?」

日本人だけで構成された村だと聞いたが、ソランやシエリスはどう効いても日本人の名前ではないし、どこの国の名前かも良く分からない。

「違うよ?ソラン クラリス シエリスはあだ名だよ。だってあだ名のほうが仲が良くなったって言うのかな?距離が近づいたって感じするよね?」

あだ名の定義を少しはき違えていないか?それ。

まぁ、三人も嫌なら変えているだろうから気に入ってはいるんだろうが。

「そう言うものか?」

「そう言うもの♪」

ニコニコ笑いながら話す冬月。その笑顔に汚れはなく、俺はその笑顔に居心地の悪さとかみ合わないものを感じる。

もちろん彼女が悪いのではない。

この白い雪と醜い深紅色の血とでは住む世界が違うだけではなく、彼女を汚してしまうのではないかという後ろめたさを感じていた

余命一ヶ月という短い命。その最後を飾る物語に殺人鬼がいたのでは、あまりにも後味が悪すぎる。

そう言う意味では俺はこの少女が苦手だった。

「……」

「……」

気まずい空気が流れる。俺は別に構いはしないが、隣にいる少女は沈黙というものになれていないらしく、口をあけたり閉めたりを繰り返しながら居心地悪そうにしている。

「えと、不知火君」

「なんだ?」

「前はなしたときは野生動物の話になっちゃったけど、普通の好きな食べ物はなあに?」

なんだ、いきなり?

「そうだな……もう随分昔に食べたきりだが好きなモノは、寿司だな。嫌いなモノは甘いものだ」


「じゃ……じゃあ好きなスポーツ」

なんか面倒になってきたな。

「スポーツなんて、今まで生きてきてやる余裕なんて無かった」

「じゃぁ趣味は?」

「ない」

「尊敬してる人!」

「シンドラー」

「好きな教科!」

「戦争倫理学」

「えと」

不毛な質問が飛んでは吹き飛ばされる。

「えと……えと」

どうやらネタ切れのようで、冬月は何か質問をひねり出そうと頭のてっぺんに人差し指を当てて頑張っている。

「終わりか?なら俺は見張りに戻るが?」

今度こそ踵を返し、俺は赤い廊下を歩いて行くと。

「深紅君!」

何かを決意したような表情で、冬月は急いで俺のコートの袖を摘んでいた。

「なんだ?」

自分よりも低い身長の彼女を見下ろすように、冬月のうつむき気味の顔を見ると、

彼女は決心したように一度息を吐き。

「私の、友達になってください!」

と、いつもよりも巨大な声で言い放った。

なんでもないその一言だが、俺はその一言が気に入らなかった。

「断る。 一ヵ月後俺は日本へ帰る。変な情も何もかも、仕事の効率を下げるだけだ。そして何より……俺はお前を殺すかもしれない人間だ」

そう彼女に伝えると彼女はうつむいた顔をさらに下げて固まる。

俺の袖にかかっていた重みは、静かに離される指先と共に軽くなり、ゆっくりと少女の太ももの辺りに戻っていく。

俺はそんな拳を握り締めて震える少女の顔は見ずに、赤い廊下を振り返らずに見張りへと戻る。

まったく、これでいいはずなのに、どうしてこんなにも頭の中がもやもやとするのだろうか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ