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第七章 未来は白紙

12月23日

私は瞳を閉じた状態から意識を取り戻し、少し目を開けることを躊躇ってみる。

迎えることのないと思っていた未来。

そう、私の未来はここでとまっていて。

誰の未来を見ても、そこに私は居なかったけど。

その映像はこれからすべて嘘になる。


目を開けるのがこんなに楽しみだなんてはじめて知った。

眠ることもできず、目を覚ますと自分がこの世に存在しているかいつも不安だった。

だけど、私は今存在を疑うことなく……初めて幸福に包まれて目を覚ますのだ。


まだ目を開けず、ゆっくりと私は半身を起こす。

やわらかいものが体を滑っていき、私は抑えきれない心臓の鼓動と、高揚感のまま、そっと目をあける。

と。


「も、もうかんべんしてっさーーー!?」

「……ロイヤルストレートフラッシュだ……さぁ、口を開け」

「い、いやーーー!もういやああああ!?おぶっ……あうぅおっき……おっきいっよー」

そこには、カエルのタイツを頭からかぶったカザミネが、口に大根を詰め込まれている世にも奇妙な光景が広がっていた。

「……た、たのしそうね?」

一瞬にして私を支配していた高揚感は消えさり、私は守護者さんにそう問いかける。

「……目が覚めたのか、ミコト」

「おかげさまでね……で、何をしてるのかしら?これは」

「お前の看病をしていたんだが、暇だったんでこいつとポーカーをすることになったんだが、金がなくなったと抜かすからこうして罰ゲームを……」

「……あなた、そういうところで運を使っちゃうから幸が薄いのよ……」

「自覚はしているよ」

私は大げさにため息をついてみせ、倒れて窒息している狩人さんの口から大根を抜き取る。


「っぷは!ミコト、体の調子は大丈夫かい?頭ふらふらするとか、立ちくらみとかはしないかね?」

「ええ、心臓に穴が開いたなんて夢だったかのように元気いっぱいよ」

「そうかい。それならよかったっさ……顔色も悪くないし、取り越し苦労とはこのことさね……あー睡眠時間もお金も無駄にうしなったっさ~」

「うふふ、ごめんなさいねカザミネ。今度お店の料理ご馳走するから、それで許して」

「本当かい!?私は食べるよ~!人の三倍食べるよー!」

「牛飲馬食……狩人が獣とはこれいかに」

「誰が馬か!誰が牛さね!!そういうお前は蛇野郎っさ!」


「うふふ」

いつものような騒がしい風景。

諦めていた未来。

だけど……私は今ここにいる。

それはとても幸福で、神様がくれた大きな奇跡。

そして。

「天誅!!スペードスラッシャーーー!」

「……ったくお前は、んなもんあたるわけ……」


「あいたっ」


「!!?」

「!!!??」

「っもう……痛いわよ狩人さん………どうしたの?変な顔して」

狐と狸にいっぺんに化かされでもしたのかしら?

「いや」

「ミコト、今痛い……て」

呆然とした二人の言葉を聞いて、私はようやっと私に訪れた異常を……いや、神様がくれた些細なプレゼントに気付く。

「………………あら?」

頬を軽くつねる。

頬の上と下、そして指は人差し指と親指で肌の感触を感じ、ささやかな痛みが私の体を走る。

未来を理解したと同時に失われた、あの懐かしい感覚は長年忘れていたというのに、まるで今までずっとありましたと言わんばかりに何食わぬ顔で私の体に浸透している。

「あるわ……感覚」

ずっと欲していたものが戻ってきたというのに、こんな感想しか漏らせない私の語彙力に自分でも呆れてしまう。

「奇跡っさ――――――――――!?先天性の無痛障が直るなんて!」

当の本人よりも大喜びしてはしゃぐ狩人さんは、そのまま大はしゃぎをして廊下へと躍り出て、朝だというのに大声を立てて屋敷中にこの朗報を知らせて回る。


本当、ここまで友達の為に喜べるなんて素敵な人。

「本当に感覚があるのか?」

「ええ。そうみたい」

「そうか……これで、全部取り戻せるな」

「ええ、あなたのおかげよ」

「俺は何もしていない……」

「そんなことないわ……貴方が居なければ、私は今頃天国にいたんですもの」

茶化すなと守護者さんは顔を赤くしながらそう照れるが、私はいたって本心から感謝のことばを述べている。

だって、彼は私に生きる意味と光を与えて、深い闇からも救い上げたのだから。

「ねえ、少しだけお願いしてもいいかしら」

……今までの人生、不幸なことが多かったけど……それでも後悔はない。

「ああ。快気祝いだ……なんでも言え」

だって、私はここに居て。

「本当?じゃあ……」

「!?なっ!おい!」

こんなにも近くに、彼がここにいるんだもの。


「少しの間、このままで」

抱き着いた感触。彼のぬくもり……すべて今私は全身で感じることができる。

あぁ、好きな人に抱きしめられるとこんなに胸が痛くなるんだ……。

そんな発見をしながら、私はまたまた固まってしまっている守護者さんにさらに顔を深くうずめる。


未来は白紙。


桜ちゃんには悪いけれど、これからは本気で行かせてもらおうかしら……

なんてね♪


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