第五章 当主さんが怖い
かくして、割と大きな問題を解決した俺達は、ミコトがここに住まうことの許可を桜に取るため、桜の部屋へと向かっていた。
「……当主さん、私がここに住むこと許してくれるかしら……」
「大丈夫だってミコトちゃん。むしろ友達が増えて桜ちゃん大喜びするって」
「そう……よね」
「安心しろ……カザミネが大丈夫だったんだ。ミコトが駄目な理由が見当たらない」
「な!どういうことっさ!シンくん!」
「自分の胸に手を当てて考えろ……ほらミコト……ついたぞ」
階段を登り切り、俺は桜の部屋を叩く。
「はい?」
「桜……少し話があるんだが、入るぞ?」
「どうぞ~」
相変わらずの柔らかな返事が響き、俺はサクラノヘヤと書かれた部屋のノブを回して中に入る。
「どうしたのシンくん?急に改まっちゃって……ってあれ?ミコトさん?」
「こんにちは、当主さん」
「お店の調子はどうかしら?」
「ええ、それはもう繁盛させていただいているわ」
「それは良かったわ。ところでシンくん、ミコトが私に何のようかな?」
「あ~……簡単に説明するとな、今日からミコトがここに住んで石田さんの代わりに屋敷の事をしたいって言ってきてるんだが……」
「ミコトが?」
桜は一瞬意外そうな表情をした後、俺とミコトを見比べ。
「……別に構わないけど」
少しばかり困ったような顔をして頷く。
「どした?何か問題でも?」
「問題ってわけじゃないけど……」
桜は不服そうに唇をとがらせて、俺とミコトを何度も見比べていく。
「……?」
ミコトも少し困ったような笑みを浮かべ、俺も桜が何をしているのか分からずにただその行動を見つめ続けて。
「……じゃあ、シンくんと相部屋ってことで」
そんなことをいきなり口走った。
「え?」
「なっ!?」
「別にかまわないでしょ?」
「おお、同じ部屋で寝るのか!?桜、それは……」
ミコトと俺が顔を赤くして声を上げたのは、運命の神様の悪戯化それとも悪魔の悪戯か……ほぼ同時であり、そのタイミングの悪さを俺は少しばかり呪う。
「ふ~ん……シンくん。夜はミコトさんの護衛をするんだ?」
完全に嵌められた……。
俺の部屋はあって無いようなもの……ミコトが俺の部屋で生活をしようと、俺は毎晩桜の部屋で過ごしているはずなのに……相部屋と言う言葉の魔力のせいで、俺の前頭葉はミコトと同じ部屋で過ごしている風景を想像してしまい……全身から冷や汗を垂らしながら、桜の方向に向き直る……と。
……笑顔。
桜は満面の笑みを浮かべてこちらに微笑みかけてくるが……、その拳は力強く握られている。
「え……あ、いや。その」
恐怖。
その言葉が良く似合う桜の笑顔は……言い訳も屁理屈も理論武装も一切受け付けない……。
目前にそびえるは、最高の単独発生結界……桜の世界……。
「シンくん?」
って下らないことを考えている場合ではない!?この空気はまずい……非常にまずい!
桜もなぜか殺気バリバリだし……ってかそれ以前に背後にいたはずのカザミネと長山がいないし!?
「…………っ」
と、桜は不意に拳を解き、殺気が消える。
「?」
「なぁんてね……シンくんが手を抜きも出しもしない人間だって知ってるよ」
少しさみしそうな笑みを作って桜は自分の椅子に座り、再びペンを走らせ始める。
「……桜?」
「部屋がないっていうのは冗談だよ、部屋ならいくらでも余ってるから好きなの使って。でも、今日は少しバタバタして疲れちゃったから、荷物運びとかその他もろもろは明日でもいい?」
「ええ、いきなり押しかけてごめんなさい。当主さん」
「ううん、ベストタイミングだったよ。みんなをよろしくね、ミコト」
「ええ、こちらこそ」
「じゃあ、ちょっと忙しいからごめんね。あぁ、後シンくん。今日は集中したいから身辺警護はしなくていいよ。しっかり休んで」
「え?」
「聞こえなかった?ゆっくり休んでね?」
「あ、ああ分かった。仕事を続けてくれ……失礼する」
「うん……じゃあね、シンクン」
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