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reve/heaven 03

03

「遅いね」


うきうきのわたしを待ち受けて居たのは、魔王の如く傲然たる態度で事務所のデスクに足を乗せながら椅子に座る一人の男。

相変わらずすらっと伸びた長い足が妬ましい。彼はわたしの務めるアルバイト先の店主である。名前はネヴィさん。その名から分かるように彼は外国人だ。肌が雪のように白いのは、生粋の日本人である黄色人種なわたしが隣に立つとさらに際立ち、まるで人間ではない「別の何か」なのではないかと錯覚してしまうほど。


ちらっと右にかけてある時計を見る。時間は長い針が十二を一分、そして忙しなく回り続ける細い針がちょうど四三を指したところだった。

…一分四三秒の遅刻。

もう一度彼の方を見やるといつもどおりのよく分からない、無表情にほんの少しの怒りを混ぜた威圧感のある顔をしたネヴィさんがわたしをじっと見ていた。今日も今日とて、彫刻品の様に端正な顔立ちなのが小憎らしい。自分は時間に恐ろしいほどにルーズなくせに、人には恐ろしいほどに厳しいところもまた憎たらしい。何と言うことか。まあ給料を払ってもらっている身なので文句は言えないのだが。それに、ほんの少しだけど、遅刻したわたしも悪いので。


「すみません。学校で少し友だちと話をしていて遅れました」


すると彼は凄惨に笑う。いや、ただ単に笑っただけなのだと思うが彼の笑い方は常人のそれとは幾らか違うのだ。笑う、と云う本来自分や周囲を穏やかにさせるための行為である筈のものは何故かとても圧迫感があり、むしろ笑わないでください、と涙目で懇願したくなるくらいにはデスパワーを秘めている。それに彼の微笑みはちっとも楽しそうじゃないのだ。作り笑いとも愛想笑いとも違うそれは、とにかく見ている人を不愉快にさせる要素がてんこ盛りである。わたしはこの笑顔が大嫌いだ。俗に云うイケメンと云う部類に真っ先に選出されるであろう顔立ちであっても、この笑顔はあまり見ていたいものではない。別の意味でドキドキしてしまう。命の危険を警告するベルのような胸の高鳴り。以前どこかで、その人物の性格がそのまま笑い方に出る、なんて話を聞いたことがあったのだがなるほどなるほど、それは納得である。

なんて、そんなわたしの心中を特に気にも止めることもせずネヴィさんは淡々と話を進めた。


「ふうん。まぁいいや。今日は御客様(ディッシュ)が来てるんだ。三十代を目前に控えたOLだよ。所謂アラサーってやつ?だから早く仕事着に着替えて」


「はい」


心なしか楽しそうにしているネヴィさんを見るのは久しぶりのことだ。長らくぶりのお客さまに、ここ二週間は部屋の掃除など雑用ばかりしかやっていなかったわたしも少しばかりの緊張感を覚える。

まあそうだろう、ネヴィさんの場合は。

久しぶりに「好物」にありつけるのだから。

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