reve/heaven 01
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「あの噂、流ちゃんは聞いたことありますか?」
「夢喰い悪魔のおみせの話」
「ここ最近その話で持ち切りですよねぇ」
「信憑性なんてちっともないし、私は勿論信じてはいないんですけど」
同じクラスでも同じ学年でも、ましてや同じ中学校でもなかった青山が言う。
知っている。というかこの学校の生徒で、毎日学校に健康に登校しているやつなら誰でも存じているだろう。
「うん。聞いたことはあるよ」
…夢を喰らう悪魔のおみせの話。
それはわたし達の通うこの私立定梅高等学校で、今最も耳にする言葉のひとつである。
なんでも、この世のモノとは思えないほど見目麗しい悪魔がヒトのみる「夢」を買取り、その者にこの世で一番の幸福を与えると云うなんとも胡散臭いことこの上ない店があるのだという、そんな話だ。
今やこの学校に通う者で知らない者は居ないと言われるほどの超有名な噂だった。
「流ちゃんも、信じてますか?」
「まさか。この世で一番の幸福を与えられるって云うの、何だか嘘くさくない?」
「…着眼点はそこですか。でも、そうですよねぇ」
「なーんでこんな嘘っぽさ抜群の都市伝説みたいなのが流行り出したんだか」
「うちの学校、これでも県内一の進学校なんですけどねぇ」
「真面目な人たちだからこそ、そういうのに心惹かれちゃうのかもしれません」
相変わらず独特のテンポで話す彼女はやれやれ、と笑っているのか呆れているのか、はたまたその両方なのか、なんだかよく分かりかねない不思議な表情をしている。
「しかしですねぇ」
「こう云った類の噂ってほとんどのところ『一番はじめの吹聴人』が居るわけでしょう?」
「当の本人はこんな話を流行らせて何がしたいのやら」
「ただの愉快犯ってやつですかぁ?」
うーん、それとも校内の風紀を乱すことによる定期試験への妨害?いやでも次の期末までまだかなり日にちはありますし、、、なんて考え込むあたり彼女は専らの真面目気質である。
さぁ?どうなんだろうね、と答えるわたしの声はまったく耳に入っていないらしい。
結局この邂逅は、「まぁ取り敢えずつぎの試験も頑張りましょうか」という青山の優等生さながらの発言で終わりを告げたのだった。